とんとん ぱらぱら
チャーハン大賞、遅ればせながら参加させてください
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1年前の秋、私は受験生だった。毎日重たい荷物を持って電車に乗って、寸暇を惜しんで単語帳を開き、手帳の日付を追って時間がないことを知り、焦ってもがいていた、そんな日々。時間はない中、最後の高校生活は忙しなくとんとんと過ぎていった。
とんとん。次は何をしよう。
とんとん。日本史のノルマ終わった。
とんとん。英文法やろうかな。
とんとん。漢字を確認しなきゃ。
帰りはいつも夜の10時を過ぎてから。それから制服を洗濯して、ご飯を作って、お皿を洗って、お風呂に入って、洗濯物を干す。自分の分だけとはいえ、勉強の合間に家事をするのは大変なこと。ほら気づいたら夜の11時。
とんとん。お腹が空いたね。
とんとん。何食べよう。
とんとん。簡単でおいしいものがいいな。
とんとん。じゃあね……
私はすくっと立ち上がり、冷蔵庫から卵とハム、冷凍庫から冷凍ご飯を取り出した。そうだ。チャーハンにしよう。
冷凍ご飯を電子レンジで解凍し、その間にハムを切る。まな板と包丁を洗ってフライパンにサラダ油をひく。卵をお皿に割入れ、かき混ぜる。フライパンを熱して解凍したご飯を炒める。
ご飯を先に炒めるとポロポロになるんだよ。
フライパンの中でご飯をよく切り、塩コショウ。顆粒だしをぱらぱらと振りかけ、お皿に取る。ハムをフライパンの中で炒めて端っこに。卵をじゅわっと注ぎ入れ炒り卵にする。
ほらほらいい感じ。
そして先程のご飯と炒め合わせ、醤油とマヨネーズ、たまに麺つゆだったり生姜だったり味噌だったりを加える。火力を強くしてよく炒める。するといい匂いがして……
完成!チャーハンができた!!
ぱらぱら。スプーンですくって。
ぱらぱら。たまにこぼしちゃう。
ぱらぱら。醤油の焦げた匂い。
ぱらぱら。エネルギーの補充。
エネルギーを回復して少しの間、考え事。時折志望校のホームページを開いて情報収集。
ぱらぱら。参考書をめくる音。
ぱらぱら。チャーハンをすくう音。
ぱらぱら。ノートもめくってる。
ぱらぱら。紙辞書まで仲間入り。
ぱら……パタン。今日もおつかれさま。
受験期の私は何故かチャーハンばかりを作っていた。初めて作ったチャーハンは、油っこくて、塩辛くて、でもなぜか、あたたかかった。
小テストでうまくいかなかった時は、投げやりのチャーハン。わからないことがわかった時は、調子づけて卵を片手で割った。受験終わったら、と楽しい予定を立てていた時は、お椀にチャーハンを入れて、お子様ランチのようにまぁるくした。
全部を全部覚えている訳ではないけれど、でき上がる時の匂いとか高揚感とか、できあがったチャーハンがおいしそうだったこととか、そういうことが未だに記憶の小瓶にこびりついている。
できるならその記憶も、こびりついたままでいてほしい。きっと同じ味は2度とない。
あれから時間は経って、チャーハン作るのが久々だと感じるようになるくらいのこと。
もう志望校は決まった。諸事情ありきで春から2回目の大学1年生。
もうとんとんと時間に追いたてられることもなければ、ぱらぱらと急くように教科書をめくる必要もない。私の受験は終わった。
1年と少しあとの私は久しぶりにチャーハンを作っている。もう手袋はお役御免。カーディガンを箪笥からひっぱり出そう。
1年前のように卵を炒めると懐かしさでいっぱいになる。反省点なんかいっぱいあるよ。でも無駄にしないからね。
ねぇ1年後のわたしは何してる?たくさんのものを感じ取り、それを体現していけたなら。
とんとん。一歩ずつ。
ぱらぱら。きっとなんとかなる。
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