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さらぬわかれ

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村の1本の咲かない桜の木。 その木には、曰くがあり…。 8歳のまま成長を止め意識のない姉とその妹の話。 GREEのコミュニティで発表していた小説(2009/1/17~)の完全… もっと読む
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2022年8月の記事一覧

さらぬわかれ 90

「…うん。私も、恒太のこと好きだよ。もう、気持ちを抑えたりしない。」
栄子は戸惑いつつも、恒太の想いを受け入れた。

「恒太ー、栄子ちゃーん!」
山村夫妻が恒太を追って駆けつけた。

「父さん…母さん。」

「恒太、恒太なのね!!」

波留日と恒孝は、息子の顔を見て、彼の中から亡霊がいなくなったことを理解した。

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さらぬわかれ 91

人影ははじめ、像を結んでいなかったが、ゆっくりと着物姿の男性へと変化していった。
男性の顔は、恒太や恒孝の面影があり、血縁であると分かった。

「こうの…しん様。」
さくらが、男性の人影に話し掛けた。

「え?」
山村家全員が驚きの声をあげた。

「急に着物の女の人と男の人が見えるようになったんだけど。栄子…あれって幽霊だよね?」
恒太がさくら達を指差した。

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さらぬわかれ 92

「…喋ったっ!!」
この場にいる誰もが、恒之新の亡霊が口を開くとは思っていなかった。

「恒之新様、正気に戻られたのですね!」
さくらが恒之新に駆け寄り、恒之新の手を握った。2人ともこの世の者ではない同士だからか、触れ合うことが出来たのだ。

「──やっと会えたのは良いけど、何だか複雑だね。」
恒之新とさくらを見て、恒孝がぼやいた。
桜の木の祟りに振り回されたのは、栄子だけではなく、代々の山村家の

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さらぬわかれ 93

恒之新の亡霊は、長く会えなかった恋人の再会を妨害され、不快感をあらわにしていた。
しかし、先程のような殺気はなかった。

「質問とは、何だ」
恒之新が栄子を睨んだ。

「あなたが村に祟りをもたらしたのなら、何があなたをそうさせたのですか!」
栄子は怯まず恒之新に問いただした。

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さらぬわかれ 94

「某は、山村恒之新。山村家は元々御家人で、それ程高い身分ではなかった。
商人や豪農の家の方が、豊かに暮らせていたぐらいだった…
この村に来たのは、元服して役職に就いてから。
さくらと出会ったのは、その頃だった。」
恒之新はさくらに熱い眼差しを向けた。

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