2022年2月の記事一覧
紫陽花の季節、君はいない 71
柊司はあおいさんが分娩室に入っていったのを見送ると、そわそわしだした。
「夏越、とうとう生まれるんだな。」
あおいさんが妊娠してから、柊司は子どもが生まれるのを楽しみにしていた。
生まれる前だというのに、親バカと言っても過言ではない。
「お前だったら、良い父親になれると思うよ。」
俺は素直にそう思ったのだが、柊司には含みのある言葉に聞こえたみたいだ。
「なぁ、夏越。お前は自分の父親の話ってしない
紫陽花の季節、君はいない 70
電話は50代ぐらいの声の印象の男性が出た。
名前を名乗り状況を説明すると、すぐに柊司に替わってくれた。
「夏越、俺だ。」
「あおいさん、子どもが産まれそうなんだ!
いろいろ言いたいことはあるけど、さっさと病院に来い!!」
説教は子どもが無事に産まれてからでも出来る。
今大事なのは、柊司が来てあおいさんの不安を少しでも払拭することだ。
「分かった。早退してすぐにそっちに向かう。」
そう言って、柊
紫陽花の季節、君はいない 69
午前中はあおいさんの代わりに家事をして、一緒に昼食を食べた。
異変が起きたのは、午後3時にお茶の準備をしている時だった。
「あれ、何かお腹が変な感じ…。」
あおいさんは痛がっている様子ではなかったが、産婦人科に連絡してタクシーで病院に向かった。
病院に着いた途端、あおいさんの陣痛が激しくなってきた。
「う~…。」
痛みを我慢しているあおいさんの背中を俺は撫でるぐらいしか出来なかった。
それに
紫陽花の季節、君はいない 68
面接は終始和やかな雰囲気であった。
取り繕うにも、薬草園で素を見せてしまったので気を使いようがなかった──
「まさかあの女性が園長だったなんてな。」
業界では結構な有名人で、TVにも時々出演しているらしい。
不勉強なのによく採用してくれたなと思う。
「紫陽、俺…春から植物公園で働くことに決まったよ。」
彼女が目の前にいたら、きっと「良かったね、ナゴシ!」って祝福してくれたに違いない。
俺はそう
紫陽花の季節、君はいない 67
面接の10分前。
会場の部屋の前に着いた俺は、軽く身だしなみを整えた。
さっき知らない女性に話し掛けられたからか、面接に対する緊張が程よく解けていた。
時間になり名前を呼ばれたので、俺は「失礼します。」と言ってから入室した。
「こんにちは。また会いましたね。」
目の前には、あの女性が面接官として座っていた。
「こんにちは。面接官の方とは知らず…すいませんでした。」
俺は非礼を詫びた。
「堅苦し