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ちょっと変わった読み方で 『ツミデミック』一穂ミチ / 著 を読みました。


 第171回直木三十五賞の発表があった2024年7月17日の翌日、わたしは通いなれた図書館のカウンター前にいた。

 昨日の夜、お風呂上がりに腰に手を当て炭酸水をグビッと飲みながら そうだ今日は直木賞の発表だと思い出した。そのままスマートフォンで選考の結果を検索。すると、未読であった一穂ミチさんの『ツミデミック』が受賞作に決まったと発表されていた。

一穂ミチさんといえば『スモールワールズ』・『パラソルでパラシュート』(←お気に入り!)・『砂嵐に星屑』など近年読ませていただいているから、この機会に是非とも受賞作をチェックしたい。ああ今すぐ読みたい。

早速図書館予約ページを見れば、案の定大人気で3桁の予約数がそこに。そりゃそうだと一旦画面をとじる。タブを閉じるために押したバツマークに可能性が一つ消えたことを突き付けられた気がした。購入しようにも書店が我が家から少し遠いため、どうしたら早く読めるのかちょっと考えてから…ひらめいた。

今、この手のひらで該当の連載されていた月刊誌を取り寄せれば、最短で明日の仕事帰りに手にすることができるのではないかと。本音をいえば書籍を購入すべきところ借りて読むことに大変申し訳ない罪悪感もある。購入、古書店、図書館。わたしのなかで、さあどれにするんだい?とメトロノームのような音がステレオで両耳に鳴り響く。

「カッチンカッチン」

「チーン」

気付けば、右手が勝手に蔵書検索欄に「小説宝石」と入力していた。この瞬間、全ての物語を翌日受け取ることが可能となった。

鉄を熱いうちに打ってしまった。
思い立ったが吉日。と自分に言い聞かせる。

そして冒頭のわたしの姿となった。

 「お待たせしました」

 受付の方が重ねてドーンと差し出した月刊誌「小説宝石」。(きっとなぜ取り寄せたかはご存知ないはず) わたしにはこの山がキラキラした宝箱に見えた。うん光ってる。書籍と同じ順番にせっせとならべて、一気に読んだ。(もはや電話帳やんと突っ込んだら、娘たちが電話帳を知らなかった令和の夏)

 タイトルからもわかるように、この作品はあの流行り病が世界中に蔓延した時期に表現されたものたち。読みながら「ああそうだった」と懐古する自分自身にハッとして驚いた。あれだけ不安な時を過ごしたのに、娘たちの学校が休校になったのに、今は少しずつ過去になっているではないか。皆、行く末のわからない状態に恐れをなしたり、憤ったりしていた。早朝からマスクを求めてドラッグストアに並んだことすら懐かしく感じる。

それだけ一穂ミチさんが描いた世界が、スライドで密封できるビニール製の袋のように見事にあの頃の空気感を含んでいる。まるで市販されている富士山の空気の缶みたいだ。その中で、どの話も物語として犯罪“ツミ”を扱ってはいても、一歩歯車が狂えばだれもが関わってしまったかもしれない出来事のリアルな様子にドキッとさせられるものだった。ネオン、ゼリービーンズなど登場する光と色の表現が素晴らしく個性的で、活字が色づき想像力をかきたてられた。読み終えた途端、6つの物語がダイジェスト映像のように脳内を駆け抜けた。


 月刊の小説誌をひもとく今回のちょっと変わった読み方は、もともとの連載の温度を感じながら6つの石の宝を順に拾い集めていくようだった。至極あたりまえだけれど、各号出版時に、それぞれに読んだであろう読者がいることもタイムマシンに乗って見る景色のようで感慨深い。おかげで普段読む機会のない作家のみなさんの文章にもふれ(赤川次郎さんがいらっしゃった!) 活字がびっしりとつまった小説誌の魅力もたっぷり味わうことができた体験となった。



よし、帰省前に大型書店へ行こう。


わたしの宝物を探しに。






お読みいただきありがとうございました。





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直木賞受賞おめでとうございます。

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