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紫陽花の季節、君はいない 67

面接の10分前。
会場の部屋の前に着いた俺は、軽く身だしなみを整えた。
さっき知らない女性に話し掛けられたからか、面接に対する緊張が程よく解けていた。

時間になり名前を呼ばれたので、俺は「失礼します。」と言ってから入室した。
「こんにちは。また会いましたね。」
目の前には、あの女性が面接官として座っていた。
「こんにちは。面接官の方とは知らず…すいませんでした。」
俺は非礼を詫びた。

「堅苦しく構えなくても良いですよ。
その椅子に座って、貴方についてお話聞かせて下さいね。」
と面接官の女性は優しく微笑んだ。

俺は恥ずかしさで頭が真っ白になりかけた。
ネクタイの結び目を触って、「落ち着け、落ち着け」と心の中で唱えた。

すると涼見姐さんに言われたひとことを思い出した。
『──夏越、お前…目の前の人間をきちんと見ていないのではないか?』
俺は「そうだ、今はこの人ときちんと向き合うんだ」と腹をくくった。

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