【毎週ショートショートnote】秋の空時計
たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加します。
今週のお題は『秋の空時計』。
【秋の空時計】
突然の雨にふられ、俺は近くの古書店に逃げ込んだ。
古書独特のにおい。薄暗く、妖怪でも出そうな雰囲気だ。
「お拭き下さい」
いつの間に現れたのか、店の女が手ぬぐいをそっと差しだしてきた。
「ありがとうございます」
美しいひとだ。
『手に入れたい』
強くそう思い、俺は必死になって口説いた。
ここ京都には出張できていること、会社では出世コースなこと、オシャレなバーを知っていること、今晩はホテルに一人なこと……。
ニコニコ笑いながら俺の話を聞いていた女が、唐突に「本はお好き?」と聞いてきた。……う。
「活字は苦手で。映画なら」と答えたとき、女の顔から笑みが消えた。
「雨があがりましたね。お時間です。さよなら」
ぴしりと言われ、あっという間に古書店から追放された。
外に出ると、女のいう通り、雨はあがっていた。
「女心と秋の空、か」とほほ。
地面をみると、雨に濡れた形跡がない。
振り向くと、古書店は消えていた。
『女心と秋の空。いや、女心が秋の空を操っていた、が正解かもしれないな』
時計をみると、雨にふられる前の時間に戻っている。
女のお眼鏡に叶わなくてよかったのか、それとも悪かったのか、答えがでないまま男はゆっくりと歩き出した。【了】
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