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【認知症名医が解説!】認知症の名医厳選16人特別公開!大阪大学医学部精神科の池田学教授インタビュー

人生100年時代なんて言われても、「健康に100歳」はハードルは高いものです。特に認知症対策は国民全体の問題です。最近になって、認知症の一種であるアルツハイマー型認知症の進行を遅らせる新薬が、日本でもはじめて発売されるようになり、注目を集めています。
認知症には、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」の4種類があり、その診断は難しく、治療方法、対処法も違ってきます。
今回、大阪大学医学部精神科の池田学教授に、治療のポイントを伺いました。池田教授のもとには、全国から患者さんが救いを求めて訪れています。


名医にインタビュー 池田 学 教授

池田 学 いけだ・まなぶ 大阪大学医学部付属病院 神経科・精神科 教授
厚生労働省の研究班長として、認知症患者の自動車運転問題や認知症初期集中支援チームの課題などに取り組む。現在は、国際老年精神医学会の理事長として、高齢者の孤独や認知症疾患修飾薬の適正使用などの課題にも取り組んでいる。

大阪大学医学部付属病院 神経科・精神科 教授 池田学医師

新薬の登場で認知症治療が新段階へ

◇アルツハイマー型認知症の進行速度を遅らせる新薬が登場

―現状では、多くの家族や本人がおかしいと思ってから認知症の検査を受けていると思いますが、どこの段階で検査をすれば良いでしょうか。
池田 他の病気と同様、早ければ早いほど良いと思います。なぜなら、早いほど治療や介護の選択肢が多いからです。また、余裕を持って出現が予想される症状や生活障害の準備をすることが可能になります。最近は、軽い段階で受診される方が多くなりました。
自分の経験を振り返ると、20年前と比べると圧倒的に早期の受診が増えています。20年前というと家族だけで介護をされていて、限界まできてから病院に来られる方が圧倒的に多かったです。ちょうど介護保険制度ができて間がない頃です。
10年前頃から初期の段階で受診する方が増えてきて、大学病院などの専門外来などでは、認知症の前駆状態を多く含む軽度認知障害(MCI)という段階で来られる方が多くなりました。早期受診にシフトしてきているのは間違いないと思います。
2022年11月に最終の治験結果が発表された認知症の疾患修飾薬の一つである『レカネマブ』が、2023年8月21日承認され、国内で初めて製造販売されるようになります。
実臨床の現場で使えるようになれば、MCIレベルの軽い症状のうちに治療対象となる方が増えます。もちろん、まだ解決しなければいけない課題はいくつもありますが。
この薬は、MCIないしごく初期の認知症の方がターゲットになっています。対症療法ではなく、病気の進行過程そのものを修飾する、すなわち「認知症の進行過程を変えてしまう初めての薬」です。

軽度認知障害(MCI)の段階で、適切な認知症予防策を講じることで、
健常な状態への回復や認知症への移行を遅らせることが期待できる
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」より作成

―主要な認知症(例えばアルツハイマー型、前頭側頭型、レビー小体型、脳血管性)すべてに対してですか。
池田 アルツハイマー病に対してです。『アデュカヌマブ』という同タイプの薬が2022年アメリカでやや見切り発車のように承認されて、大きな議論が巻き起こりました。
ヨーロッパは受け付けずに、日本は継続審議になっています。『レカネマブ』は、それよりもはるかにデータが良いです。
アルツハイマー型認知症の脳にはアミロイドβ(ベータ)という有害なタンパク質の塊(アミロイド斑)が蓄積していることがわかっており、この物質がアルツハイマー病の原因なのではないかという説が有力で、『アデュカヌマブ』も『レカネマブ』も、アミロイドβを除去するように設計されています。
『レカネマブ』は米国ではすでに完全な形で承認され、日本でも承認されましたので、近いうちに臨床の現場に登場してきます。そうなると、今よりもっと早期の段階での受診が増えてくると思います。

―症状が出る前ですか。
池田
 理想的にはそうです。ただ、症状が出る前にどうやって患者さんを見つけるか、医療に結び付けるかというのは、大きな倫理的な問題もあってすぐには難しいと思いますが、少なくともMCIがターゲットの中心になることはもう間違いないでしょう。
逆に症状が少し進めば、『レカネマブ』は適応外になります。したがって、疾患修飾薬(疾患の原因となっている物質を標的として作用し、疾患の発症や進行を抑制する薬)での治療を求めて受診した方でも治療の対象になるのはその一部です。治療の対象にならなかった人やその家族が希望を失わないように、他の選択肢を十分提供できることも専門医の役割だと思います。
また、ある程度認知症が進んだ方、幻覚や妄想などの精神症状がある方がゼロになるかというとそうではないので、そちらのケアもこれまで以上にきちんとしなければなりません。認知症に関わる医療者はかなり広汎な対応が求められ、専門医とかかりつけ医の間、専門職の間、医療と介護の間の円滑な連携が極めて重要になるでしょう。

◇予防可能な血管性認知症

池田 血管性認知症は、これこそ予防できる可能性がある認知症です。若い時から糖尿病や高血圧症などの生活習慣病をコントロールして、適度な運動をし、適度な睡眠をとり、バランスの良い食事を摂り、お酒もほどほどにするということなどを、積み上げていくということです。要するに、動脈硬化を防ぎ脳梗塞や脳出血が予防できれば血管性認知症にはなりようがありません。アルツハイマー病と比べると、話題になることは少ないのですが、本当は一番、予防できる認知症なのです。
あるいは、脳梗塞などの血管障害によってMCIの状態になっても、理屈的には次の脳梗塞が起きなければ、認知症に進行することはないので、この段階でも先ほど述べたような内科的に生活習慣病のコントロールなどを徹底的にすることが重要です。
4タイプある認知症のうち、血管性認知症は、アルツハイマー、レビー、前頭側頭型とは予防という点では違うものとして考えてください。

◇まずは専門医に診断をつけてもらう

―認知症の専門医に治療の方針を決めてもらい、後は地元のかかりつけ医に、という流れはどうでしょうか。
池田 理想的だと思います。診断はすごく大事なので最初だけはきっちり専門医の診察を受けてほしいと思います。特に若い方(若年性認知症)、軽い方の診断は難しいです。実は専門医でも診断を迷うことはよくあるのです。若年性認知症では、高齢発症の認知症では見られない希少疾患が原因となっていることもしばしばあります。軽い方の場合には、うつ病や正常加齢による物忘れとの鑑別も重要になります。他の病気と同様、軽ければ軽いほど診断は難しいわけです。
専門医のところで十分時間をかけて、神経精神医学的な診察、認知機能の評価、画像などの検査を受けて、診断と今後の治療計画を話し合ってから、馴染みのかかりつけ医の先生に治療方針を引き継いでもらうのが理想的な流れかと思います。

◇医師と患者は十分に話し合おう

―日本の良いところは自由に病院を選べるところだと思いますが、あえて改善点はありますか。
池田
 希望すればある程度の水準の医療を、どこに住んでいても誰でも受けられるところは、日本の医療制度の素晴らしいところだと思います。一方、欧米では、なかなか専門医療にアクセスできなかったり、お金をかけないとアクセスできなかったりすることがしばしばあります。
しかし、あえて言えば、医師側の問題もあるとは思いますが、治療を一緒にディスカッションするとか、自分や配偶者がどうしたいという意思を表明する患者さんが日本には少ないと思います。それは医師に遠慮をしていたり、医師の方針に任せっきりにしたりする習慣が元々あったのかと思いますが、そこはもっとお互いに対等な立場でディスカッションすべきだと思います。
認知症の経過は長いですし、検査をどこまで実施するか、病名を告知するかどうか、進行した場合どこでケアを受けるのか、やはり本人の人生観などがきちんと反映されることは大事なことです。治療やケアの方針に、十分本人の意思が反映されなくてはなりません。それは患者さんの問題ではなく、医師の問題かもしれません。

◇年一回はフォローアップが必要

―あまり、専門医療機関で診療時間を取っても…と思うことがあります。
池田 私も本当にいつもお待たせして、申し訳ありませんが、少なくとも最初の時は十分時間をかけるべきでしょう。これまで述べてきたように、出発点では正確な診断と予後もある程度予想し、ご本人と家族の意見を反映した治療計画を立てるというのが非常に大事です。そこまでできれば、あとはその方針をかかりつけ医の先生に伝え引き継いでもらう、そして嫌でなければ一年に一回は戻って来てもらうようにしています。専門医療機関でのフォローアップはそんな感じで十分だと思います。
できれば、一年に一回は予想外に急速に認知症が進行していないか、介護環境が悪化していないかなどのチェックができればと思います。
例えば、高齢者の場合はちょっと転倒して骨折して入院し、そこで認知症がぐっと進むことがあります。あるいは、介護者が子供の受験があってあまり介護に専念できなくなり、家庭での介護負担が大きくなっているといったこともあります。一年に一回でなくても、何かあればかかりつけ医から専門医に紹介してもらって、治療方針や介護計画を軌道修正してその都度乗り切ってもらえればと思います。
患者さんに希望を持ってもらうと嬉しい

―先生が診療する上で、患者さんとご家族に対して思っていることを教えてください。
池田 認知症を心配して受診される方やその家族は、長い時間迷ってようやく受診を決断された方も多いはずです。本人は嫌々受診していることもしばしばあるはずです。ですから、まず受診されたことを労うことから始めることかと思います。そして、認知症と診断した場合は、少しでも前向きに本人と家族が受け入れてもらえるかが重要です。時間をかけて受け入れてもらうところまでを寄り添うということが必要で、少しでも良いから希望を持って帰ってもらうと嬉しいです。そこは難しいですが、個々の患者さんで何かやれることは必ずあります。疾患修飾薬の治療対象ではなくても、生活習慣の指導、生活環境の整備、服薬管理の方法、家族への疾病教育などなど、いくらでも相談できることはあるはずです。(インタビュー終了)



『国民のための名医ランキング』より名医の紹介

なぜ、『国民のための名医ランキング』なのか

『国民のための名医ランキング』は、これまでに2016年版、2018年版、2021~23年版、2024~26年版を出版しています。出版当初は「医師にランキングなんて」という批判の声もありました。しかし、どんなに遠くても日本一の医師の所に足を運ぶのか、出来る限り近くで探したいのか、その選択は一人一人違います。選択を一人一人にゆだねたいという思いで、一つの参考になればと思いランキング形式にしました。主治医を選ぶことは人生を選ぶこと、その方の人生観に直結しています。皆さまが自分の納得のいく主治医に巡り合えますよう、心から願っています。

『最新版 国民のための名医ランキング2024~2026年版』掲載の認知症分野の名医をランキング順に紹介します。(ランキング部門16名)本書には、詳しい治療実績や先生の顔写真等を掲載していますので、ご参照ください。

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