見出し画像

【vol.1】 作家・ 江戸歩き案内人 黒田涼さん 「日本の今の暮らしは江戸時代から始まった」

 2009年に上梓した『江戸城を歩く』を皮切りに13冊の書籍を出版してきた黒田涼さん。江戸の街の構造から江戸城、大名屋敷、寺社、街の変遷、軍用地跡、細道など東京23区内のあらゆる歴史痕跡に精通し、カルチャーセンター講師、NHKはじめテレビ・ラジオ、新聞、雑誌などの媒体でも活躍。現在、ガイドツアーや番組のロケなどはコロナ禍の逆風にさらされながらも、デジタルを駆使した〝まち歩きツアー〟など新たな挑戦に向かっている。

 作家デビュー作となった、東京に点在する江戸城の痕跡を12の地区に分け、実際に歩いて解説した『江戸城を歩く』(祥伝社新書)。会社員時代の自転車通勤で毎日江戸城を見ていて、東京に残る江戸の姿を探し出す楽しさにハマったことが執筆のきっかけとなった。以来、『東京名所 今昔ものがたり』(祥伝社黄金文庫)、『おれの細道 江戸東京狭隘路地探索』(アートダイジェスト社)、『美しいNIPPONらしさの研究 私たちが誤解してきた和の伝統』(ビジネス社)、『江戸・東京の事件現場を歩く』(マイナビ出版)など、「江戸」をテーマとする様々な著書を刊行。現在、14冊目の著書『川から読みとく日本の歴史(仮題)』(6月出版予定)を執筆中だ。

独立し、作家への転身

 大手新聞社で記者などを16年勤め、40歳で早期退職の道を選んだ。
 Windows 95が発売され、日本の「インターネット元年」と呼ばれた年、勤務先新聞社のデジタル事業部に配属になり、インターネットの分野でも活躍。新聞と比べ取材も企画も自由度が高く、表現形式もテキストと写真以外に動画もテスト的に配信できるなど、大いにやり甲斐を感じていた。そのままデジタルに骨を埋めるつもりが2000年、再び新聞の部署に異動になり、その後退職。デジタル系ベンチャー企業の新事業の編集長、新聞社の子会社の編集長を歴任後、作家として独立。今年で丸10年になる。

 「30代で仕事に自信をつけて、まったく新しいことにチャレンジするには40歳が限界と思い、早期退職してネット系ベンチャー企業に移った。そして50代ではとにかく好きなことをやっていこうと」

 50代に差し掛かる手前に、先の作家デビュー。それを機に「江戸歩き案内人」としてガイドツアー講師、テレビ番組やラジオ番組の出演依頼が増えていく。
 「中でも自慢なのは、『タモリ倶楽部』でタモリさんを案内したこと」。夏目三久MCの深夜番組にも3回出演し、「夏目さんにトークを褒められ舞い上がりました(笑)」

臨場感あるバーチャルまち歩きツアーを模索

 そんな中でのコロナ禍、テレビ出演とガイドツアー講師の仕事は激減。必然的にガイドツアーはバーチャル、リモート、YouTubeなどに乗り出さざる得ない状況にある。もちろんデメリットばかりではない。

画像1

【写真】江戸城の遺構散策で参加者に解説中の黒田涼(東京都千代田区)

画像2

【写真】大手デベロッパーのイベントでトークセッション中の黒田涼(東京都港区)

 「今までの〝まち歩き〟は、その場・その時間に集まってもらわなければいけなかった。働いている人は平日昼間のツアーなど参加できない。天気に左右される場合もある。その点、リモートは時間も天気も選ばないし、場合によっては遠く離れた海外からも参加できる」
 こうした状況でバーチャル、オンラインのスキルが一層求められている。「現場に行け!」「電話で確認しろ」と言われ続けた新聞記者時代、「もちろんそれは大事だけど、今はデジタルなツールでさまざまな情報を得られる。というよりむしろ人と会えない分、ツールを使いこなし、ツールから知恵を得ないといけない。そこで行き詰まらない柔軟性が必要」

 江戸時代については多くの文献が残っているため、より具体的な正確性が求められ、検証が必要になることも多い。だが、大手新聞社時代のスキルで、少しでも怪しいと感じたらすぐに調べる癖が染みついている。検索するにも「キーワード」をどう発想するか、そういう広い知識がノンフィクションでは役に立つ。例えば、池の大きさや城の面積を測って裏取りする際、グーグルマップの距離を測る機能にはずいぶん助けられている。

日本の今の暮らしは江戸時代がベースに

 図らずも江戸時代をテーマにし続け、活躍の幅が広がった。
 徳川家康がいなければ今の日本はない。仮に家康が存在しなかったとしても、時代的に家康のような人は出てきただろうと考える。「歴史の必然っていうのかな」

 「畳の部屋、瓦屋根、木綿の服、1日3食、お米が主食で出汁を取ったお味噌汁、そして日本語も、日本の今の暮らしはすべて江戸時代から始まった。個人的に、歴史は江戸時代から始めて現代までを学んだ後、過去に遡って学ぶのが一番いいと思っている」

作家に独立後は、会社員時代に味わったことのない大変さも当然あった。だがチャレンジしなければ、願いが叶うことはない。2019年12月から続けているnoteでの連載(160回)も同じ。継続は力なり。努力が実を結ぶことを信じて挑戦し続けている。
(2021年3月1日)

\黒田さんひとくちコラム/
 感染症「COVID-19」が大流行している現在だが、幕末から明治にかけて流行った感染症はコレラとペスト。江戸時代の大半、コレラ、ペストは日本にはなく、当時の感染症でもっとも問題だったのは梅毒で、次が天然痘だった。「当時は罹ったら神頼みしかなく、病気の種類に応じた専門の神様がいた。一口(いもあらい)稲荷といえば天然痘の神様。神社の流行り廃りを見ると、当時の時代背景が見えてくるのも興味深い」

【PROFILE】
黒田涼(くろだ りょう) 1961年、神奈川県生まれ。1985年早稲田大学政経学部卒。大手新聞社で記者を16年務めるなど編集関係の仕事に携わり、2011年に作家として独立。特に江戸・東京23区内に詳しく、文章や「江戸歩き案内人」としてのガイドツアーで紹介している。江戸・東京の土地利用の変遷・江戸城・大名屋敷跡地・神社仏閣・旧軍用地・事件現場など様々なテーマで著書を出している。「江戸城天守を再建する会」顧問。著書に「新発見!江戸城を歩く」(祥伝社新書)など多数。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?