私の場合、白杖を持つまで、7つのポイント
1. 視覚障害、難病との出会いの巻
私の視覚障害との付き合いは、約20年前に特定疾患のベーチェット病という病気発症により視覚に障害が生じ、視覚障害6級を取得した時に遡ります。この病気は難病指定、つまり原因が不明で、人によって症状の出る場所が全く異なりますが、自分の場合は、眼の網膜(正確にはその中のぶどう膜という部分)に繰り返し炎症が起きる「眼症状」と脳に炎症の起きる「神経病変(神経ベーチェット)」の2つです。
興味のある方、詳しくお知りになりたい方はこちらの「難病情報センター」のリンクをご覧ください。
ベーチェット病
どちらも、あまり良いものではありませんが、とりわけ眼の網膜に繰り返し炎症が起きる「眼症状」によって私はどんどん視力を失っていく事になります。
闘病に関しては、また別の機会に話すとしますが、発症当時の20年近く前に医師に勧められるままに視覚障害6級の身体障害者手帳を取る事になりました。
障害の級数で言われても,ピンと来ない方が大多数だと思われますので、本当に軽く説明させて頂くと、
1級から6級まであります。
計算方法が非常に難しいのですか、ざっくり言うと級数の少ない方が障害の程度が重く級数の多い方が、障害の程度は軽いものです。
医師の診断書を持って役所に提出に行くと無料で白い杖を渡されました。考えると、20年前の白杖の重さと太さは現在の視覚障害者用のステッキの10倍位の重みと太さでした。持ち運びも大変面倒でした。
2. 低下する視力と無頓着過ぎた自分の巻
その間、私の視力は、どんどんと落ちて行きましたが、障害者の知人などもいなければ、コミュニティにも属する事も無く、全くもって私は障害について無頓着でした。
見えないと言えば見えないし、かと言って見えるわけでもなく、かえって自分の様な軽症の障害者が白杖を持つ事自体、全盲の方に対して失礼なのではないか、と思い、私は貰った白杖をほぼ使う事なく日々を過ごしていました。
眼の網膜に繰り返し炎症が起きる「眼症状」は、13年位前に私の病気に対して初めて東京大学で研究費として投与された新薬によって病気の勢いは抑えられました(現在は保険適用)。それ以降「眼症状」は起きなくなり病気による視力低下は止まりましたが、不思議と視力が低下していきます。医師に尋ねたところ、過去に強い「眼症状」を繰り返し起きた人の網膜は、どんどん萎縮し、次第に視力を失うのだそうです。私もその一例で、徐々に視力が低下していきます。
ただ、何かアクションを起こす事が無かったのは、あまりにも病気の進行が早すぎて、視覚障害を抱えて何をしたら良いのか、準備する暇も無かったのが実情です。
3. 一気に飛び級をし、強いカードを手にするの巻
そんな数年前のある日、私は、何を思ったか、試しに今の身体障害の等級数は合っているのか、一体どれくらいなのか、半ば興味本位で、調べてもらう事にしました。いつもより複雑な視力検査、視野検査が終わり、その数値を総合的に計算する専門医師に診断書を書いてもらいます。
その時までは私は視覚障害の等級はそんなに変わっていないのではないか、とタカを括っていました。約30年前に使い始めたMacintoshですが、視力低下の始まった20年位前から変わらず使っている、画面を拡大表示するショートカットを使えは眼を使う仕事も出来ているし、音さえ聞こえればレコードも回せるし、書類はルーペを使って拡大すれば良いし、駅も普通に歩いている「つもり」で、視力検査をする時位しか何の変化も感じませんでした。
しかし、一か月後、医師から提出された診断書を見て愕然としました。
そこには「視覚障害2級」と書いてあります。今まで自分ライトな「6級」だとばかり思っていたのに一気に弱いカードから、強めの「2級」カードを手にしたのです。
障害手帳用に撮った証明写真。
友人に見せたら、この写真の人はコロンビアで麻薬を輸出してる人だね、と笑われました。ひ、酷い(笑)。でも似てるかも。
4. 友人が繋げてくれた視覚障害の友人との出会いの巻
しかし、まだどうして良いのか分からない状態が続いた日々を過ごしましたが、ひょんな事から近所に住む親しい友人の計らいで、視覚障害者の友人を紹介してもらいました。
彼は自分とは違う視力が衰えていく難病を患っております。
初めて、彼と出会った時、彼は可愛い盲導犬のワンちゃんを連れていて、話を進めていくうちに彼もまた「視覚障害2級」だという事を知りました。
そこで彼に自分が白杖を持たずに生活している旨を話すと、
「チャレンジャーですね。」
と言われました。その時は自分が勇気がある、と褒められた様な気持ちでいましたが、程なくして彼とランチをする機会が与えられ、彼との会話の中で自分の認識の甘さを痛感しました。
近くのファミリーレストランで待ち合わせしてお話しを始めました。
彼は実に、アクティブかつクレバーな人で、実際ヨットに乗ったりゴルフをしたり驚く事が多かったのですが、特に障害に関して深い洞察力を持ち尚且つ知識や知恵が豊富で、障害者が受けられるサービスや権利について非常に詳しく、私は眼から鱗が落ちる思いで話しを聞いていました。そして白杖を持たない事で、自分だけでは無く他人にも危害を加えてしまう可能性がある事や、白杖は全盲の人だけが使うものではない事を教わります。そして彼が最初に会った時に、
「チャレンジャーですね。」
と言われて、何だか褒められているような気分になった自分を恥じました。
彼はこうも教えてくれました。障害に関して受けられるサービスや権利は一人で把握する事は非常に難しく、自分から尋ねていかないと向こう(行政)から歩み寄ってはくれないから、人を頼った方が良い場合もあるよ、と。
実際に「視覚障害2級」の手帳を交付された際に、「障害のしおり」という受けられるサービスや割引きになるものが細かく書かれた冊子を受け取ったのですか、まぁ〜、文字の小さい事。
視覚障害者がこんなの読める訳ないだろっ!
と心の中でツッコミを入れておりました。こういうところは我々が直接声をあげていかないといけないんだな、思いました。
5. 白杖を持つ決意とそれを手にするまでの巻
とまぁ、彼のお陰で、私は白杖を持つ決意が出来ました。ですが、まず何から始めたら良いのか分からず、彼の教えてくれた「日本点字図書館」という視覚障害者を対象にした施設に電話をしてみました。すると親切な女性が電話口に出て自分がどういう場面で白杖を使うのか、を細かく聞いてくれます。
自分はある程度は漠然と見えているのですが、急に飛び出して来る自動車、自転車や人に咄嗟に対応出来ません。歩行している際に他者に視覚障害者である事を知ってもらうにはどうしたら良いか、困っている事を話します、すると、「シンボルケーン」というものが良いのではないか、と勧められました。これは実際に杖で地面を叩いて何か目印を探す目的ではなく、持っている事で、自分が障害者である事を表明出来るものという事でした。そして、人の混雑してる駅やホームで危ない目にあったことはないか、階段を降りる際に最後の段が見えなくて危ない思いをした事はないか等等、勿論プロフェッショナルだから当たり前ですが、よくそんなに初めて電話で話している自分の事が分かるなぁ、と思う様な事を沢山尋ねてくれます。そして身長などを聞かれて、まずこのサイズのこれが良いのではないか、という白杖を選んでくれ、その見積もりを作ってくれます。数日待つとその見積書が郵送で送られてきました。かなりスピード感は早いです。
それを持って障害福祉センターに行きます。(この名称は市区町村によって違うと思われますので、福祉科の窓口でお聞きになるとどこに行けば良いのか教えてくれると思います。)。見積書を提出して後は市区町村が日本点字図書館にお金を払ってくれて、少し待つと白杖が届きました。
うわー、軽い、
しかも折り畳みが出来てコンパクトになる!
20年前に、役所で配布された重くて太くて収納に困ったような白杖とは、えらい違いです。そりゃあ、20年経てば、色々なモノは進化する筈ですね。
※因みにこの「日本点字図書館」では、音声時計、拡大ルーペ、ラジオ他、様々な視覚障害を助けてくれるグッズが沢山あります。公費で賄えるものも数多くありますので、視覚障害者の皆さんで日本点字図書館をご存知ない方は是非アクセスしてみてください。
日本点字図書館
https://www.nittento.or.jp
(日本点字図書館内)わくわく用具ショップ
http://yougu.nittento.or.jp/sm/index.php
6. 白杖を取り巻く課題の巻
となると、使って外に出たくなりますよね。(まぁ、今はコロナ禍真っ只中なので、今の話ではありませんよ。)勿論目が良くなった訳ではないのですが、幾分混雑した駅などではある程度の安心感は与えられます。また、たまに駅のホームに佇んでいると、
「何かお手伝い出来る事はありませんか?」
と声を掛けてくださる方がいらっしゃる事も分かりました。とてもありがたい事です。
しかし一方で課題も見えてきました。実はこの白杖、認知度がそれほど高くはありません。
ある近くのコーヒー・スタンドさんでこの白杖を持ってコーヒーを飲んでいた時の事でした。ある方が、
「それはお洒落か何かで持っているの?」
と尋ねて来ました。勿論丁寧にご説明しましたが、まぁ、確かに自分の白杖には部分部分に赤や黒が入っているので「純粋に白い」白杖では無いのです、尚更かも知れません、
でも、あぁ、こういう風にいちいち説明をしないといけない、と考えると、持つ事を面倒に思う視覚障害者の方も多いのだろうな、と思いました。
白杖を持っている人は、全盲の方だけではない事を是非皆さんに知っていただきたい、と強く思います。
それから、効果的な持ち方を誰も教えてくれないところがネックです。自分は始め、身体と垂直に杖を持っていましたが、その様な持ち方だと、余程注意を払ってくれている人でないと白杖を持った自分を認識してもらえません。試行錯誤の結果、身体と杖を30〜45度位前に持つようにしてみました。そうすると相手も当然邪魔な訳ですから、必然的に人は避けてくれます。しかし、ここでも、経験に基づいた杖の正しい持ち方を教えてもらわないと、ただでさえ認知度の低い白杖、持っている意味があまり感じられないな、と思うのが実際のところです。
と、まぁ、自分も白杖を持つまでに約20年はかかりました。それは障害者だと見られたくない、どこか健常者のように振る舞いたいと思う部分もあったのかも知れません。
しかし、持つと持たないでは気持ちの面で大分安心感を得られる事も分かりました。
※あとは白杖を持つと必然的に片手が塞がるので、荷物はショルダーかリュックタイプがお勧めです。自分はデカいスポーツ用のリュックを持って、お店等で着席した際にサイドポケットに白杖を折り畳んでいます。障害者で割引き等も受けられる事が多い代わりに、障害手帳の提示を求められる場合も多いので、自分はリュックのフロントポケットに入れて出し入れしやすいようにしています。
おいおい、白杖を持っているんだから、障害者なのは分かるだろっ!と心の中では毒づいていますが。
7. という訳で
白杖を持つ事をためらっている視覚障害者の皆さん、視覚障害者が側にいる方々、そして白杖の事をあまりよく知らない方には是非私の拙い経験を通して白杖について知ってもらえると幸いです。
※視覚障害者が白杖を使う事は道路交通法第14条(目が見えない者、幼児、高齢者等の保護)に規定されています。
以下、道路交通法リンク。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335AC0000000105
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