見出し画像

【小説】 深淵に咲く花の名は [第八話]


前回までのお話


第八話:深淵で芽吹く

深淵の迷宮、三十界。
サクラ、カエデ、ツバキの三人が落ちてきてから、既に数日が経過していた。
50個あったサクラの目潰しの数もかなり減っていた。



薄暗い洞窟の中、三人は疲れた様子で休んでいた。

『ぐぅー...きゅるるる...』
カエデのお腹から大きな音が鳴る。
「うぅ...」

ツバキが心配そうに尋ねる。
「カエデ、大丈夫か?」

カエデは弱々しく答える。
「う、うん...でも、もう携帯食料も底をつきそうで...」

サクラは唐突に立ち上がると、拳を握りしめた。
「よし!食料を探しに行くわよ!」

「おー!行こう行こう!」
カエデが飛び跳ねる。

「でも、この迷宮のどこに...」
ツバキが『良い子の迷宮百科事典』をパラパラとめくる。

「そう言えばこの界には川があったわよね。魚が居るかも?」
サクラが腕組みをしながら言った。

ツバキが少し考えてから頷いた。
「なるほどな!それに水辺なら魚の他に食べられそうなものもあるかもな」

三人は慎重に川に向かう。
岩だらけの険しい道を進みながら、時折立ち止まっては周囲を警戒する。
やがて、遠くから水の音が聞こえてきた。

カエデの耳がピクリと動く。
「みんな!川が近いよ!」

三人は音の方向に向かって歩を進める。
岩場を抜けると、そこには幅広い川が流れていた。
水は濁っており、所々で渦を巻いている。

サクラが川を見つめながら言う。
「さて、釣りかな?その辺の木材で釣竿を...」

ツバキが突然、目を輝かせる。
「待て、サクラ。釣りでは時間がかかりすぎる。もっと効率的な方法がある」
「え?どんな方法?」

ツバキは川の岸辺にある大きな岩を指さす。
「サクラ、あの岩を川の中央に投げ込めるか?」
「ふははー!もっちろーん!」

ツバキが説明を始める。
「岩を投げ込めば、その衝撃で魚が気絶する。一度に大量の魚が取れるはずだ」

「なるほど!」
カエデが感心する。

「よっこら!」
サクラは早速、怪力で岩を持ち上げ、川の中央に向かって投げ込んだ。

「「サクラ、あんたすごくない?人前でやらない方がいいよそれ!?」」
カエデとツバキはサクラに彼氏が出来るか心配になった。

「ほいさーッ!」

ドボーン!

大きな水しぶきが上がり、川の流れが一瞬乱れる。

すると、岩が落ちた場所の周りで、たくさんの魚が水面に浮かび上がってきた。

「すごい!」
カエデが目を丸くする。

サクラも驚いた様子で言う。
「ツバキ!あんた天才!」

三人は急いで浮かんでいる魚を回収し、数分後には山盛りの魚が積み上がっていた。

「やったー!」
カエデが喜びの声を上げる。

サクラが満足げに言う。
「これだけあれば、しばらくは大丈夫ね」

ツバキも安堵の表情を見せる。
「ああ、当面の食料問題は解決したな」

三人は獲った魚を持って、安全な場所に移動する。
そこで火を起こし、食事の準備を始めた。



香ばしい匂いが立ち込める中、サクラが立ち上がった。
「よし、もう少し薪を集めてくるわ」

サクラが歩き出した瞬間、足元の岩につまずいた。
「いたっ!」

右足の小指を岩にぶつけたサクラは、痛みでのたうち回った。
「ぎゃあああああっ!痛い痛いーッ!こ、こんなに痛いなら、いっそ殺してぇえええええ!」

突如、サクラの体が眩い赤い光に包まれた。

「サクラ!?」
カエデとツバキが驚いて叫ぶ。

光が収まると、サクラの姿は一見すると変わっていなかった。
しかし、サクラは体の中に何か新しい力を感じていた。

サクラは自分の体を見つめ、驚きの声を上げる。
「すごい...体の中に何か力が宿った気がする...」

カエデが興味深そうにサクラに近づく。
「どんな感じなの?外見は変わってないけど...」

サクラは少し考え込んでから言った。
「うーん、なんだか力が溢れそうな感じ。ちょっと試してみるね」

サクラは目を閉じ、深呼吸をすると、体に力を込めた。
すると突然、サクラの体が赤みを帯び始め、頭の小さな角も赤くなった。

「わっ!」
カエデが驚いて後ずさる。

ツバキも目を見開いて言う。
「これは...鬼化か?」

サクラは自分の変化した姿を確認し、驚きと興奮を抑えられない様子だ。
「すごい...本当に鬼みたいになっちゃった。この姿になると、体中に力がみなぎるの」

サクラは試しに近くの大きな岩を持ち上げようとする。
岩はまるで紙のように軽々と持ち上がった。

「「「うわぁ...」」」
三人は息を呑む。

サクラは岩を元の場所に戻すと、深呼吸をして力を抜いた。
すると、赤い肌と角が消え、元の姿に戻った。

「ふぅ...どうやら力を入れると鬼化できるみたい。でもこれ維持するのしんどいな。」
サクラは少し疲れた様子だが、満足そうに言った。

ツバキも感心した様子で頷く。
「なるほど、状況に応じて力を使えるというわけか。これは有利だな」

カエデが興味深そうにサクラに近づく。
「すごいよサクラ!本当に強くなったんだ!」

その瞬間、カエデも岩につまずいた。
「うわっ!痛っ!」

カエデも右足の小指を岩にぶつけ、痛みでのたうち回る。
「ぎゃあああああっ!痛い痛いーッ!こ、こんなに痛いなら、いっそ殺してぇえええええ!」

突如、カエデの体が眩い赤い光に包まれた。

光が消えると、カエデは自分の手を見つめ、驚いた様子で言う。
「あれ?体は特に変わった感じしないけど...なんだか手が軽い?」

サクラが興味深そうに尋ねる。
「どんな感じなの?」

カエデは周りを見回し、良い形の石を拾う。
「うーん、試してみるね」

カエデが石を投げると、驚くべき速さで石が飛んでいった。
石は遠くの岩に当たり、岩を粉々に砕いてしまう。

「「「わっ!すごい!」」」
三人が目を丸くする。

ツバキが感心した様子で言う。
「威力が格段に上がったようだな」

「あれ...まだなんかいけそう...?」
カエデはもう一つ石を拾い、今度は違う角度で投げてみる。
石は不自然な軌道を描き、大きくカーブして別の岩に命中した。

「すごい!カーブまで投げられるようになったよ!」
カエデが喜びの声を上げる。

ツバキが冷静に分析する。
「なるほど。カエデの投擲能力が更に特化したってことだな。」

サクラが冷静な顔で言う。
「もう野球やれよ。」

ツバキがカエデに歩み寄ろうとした時、やはり同じ岩につまずいてしまう。
「くっ!」

ツバキも右足の小指を強打し、痛みにのたうち回る。
「ぎゃあああああっ!痛い痛いーッ!こ、こんなに痛いなら、いっそ殺してぇえええええ!」

突如、ツバキの体が眩い紫色の光に包まれた。

光が消えると、ツバキは両目を押さえながら、驚いた様子で言う。
「我が目...なにか変わった気がする」

サクラが興味深そうに尋ねる。
「どんな感じ?試してみたら?」

ツバキはゆっくりと右手を右目から離す。
「まずは...右目から」

ツバキの右目が光り、突如として青白いビームが放たれた。
ビームは岩に当たり、岩を貫通して穴を開けた。

「すごい!」
カエデが驚きの声を上げる。

ツバキは次に左手を左目から離す。
「次は左目...」

左目からも同様のビームが放たれ、今度は別の岩を粉々に砕いた。

サクラが感心した様子で言う。
「おおお...両目からビームが出せるようになったのね」

ツバキは深呼吸をして、両目を見開く。
「では...両目同時に」

ツバキの両目から強力なビームが放たれ、二つのビームが絡み合いながら飛んでいく。
ビームは巨大な岩に命中し、岩を粉々にした。

「「「わぁ...」」」
三人は息を呑む。

ツバキは少し疲れた様子だが、満足げに言う。
「これが...我が新たなる力か...ふふ...」

サクラが冷静な顔で言う。
「そもそもなんだよ目からビームって。」

三人は互いの変化を確認し、驚きと喜びを分かち合う。

サクラが興奮気味に言う。
「ねえ、これって私たちの神籤が一気に進化したってこと?」

ツバキが頷く。
「間違いないだろう。我々の力が大きく向上したようだ...また...その...小指をぶつけて...『死を覚悟した』から...」

「やめてよツバキ恥ずかしすぎる!」
「私だって私だって!こんなことでー!」
カエデとツバキが顔を真っ赤にして両手で隠す。

「ホント面白いよね君たちは。」
サクラが腕組みをしてうんうん頷いている。

「「恥ずかしいから誰にも言うなよ!?」」
カエデとツバキはサクラに迫った。


(つづく)

いいなと思ったら応援しよう!