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ダイヤモンドはなぜ高い?デビアス社の怖いほどのマーケティング戦略

おはようございます。スモールビジネス起業の普及に努めているプロコンです。
抽象化された本質的なマーケティング戦略は数えるほどしかないですが、具体例をケーススタディとして事実を元に解説すると途端に無限のバリエーションが出てきますね。

今回は、ただ硬くてキラキラ輝くだけの石として有名なダイヤモンドのマーケティング戦略について話していこうと思います。
この記事を読めば、商品やサービスの価値を高め、価格競争から逃れるための知識が身に付きます。
そして、ダイヤモンドというキラキラ輝く石の周りにうごめく社会の闇についてもちょっぴり詳しくなれるでしょう。

78億円という高額で取引される硬い石ダイヤモンド

別名金剛石とも言われ、モース硬度10の地球上の鉱物で最も硬い石ですね。
これまでの最高落札額は78億円、すごいですね。

そもそもダイヤモンドがなぜこれほどまでに高価なのかご存じでしょうか?

今でこそ、”永遠の輝き”や”愛の象徴”などとして有名な希少鉱石ですが、実は過去にはその価値が暴落しかけたことがあります。強固なマーケティング戦略を用いることでそういった危機を乗り越え、今の希少価値があるのです。

そもそもダイヤモンドって何に使われてるの?

さっきからキラキラ輝くただの硬い石だと、何の役にも立たない様な言い方をしていますが実際用途は大きく分けて二つだけです(たったね)。

一つ目は皆さんご存じ装飾品、アクセサリーですね。
天然で最も硬く、キラキラ輝くことからめちゃくちゃ高価で取引されています。

二つ目は工業用、硬さや耐摩耗性、熱伝導性といった特徴から工業用でも多く使われています。
近年では人工的に合成されたダイヤモンドへの置き換えが進んでおり価格としては非常に安価です。カラットあたり10円を切ることも珍しくありません。

なので、今回は価値が高い装飾品用途のダイヤモンドについて話を進めていきます。

ダイヤモンド大鉱脈の発見により価格が暴落する危機に…

マーケティングを駆使する前から「キラキラしててきれーい!」と価格がそこそこ高かったダイヤモンドですが、1866年に南アフリカで大鉱脈が発見されるとあまりにも獲れすぎるがゆえに

「あれ、めっちゃ出てくるやん。この石ってそんなに価値あるの?」

という風潮になりかけていました。つまり暴落の危機です。
そんな中、ある一人の男が立ち上がります。
その名もセシル・ローズ、現在もダイヤモンド市場を支配するデビアス社の創始者です。

皆様にはこちらの方がなじみのあるかもしれませんね。

英国のアフリカ制服を象徴する風刺画
描かれているのがセシル・ローズ

ダイヤモンドの希少価値というのはセシル・ローズから始まったと言っても過言ではありません。

ロスチャイルドから出資を受け、デビアス社の前身となる会社を設立

陰謀論などでたびたび登場するせいで、本当にそんな財閥存在するのか?と疑われるロスチャイルド家から出資を受けてデビアス合同鉱山株式会社を設立します。

ロスチャイルド家からの資金を背景に次々とアフリカ大陸のダイヤモンド鉱山を買収し、独占していきます。この時、セシルローズはロスチャイルド家(大英帝国)のために鉄道・電信・新聞までも支配下におさめ、南アフリカ植民地の首相にまで上り詰めます。

デビアス社の最盛期には世界中のダイヤの9割を支配下に置いていました。

独占によってダイヤ市場を支配し、価格競争とは無縁の地位を築いていたデビアス社でしたが、1902年にセシルローズは亡くなってしまいます。
また、追い打ちをかけるように新たな大鉱脈が次々と発見され9割あったシェアは4割にまで低下してしまいます(それでも十分ですが)。

デビアス社の独占もこれまでか…ダイヤの価値は下がってしまうのか…と思われたその時、第二の重要人物が現れます。

それが、ドイツ系ユダヤ人アーネスト・オッペンハイマー。現在でも世界最大の金生産業者と言われる大企業アングロアメリカン社の創業者です。
オッペンハイマーは弱っていたデビアス社の筆頭株主になり会長の座につきます。

ダイヤモンドの価格を支配するためのえげつない経営戦略

オッペンハイマーは会長就任後、ダイヤモンドの価値を掌握するために次のような施策を考えだします。

1.「量が獲れるのは分かったが、流通させなければ希少なままでしょ。」と言わんばかりにダイヤモンド生産組合(DPA)を作り生産量の調整を実施。

2. 「ていうか鉱脈抑えなくても買い占めすればよくね?」と悪徳転売屋のような買い占めを実施。

3.「なんなら流通までやっちゃうわ」と流通を管理するダイヤモンド貿易会社(DTC)を設立。

4. 「流通したダイヤの販売まで管理しちゃおうか」と販売を管理する中央販売機構(CSO) を設立。

もはやマーケティングではなく経営戦略ですが、生産→龍柱→販売すべてを一気通貫でデビアス社が担うことになります。

こうして、生産量・流通量を自由自在に操れることになったデビアス社は当然ダイヤモンドの価格すらも自由自在です。
逆に言うと、生産量を絞り価値を高めなければダイヤモンドとはいえ価格が下がってしまうということです。

実際、1980年ごろにデビアス社による支配に反発したイスラエルが過剰生産した際にダイヤ相場は暴落しています。

最近では、2019年に過剰供給が続いたため5%の値下げが発生しています。

ダイヤモンドの価格を高めるためのマーケティング戦略

デビアス社は経営戦略だけでなく、マーケティング戦略も優れています。

1960年代後半、まだ、日本でデビアス社の名前が知られる前の事です。デビアス社は全世界で広告活動を行っていたのですが、そのマネジメント形式が独特で変わったものでした。ロンドンに本部があるのみで海外に支社を置いていませんでした。

その代わり、各国の広告代理店の中に”ダイヤモンド・インフォメーションセンター”という消費者向けPR部門と、”ダイヤモンド・プロモーションセンター”という製造・販売業向けPR部門を置いていました。そこで働く人は、広告代理店の社員でありながらもデビアスと契約して仕事をし、デビアスから給料が払われるという形式をとっていました。

つまり、デビアス社は当時からロンドン本部に居ながらリモートで各国の広告活動を行っていたのです。先進的ですし、郷に入っては郷に従えの精神を表したマーケティング形態とも言えます。

他にも、デビアス社のマーケティングは効率的です。
例えば、婚約のように人間の永遠の愛を表す世界共通のテーマであれば主要な国(アメリカ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアなど)が撮影した広告用写真をロンドン本部に一度全て集める。そこに各国の広告代理店が集まり自国で使えそうな写真をピックアップするのです。これは自国で撮影する予算がない国にとっては大変効率的でした。

また、外国のスタッフから見た日本をリサーチした結果を伝えることで日本人が気付いていない日本人の選好に気付くことができます。

例えば、
・儀式好き、生まれて七日目のお七夜にはじまりお宮参り、お食い初め、七五三、成人式、結婚式、還暦など節目節目で儀式をします。
・贈り物好き、お誕生祝、入学・卒業祝、就職祝、季節の贈り物など。
・本物志向、職人が作った本物を好む、ダイヤモンドは日本人の本物志向に合致する。

このように、郷に入っては郷に従えの精神を持ちつつ、内部では気付かない国民性や選好を外部からリサーチし、効率的なクリエイティブ作成などを可能にしているのがデビアス社でした。

この章の簡単なまとめ
・各国の広告代理店からスタッフを選ぶことで郷に入っては郷に従えの精神でマーケティングができる
・各国の写真素材などを集め効率的にクリエイティブ作成ができる
・内部からは気づかない国民性や選好などを外部から発見できる

ダイヤモンドが浸透していない日本に「ダイヤモンドは永遠の輝き」というスローガンを持ち込む。

当時からダイヤモンドという名前自体は認知されていたものの、1970年代の初め、婚約指輪を送る人はたったの50%、そしてダイヤモンドの婚約指輪を送る人はわずか7%でした(当時は婚約指輪を送るなら誕生石でというのが定番だった)。

そこでまず、愛=ダイヤモンドとポジショニングすることで、「ダイヤモンドは永遠の輝き」、「ダイヤモンドは愛の証し」という婚約キャンペーンのスローガンを設定しました。

ダイヤモンドの婚約指輪の相場はデビアス社が作った

デビアス社による婚約キャンペーンは成功をおさめ、ダイヤモンドの婚約指輪を送る人が増えてきた中で一つの問題が上がってきました。

消費者から「いくらの婚約指輪を買えばいいのか分からない」という声が多くなってきたのです。
このことをチャンスだと思ったデビアス社はリサーチの結果、新郎から新婦側に渡される結納金の額に目を付けた。

その目安は全国平均が男性の給料の2~3か月分であり、「婚約指輪は給料の三か月分」という有名な相場が出来上がった。
そして、このガイドラインは世界中で使われることになったが三か月分は日本のみでフランスは二か月分、南米の国は一か月分と大きな差がある。

つまり、デビアス社は日本での婚約指輪の相場を他国よりも高い水準にすることに成功したのです。凄くないですか?

1982年に発行されたブルータスの広告

1986年に発行されたブルータスの広告

ちなみに、「婚約指輪は給料の三か月分」というガイドライン、当初は広告の中でさりげなく伝えていました。
それが、郷ひろみと二谷友里恵と結婚する際に婚約指輪の値段を聞かれた際に「給料の三か月分です」と照れながら答えたことから一般常識として広がっていきました。

ダイヤモンドと愛の概念を結び付けることで不変的な価値の基盤を作る

また、デビアス社はダイヤモンドのブランドを永遠にするため、単なるファッションの要素として扱われることを徹底して避けました。
ファッションは流行があり、時代によって移ろうものだからです。

デビアス社はダイヤモンドを愛という不変の概念と結びつけることに注力することで時代によらずダイヤモンドの価値を維持する基盤を作りました。

何の役にも立たないダイヤモンド、しかしダイヤモンド=愛というブランドバリューがあることで世代を超えて受け継がれていきます。

愛とダイヤモンドの結びつきはデビアス社が行ったマーケティング戦略の中でも最も価値のあるものだとプロコンは考えています。

世界有数のマーケティング企業、デビアス社から学べるビジネスの本質

なんの役にも立たないダイヤモンドを世界中に広め、価値を高めることに成功したデビアス社は世界最高峰のマーケティング企業といっても過言ではないでしょう。

そんなデビアス社から学べることを簡単にまとめました。

・ビジネスのフェーズを一気通貫で握ると強い(サプライチェーン独占の原理)
・過剰供給になるとダイヤモンドですら値段が下がる(希少性の毀損)
・競争が発生すると値段が下がる(競争の原理)
・不変的なイメージと結びつけることでブランドバリューを永遠のモノに(ブランドエクイティの創造)

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参考

デビアス社のマーケティング戦略についてはこちらの本を参考にしました。面白いです。

https://kinkaimasu.jp/lounge/2019/11/25/debeers/

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