見出し画像

身の丈に、しなかやに。 | 「制約の社会」で生まれたアートと音楽の強さ

6月に入ってから、都内の美術館・博物館の開館規制が緩和されて、仕事や予定の合間をぬって、楽しみにしていた展示に足を運べる機会ができました。

東京現代美術館で実施されているライゾマティクス展は規制前に観にいくことができたのですが、それ以外はGWに行く予定だったので観れず。そういう方も多かったのか、東京国立博物館の鳥獣戯画展は、予約が再開してすぐにアクセスが集中しすぎて一時販売停止になっていたらしいですね。さすが国宝。

この、文化芸術に関わる施設への休業要請という制約に対する一連の動きについては、「アートは不要不急なのか」ということがtwitterをはじめSNSでも大きな議論になりました。ということで、今回はなかなか明けないこの『制約の社会』で、うまれたアートと音楽についてお話しできればと思います。

『制約の社会』で何を失ったのかを考え続ける

偶然にも私の友人がディレクターを務めた、落合陽一さんの番組「ズームバック×オチアイ 【アート論】」でもまさにこの話が話題に。

【アート論】の回では、当時休館中だった森美術館の企画展「アナザーエナジー展」の会場にて撮影が行われ、昨年1月から森美術館の館長に就任された片岡真実さんをゲストに、落合さんとの対談形式で放映。(あいにく昨日が最終回だったのですが、まだNHKオンデマンドで観れるようなのでぜひ。)

これを拝見して私が最初に思ったことは、「アートは不要不急なのか」の答えそのものよりも、この制約続きの世の中で「私たちは何を失ったのか?」ということと、そして従来と同じやり方では取り戻せないとなった時に、「どうやって取り戻していくのか?」ということを、「アートは不要不急なのか」という議論を通して考え続けることが大事なのかもしれないということでした。失ったものとして、落合さんは「テレビ会議には質量がない」と、片岡さんは「エネルギーが伝わらない」と表現されていました。お二方と近い表現にはなりますが、私にとってのそれは「有機的なかかわりあい」になる気がしています。

カオスな世界でこそアートは活性化する

そんな片岡さんと落合さんとの対談の中ではっとさせられたのが、「混沌とした、制約がある社会であればあるほどアートが活性化していく」というお話。

特に印象的だったのは、"Art of GAMAN"展の例。1940年代前半、強制収容所に収監された日系アメリカ人が、収容所内で制作した作品の展示会で、2010年にアメリカ・スミソニアン博物館にて開催され反響を呼んだものだそう。"Arts of GAMAN"というタイトルが強烈ですよね。日本では、2012年に東京藝術大学美術館にて「尊厳の美術展-Art of GAMAN-」というタイトルで展示が開催されていました。

ちなみに、美術手帖が配信しているSpotifyのpodcast番組「instocial by 美術手帖」の【アートと社会】回でも、片岡さんはこの「アートと社会」の関わりについてお話をされているので、放映を観た方も観てない方も、あわせて聴かれるとよりおもしろいかと。

聴けば聴くほど片岡さんの芯の強さが伝わってくるのですが、印象的だった点をひとつ。 

ズームバック×オチアイの番組内で放映された場面のひとつに、海外アーティストが来日できない中、テレビ会議で作品のパーツの位置をアーティストが指示し、現場にいる方が試行錯誤してセッティングを行なっていく、という場面がありました。

これを観た直後のわたしは「そうかー、享受側の立場しか考えてなかったけど、たしかに提供側の準備・設営めちゃめちゃ大変やなあ。すごいなあ。アーティストの感性、伝えたいニュアンスが、”本来”との、ほんのちょっとした違いで変わってきてしまうんだろうし、、」と視野の違いに感服状態。

一方で、片岡さんはこれに対して「作家がそこにいること以上に超えられることはない」と前置きした上で、このように仰っていて。

「インスタレーションをはじめとした空間芸術は、アーティストの没後の再展示を考えたときに、長い目で見ればいい訓練になっているのでは。」

視野の違いどころか、もう何歩も先を歩いていて。また感服してしまいました。

「そこにいなければ体験できない展示」を。|『制約の社会』で生まれたアート

片岡さんは、この社会情勢を踏まえて、森美術館の館長として「だからこそ、美術館としては『そこにいなければ体験できない展示』を行なっていかなければ」とお話しされていました。

そこにいなければ感じられない音や空気感、素材の質感、サイズ感、、。まさにそれを感じたのが、先日まで森美術館スカイビューで開催され、落合さんも出展されていた「Media Ambition Tokyo 2021」。中でも「そこにいなければ体験できない展示」という観点で、感銘を受けた作品をいくつか紹介します。

演ずる造形
東京藝大出身の、同世代である小野澤峻さんの作品。作品についてはご本人が映像とあわせて解説されているのでこちらをご覧いただくことをおすすめしますが、「コントロールできないものとどう向き合えばいいのか」という一文と、後半にかけて球が衝突していく様子をみて、私たちの世界そのものだなあと感じた作品。

Fragment Shadow
ビジュアルアーティスト比嘉了さんとソニーCST研究所笠原俊一さんの作品。複数のプロジェクターから投影される映像に、体験者の影が作品の一部として組み込まれていく作品。見る人、同じ空間にいる人によって変容する、画面一枚挟んでは成立しないなと感じた作品の一つ。

HUMANITY
六本木ヒルズ森タワー前広場「66プラザ」で、自分のスマートフォンを使って、実際にAR体験ができる作品。プレステのシミュレーションゲームをベースにしたプロジェクトのようですね。私も実際にやってみたのですが、ルーフから大量の人が降りてくる様子や、空中を浮遊している様子がとっても奇妙で面白い作品でした。

HUMANITYについては、もう一つ違う視点からもおもしろいなと思った点がありました。それは、片岡さんが就任された直後に語られていたビジョンについて。

片岡さんは当時「森美術館は六本木ヒルズの53階という高層に位置するが故に、日常と現代アートとの距離を感じさせてしまっている」ということを語られていました。HUMANITYはそれを打開しているというか、日常とリンクさせる機能を持ったアートというか、あくまで私たちが普段生活をしている「日常」にアートを"降ろして"きているのが、この片岡さんの話と繋がってとても印象的でした。


『制約の社会』で生まれた国内アーティストの音楽

音楽業界も、ライブやフェスの規制により大きなダメージを受けた業界の一つ。その損失は計り知れないものの、発想を転換すれば、ライブやフェスができないからこそ費やせた制作時間や、それにより生まれた作品もあるのでは(これはあくまで推測かつ結果論ですが)。そこで今回は、1年半続くこの『制約の社会』の中で生まれた、国内アーティストに限った楽曲の中から、元気の出る曲をプレイリストにしてみました。一部のアーティストを紹介します。何年か先で「あの数年は本当に大変だったけど、歴史に残る名曲揃いだった」と言われていてほしいし、そうなる気がします。


中村佳穂 『アイミル』
来月公開される細田守監督最新作「竜とそばかすの姫」で、主役の声優をつとめる中村佳穂さん。さらにこの映画のメインテーマである、millennium parade(後述します)の楽曲『U』でボーカルとして参加されることでも話題ですね。そんな中村佳穂さんの最新曲。デバイス一つ挟んでしか繋がれない今の世界で、熱量がそのデバイスを超えてくる、パワフルさが圧巻です。

WONK 『FLOWERS』
香取慎吾さんや和田アキ子さんへの楽曲提供で話題になっているWONK。大手レーベルに所属せず、アーティストが自分自身でレーベル「EPISTROPH」を経営しているところもおもしろい点。メンバーそれぞれが様々なアーティストに楽曲を提供していたり、各々が、会社に勤めるサウンドエンジニア、芸術教育プロジェクトの主宰、シェフとして活動されていたりと、非常に多彩で知的なアーティスト集団です。多幸感溢れるこの最新曲は、この制約の社会下でとても響くのではないでしょうか。

millennium parade 『Bon Dance』- THE MILLENNIUM PARADE より
King Gnuのギターボーカルである常田大希さんが率いる音楽プロジェクト。King Gnuメンバーや、前述したWONKのメンバーをはじめ、星野源さんやくるりの楽曲にも参加している石若駿さんや、常田さんの実兄であるバイオリニスト常田俊太郎さん、WONKと同じレーベルEPISTROPHからMELRAWさん、などなど今の音楽シーンの最前線で活躍するメンバーが勢揃いしています。そんなプロジェクトから昨年リリースされたファーストアルバムより一曲。

Kan Sano 『Natsume』
独立系レーベル「origami PRODUCTIONS」に所属するKan Sanoさん。origami PRODUCTIONSは、コロナ禍になってすぐ、所属アーティストの楽曲のステム・パラデータ(ギターのみの音、ボーカルのみの音、など、楽器・サウンドごとに、それぞれに保存したデータのこと)を無償提供したことでも話題になりました。Kan Sanoさんは、かの有名なアメリカ・ボストンの音楽大学「バークリー音楽院 (Berklee College of Music)」の卒業生。東京藝大やバークリーなどで、音楽をアカデミックに学んできた若手アーティストがポップスを牽引しているのも、今のシーンの着目点ですね。

EPISTROPHやorigami PRODUCTIONSなど、インディーズレーベルには、大手レーベルではないからこそアーティストがやりたいことを極力フィルターを減らしてエンドに届けられるという側面もありますし、大手レーベルではなくても、いい音楽が多くの人に届く社会になってきたというのは肯定的な気がします。(かくいう私も圧倒的に享受者ですが。笑)

坂東祐大 『♯まめ夫序曲』 / STUTS『Presence Ⅲ』
最近話題のドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」から、坂東祐大さんと坂東さん率いるEnsemble FOVEによる「♯まめ夫序曲」と、STUTSさんのPresenceから「Presence Ⅲ」の二曲を。坂東さんは、先ほど挙げた細田守監督の「竜のそばかすの姫」の劇伴もつとめられていますし、STUTSさんは冒頭お話ししたズームバックオチアイの音楽を手掛けられていますね。「♯まめ夫序曲」には、「シ♭ーソ♭ シ♭ララ♭ソ♭」というマーチっぽい特徴的な旋律がありますが、ここの部分はPresenceでサンプリングされ冒頭「ド♯ーシ♯シラ ド♯ー」という印象的なイントロ、曲中のループにつながってますね。(わたしもこのYoutubeをみて、序曲→Presenceの順でサンプリングされていたことを初めて知りました)


全部を紹介できなかったですが、そのほかにもkiki vivi lilyや、Tempalay、Breimen、Ryohuなど、この制約の社会の窮屈感を吹き飛ばすような熱気の高まる楽曲を集めたのでぜひ。Ryohuさんのアルバム「DEBUT」アートワークは、millennium paradeでのアートワークを手がけるクリエイティブ集団PERIMETRONが担当していますし、楽曲についてはTempalayのAAAMYYYさんやWONKの荒田洸さんも楽曲提供されています。つながりますね〜。

プレイリスト|cheer up 2020-2021


この記事が参加している募集

振り返りnote

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?