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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
救急箱、お家にありますか?
常備薬などが入っている箱です。
日本では、古くから富山の薬売りが有名ですよね。
いつの頃からか、薬を扱い、健康を養い、
癒しを与える仕事ができました。
大自然が、救急箱だった時代です。
では、今日も、お薬箱を開けてみましょう。

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お薬番号・47

「体内に宝石を作る薬」

錬金術が、当て所もなく流行していた時代には、
あらゆる怪しい手段で、
お金や財産を増やす方法が研究されました。
このお薬は、その中の一つです。
人間の身体の中に、宝石を作る。
それも、世界に二つとない、
不思議な宝石をです。
鉛や鉄屑を金に変える方法もすごいですが、
この方法もなかなかの突飛さですね。
しかし、このお薬は、完成しました。
記録も残されています。
ササン朝ペルシア全盛期の王であった、
フスラウ1世の御世は、
48年もの間、つづきました。
交易がとても盛んで、富み栄えていた王国です。
サパルティ・サランは、
この時代に生まれた博物学者であり、
天文学者であり、医者でもあります。
スルタンであるフスラウ1世は、
なかなかの良い統治者であったそうですが、
各国から珍しい品物が手に入ることが、
ほぼ、あたりまえであったお国柄のせいか、
世界のどこにもない珍しい産物が欲しくなったようです。
しかし、珍しい、美しい物は、
ほとんどが、他国の産物。
ぜひ、自分の王国から、
素晴らしい品物を産出したい!と、
名高い賢者であったサパルティ・サランに、
探求と開発を命じました。
サパルティは、たくさんの書物を読み、
エリュトゥラー海を長年航海している商人たちに、
片っぱしから情報を仕入れました。
そして、古代のエジプトに、
人間の体を使って、
世にも珍しい宝石を作ることができる薬があったということを
知ったのです。
サパルティは、居ても立ってもいられず、
エジプトへ旅立ち、5年の歳月をかけて、
伝説を辿りながら探究をつづけました。
そして、ついに、アレキサンドリアで、
処方の巻物を発見します。
サパルティは、帰国後、薬の開発に没頭し、
実験に次ぐ、実験を繰り返しました。
サパルティは、弟子に命じて、
すべての行程を記させていましたから、
残された書物には、犠牲となった検体の様子も、
事細かに記載されています。
この書物は、サパルティがアレキサンドリアで発見した、
処方の巻物と共に、王宮の宝物庫に保管されています。
では、調剤料をご紹介しましょう。

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「体内に宝石を作る薬」処方

アサフェティダのチンキ・・・・・・・小匙2杯
マヘナ蜜・・・・・・・・・・・・・・・小匙3杯
サソリ毒のシロップ・・・・・・・・・小匙2杯
親指大の胆石・・・・・・・・・・・・1個
真珠(金色)・・・・・・・・・・・・・1個
金塩・・・・・・・・・・・・・・・・大匙1杯
ガルガリゾー・シロップ・・・・・・・小匙3杯
マンナの果実汁・・・・・・・・・・・・1個分
ベネレイテ酒・・・・・・・・・・・・小カップ一杯
コブラの胆嚢・・・・・・・・・・・・1個
ウペレトの角末・・・・・・・・・・・小匙1杯

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諸注意
マヘナ蜜は、知る人ぞ知る猛毒です。
古代のアッシリアで、暗殺用に生育された蜜蜂から、
採集されたものです。
強毒性の花ばかりを集めた毒草園を造り、
そこで蜜蜂を育てますと、
凝縮された猛毒となった蜂蜜が採れるようになります。
蜂の子から、ローヤルゼリーはもちろん、
プロポリスも、ちょっとした熱で、
発火するほどの毒素です。
真珠は、酢で溶かしましょう。
金塩は、微粉末になるまで、
よく砕いてください。
コブラの胆嚢は、しっかりと影干しして使用します。

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備考欄

さて、いったい、身体の何所に作られるのでしょうか?
肝臓です。
処方されたお薬を一月間、服用を続けますと、
肝臓の中に、生成が開始されます。
記録によりますと、
色、形はさまざまで、
白く半透明で、七色の光を放ったり、
深く、澄んだ青や、真紅、目の覚めるような緑など。
一貫した特徴があるとすれば、
アルコールに浸していると、
アルコールを吸収して、
色が、変化するということです。
しかし、その美しさは、
見る者、すべての心を捉え、
時を忘れて見つめ続けてしまうほどであったとか。
一個のお値段は、まさに、王国一つ分。
親指大の大きさで、揺らめく炎のような光を秘めた宝石は、
それでも、買えないほど価値があるとか。
その上、この宝石には、所持する者を
玉座に座らせる運命を持たせると伝えられています。
さあ、それはいかがなものかと思いますが、
とにかく、素晴らしく美しく、
神秘に満ちた宝石であることは確かです。
ただ、記録に残されている失敗した例には、
恐ろしい報告が、克明に記されています。
肝臓すべてが、黒い石の塊になったり、
赤黒い石が、絶え間なく体内に産出されたり、
全身から、砂がさらさらと出始めたり。
まあ、自分自身で試すことはないでしょうから、
あなたが選んだ誰かが、もしかすると・・・。
成功したら、腕の良い外科医に頼んで、
摘出していただきましょう。
どうして、成功したのがわかるのかですか?
それは、検体が死亡するからですよ。

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