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ドラムスティック遍歴のコーナー!!(2)

ありそうでなかったドラムスティック遍歴。激動の第2回。

進学先の私立高校には、残念ながらビッグバンド部がなかった。吹奏楽部の雰囲気はそれまでと全く違っていて、何から何まで我流で通してきた主宰に厳しい声が飛ぶ。なんだそのあんこ色の木の棒は。音が硬い。痛い。重い。柔らかくて軽くて大人しい木の棒を探しに楽器屋へ走る。相変わらず我流。言われっ放しはさすがに腹が立つので、せめてもの抵抗。

中学時代になかなか手が回らなかった奏法の部分にも、容赦なくテコが入る。叩いている時間よりも怒られている時間の方がずっと長かった。音楽は先輩後輩の関係ないクリエイティブな世界だと考えていたが、段々と権威主義が場を支配し始めていくのを感じた。そもそも音楽で勝ち負けを決すること自体にそれほど感情移入できない自分がいた。

ドラムを叩く機会は滅法減った。高校のデビュー戦が文化祭に決まる。合奏中しきりに言われるのはお馴染みの台詞だ。硬い。痛い。重い。頭に技術が追い付かず、操られているかのように軽量モデルばかり選んで買っていた。いわゆるティアドロップ型チップ。打面との角度の違いで音色に相当な幅が出せるモデル。それでも硬い。痛い。重いの言葉は鳴り止まない。

2年の夏、行進曲でスネアを叩くことに決まった。楽器屋を虱潰しに歩いて一番軽いモデルを手に取る。硬い。痛い。重い。の幻聴を振り払うには他に方法がなかった。ドラムを始めて5年が経ったというのに、まだ頭に技術が追い付かない。ひたすらに嵐が過ぎるのを待つような感覚。愚痴っぽくって本当に申し訳ないのですが、この3年間は今振り返っても相当苦しかった。

3年間苦しんだ分、大学で一気に花開く感覚を味わうこととなるのですが。その足掛かりになったのが、このスティックとの出会いです。木の棒木の棒とさんざっぱら書いてきましたが、紛れもなく自分らしさを表現できる「スティック」を手に入れた。そういう感覚がありました。後の大学時代の主力そして現在も使用しているのがこちらです。

Joe Porcaroとのコラボモデル。敬愛する沼澤尚氏の名前も印字されてます。正確には現存のナイロンチップモデルの前に、ウッドチップのモデルを使用していました。残念ながらほぼ流通されていませんが本当に素晴らしい作品でした。もし自分にシグネイチャーモデルの製作依頼が来たら、主宰は必ずウッドチップモデルを復刻させます。それほどの出来。

ダイヤモンド型。世にも奇妙な五角形のチップを採用してます。打面に対し鋭角にも鈍角にも切り込めるので、音色の可能性は無限大。音を均一に保つのが非常に難しいとも言い換えられそう。まずこの二面性に惹かれた。弱点を逆手に取ったりストロングポイントが仇になったりするのが音楽の奥深さだと感じていたので、これ以上ない武器を手に入れたという印象。

人生初のナイロンチップにも手を出してみましたがウッドチップに出せない独特な音の輪郭を生むだけではなく、シンバルに浸透圧が加わってより音楽そのものに溶け込める感触を覚え非常に感動したのを覚えています。単純にチップが欠けないというだけで相当メリットがあるかもしれません。頻繁にお目にかかれる訳ではないですが、見つけた際は是非試奏のほど。


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