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【福井6月旅】和醸良酒で福井を醸し世界へと。

常山酒造合資会社 取締役兼醸造責任者
常山晋平(とこやま しんぺい)さん


目次
1・酒蔵は、つくり手の舞台。
2・醪を視て、感じて、対話する。
3・舞台から花道。そしてオーディエンスへ。
4・めざしたい酒づくりを、故郷の蔵で。
5・醸したいのは和と、福井そのもの。


福井藩公認の両替商として、福井きっての名家として栄え、江戸時代後期にあたる文化元年(1804年)に酒造りを創業された常山(とこやま)酒造。主力銘柄は常山(じょうざん)。越山若水といわれる福井の気候風土と融けあい、福井の海の幸・山の幸に合う『きれ上がりの良い、端麗ながらもコメ本来のうまみを十分に引き出す越前辛口』は、高品質なお酒として国内外で人気を博している。「常山 純米大吟醸 特別栽培米 美山錦」は、フランスの日本酒コンクールにて2017年度プラチナ賞。2018年度金賞、2020年度金賞など連続受賞。

本日は、地域ものがたるアンバサダー福井の6月の訪問先として、9代目蔵元である常山晋平(とこやま しんぺい)さんに、お話を伺わせていただきました。

常山酒造様

酒蔵は、つくり手の舞台。

クラフト感のある空間

福井のまちなかでキラリと存在感を放つ創業200年以上の歴史ある酒蔵『常山酒造』。9代目蔵元である常山晋平さんにご案内いただいて、地域ものがたるアンバサダー福井の7名は、店舗の奥へと向かう。蔵の入り口には、立派な注連縄が凛とした雰囲気を放つ。この先は聖域なのだ。

醸魂(じょうこん)と書かれています

酒造りのシーズンは9月から4月いっぱい。6月の蔵には静謐な空気感を感じるが、メンテナンスなどの備えにお忙しい時期でもある。「醸魂」と書かれた一枚板の額が掛けられている扉を開け、いよいよ仕込み蔵へ。

伝統とモダンが調和

目に飛び込んできたのは、広々としたスケール感のある吹き抜けと、年数を重ね味わい深い柿色になった県産木材の階段。酵母だろうか。ふわりとマスカットのような上品な香りもほのかに漂ってくる。蔵は4年前にリノベーション、伝統的な陰影の美しさを活かしつつ、洗練された佇まいへと整った。

「酒蔵は、つくり手の舞台なんです。」
「つくり手も、ここで半年近く酒づくりに打ち込むわけですから、より清潔感があって、働く人のモチベーションも上がる、凛とした空間でありたいと思いました。」
常山晋平さん


醪(もろみ)を視て、感じて、対話する。

鉄製のタンクの内側は琺瑯(ほうろう)。仕込み量にもよるが4000リッターくらい入る

階段を昇り、中二階に上がらせていただく。清潔感のある、真っ白なしっくいの壁と格子。サーマルタンクと呼ばれる、大きな白い仕込みタンクが鎮座する。このタンクの中に蒸しあがった酒米や米麹、仕込み水などを入れて発酵させ、日本酒のもとになる醪を作ると伺う。照明の揺らぎに陰翳礼讃という言葉も浮かび、そういえば、日本酒は「和」の美しさそのものだなあと実感した。

タンクの説明をされる常山さん
黒いベルトで温度調整をしています。
醪って、発酵するごとに、表面の見た目がどんどん変わっていく。僕たちが「状貌」(じょうぼう)と呼んでいるものですが。

発酵の温度帯によって,微生物が活発に動く過程で、醪が元気だなとか、元気ないなというのは、やっぱり、作り手として、見ていてわかる。

でもそれって、急に見てもわからないんですよ。

ずっと醪と対話するというか、醪を何度も何度もこの7年間で仕込んできているので、その中で見ていくことによって、今ってこういう状況だろうなとか、これっていつもと何かおかしくない?という、違和感に気づくことができる。

違和感があったとき、対象のリカバリーをどうするか。早くしないと、思いがけない方向に発酵が向かってしまうので。
常山晋平さん
今は、醪を分析すれば、アルコールや酸がどれだけ出ているかもわかる。それも醪を管理する判断基準や指標になりますが、最終的には、やっぱり僕たち作り手が、しっかりと醪を感じることに尽きるんです。

醪は毎日舐めます。今、どういう状態かなと。ちょっとアルコールが出始めると、舌にこう、ピリッとする感覚と、味わいがしゅっと締まるタイミングがあるんですね。

若いスタッフにも言っていますが、必ず、今日の醪を視ること。
昨日と比べてどうか、今日の味わい、次の日の味わいはどうなのか。

そういうのを意識して酒づくりをしていかないと機械的になって、人のあたたかみのあるお酒にはならない。ハイテクな部分に頼りすぎず、五感を駆使していくんです。
これからも伝統工芸品のように、思いのこもった丁寧な酒造りを目指していきたい。
常山晋平さん

舞台から花道、そしてオーディエンスへ

ここは舞台とオーディエンスを繋ぐ花道。

3階の高さは優にあろう2階に上がらせていただくと、開けた空間にさりげなく置かれるテーブルや椅子。ここは試飲会などに使われているそうだ。

あたたかい豊作色のテーブルとクッションもグッドセンス

「子どもの頃は、遊び場だったんです」と、控え目に語る常山さん。父のような力強い骨太の梁が支える高い天井と、懐深い母のような温かみのある木づくりの空間。子ども時代に身を置けば、自然と豊かな感性が育まれていきそうである。
仕込み蔵がつくりの舞台なら、ここは喝采を送る客席。双方が感動をわかちあい、ものがたりを創る場所なのだ。

めざしたい酒づくりを、故郷の蔵で。

大学時代を関西で過ごした常山さんは、卒業後は東京の大手酒造メーカーに就職。4年間、東京で充実した社会人生活を送っていたが、子ども時代をともに過ごした故郷の蔵で、人の手の温かみと物語性のあるお酒を発信したいと、2011年に帰蔵を決意。1年目、ひたすら酒づくりを学び、2年目、3年目、ひたむきに研鑽を重ね、4年目の2015年。30歳で晴れて9代目の醸造責任者として、めざしたい酒づくりに指揮をとる。

灯や木の美しさも堪能できる

主力銘柄「常山(じょうざん)」は、大学生のときに他界された7代目である父が、その名がとどろくようにと蔵元自身の名で立ち上げた。8代目の母から受け継ぐ「常山」らしさを守りながらも「洗米」などの手仕事を、より緻密に丁寧にすることで、さらに透明感のある洗練された味わいに変えていったという。

醸したいのは和と、福井そのもの。


福井という風土と融合しながら、福井を表現できる代表的な蔵でありたいと語る常山晋平さん。
常山酒造の「お酒づくりで大切にしていること」を、5つにまとめてみた。

福井の酒米にこだわる。
酒米は福井県産。自然豊かな美山地区の農家さんと契約。純米大吟醸に使われる「越前美山錦」は、実質的に無農薬栽培であるピロール農法で作られている。
福井のお水にこだわる。
酒米栽培の美山地区付近に湧く「こしょうずの湧き水」。福井県認定の「ふくいのおいしい水」であるクリアな水を、仕込み水にも使っている。

福井を表現、福井の食材に合う味わいづくり
越山若水という言葉は、福井の北部「越前」の豊かな山と南部の「若狭」の透明感溢れる美しい水を意味するが、そんな福井の素材に合うのは「なめらかな、すっとした口あたりで、最後まで舌に残らない端麗旨口」という常山晋平さん。
福井は意外にも、鳥肉の消費量が多いらしく、越前辛口+鳥料理もオススメいただく。刺身はもとよりお洒落なフレンチとのマリアージュも期待大らしい。クリームチーズとあわせてみたくなり、早速、季節限定の「玄達」を宅配で頼んでみた。

課題でポスターを作らせていただきました
ふくいの海をイメージしてつくるときは、キレの良い味わいに。
ふくいの山をイメージするときは、厚みをのせる
常山晋平さん

④地元に愛される蔵であること。
地元に愛されてこそ地酒。福井とのつながりや結びつきを深めていきたい。

⑤和醸良酒

常山酒造としての、大義は二つ。
ひとつは、地元に愛される蔵であること。
もうひとつは、「和醸良酒」の言葉のように、
酒米を育てる農家さん、販売店さん、飲食店さん、飲んでくださる方、
いろいろな和が繋がっているおかげで、僕たちは酒づくりができている。
蔵がかかわることで、周りもしあわせにできる、地元の人からも「福井といったら常山だよ」と言ってもらえるような、酒づくりをしていきたい。






常山晋平さん

謙虚な言葉に背筋が伸びる思い。オフの日は自然の中でゆっくり過ごしたり、お子さんとの触れ合いを楽しみにしているという常山さん。和醸良酒の思いを胸に、みずみずしい感性で磨き上げた「福井」を発信、地元福井の代表蔵として国内外に、ますます躍進されていかれる未来がみえた。

海外からも人気の「常山」。輸出用にミズナラの樽で
ゆっくりと醸造します。

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常山酒造様、貴重なお時間のなかを、ありがとうございました。真摯にお酒づくりに打ち込まれた賜であるお話を伺えたことに感謝をこめて、常山晋平さんの言葉をまとめさせていただきました。
益々のご活躍を心から応援申し上げます。

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常山酒造合資会社
福井県福井市御幸1丁目19-10


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