私史上最高のブルーベリータルトができました 〈菓子四季録 vol.12〉
菓子四季録では、イラストレーター 澤田清佳さんと一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、ちょっぴり変わったタルト生地を使った「ブルーベリーのちいさなタルト」。
最高のブルーベリータルトできました
カスタードクリームの上にブルーベリーがのっているタルトが好きです。そして今回、私の人生史上において最高においしいブルーベリータルトができました。
以前からブルーベリータルトは好きでしたが自分で作ったものを食べても、どこかのお店のものを食べても小さな不満が残りました。おいしいのですが、一体感がもう少し欲しいのです。タルト生地(サブレ)、カスタードクリーム、ブルーベリーの組み合わせ自体は素晴らしい。でも、口に入れて食べ始めるとタルト生地がわずかに置いてきぼりになるのです。カスタードおいしい、ブルーベリーおいしい。もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。タルト生地おいしい。そんな感じなのです。パーツそれぞれのかたさが違うのでこの時間差は仕方ないとも思いますし、そもそもタルト生地はある程度の強度がないと土台が支えきれません。(それにしても、時々ものすごくかたいタルト生地ってないですか?私は以前、フォークで切り分けようとして、タルトを勢いよく飛ばしたことがあります。)
そんなわけで世の中にあるブルーベリーのタルトはおいしいけれど、ベストな状態ではないと薄々感じていたのです。これが単に「好きなお菓子」だったら、そこまでに気にならないと思います。「大好きなお菓子」だった故に、大望を追い求めてしまう。好きだからこそ、こだわってしまう。
そんな中で、簡易的な小さなタルトのスタイルを取り入れたことで理想に一歩近づきました。これはタルト生地を小さく抜いて、その上にクリームとフルーツを飾りつけるプティフールタイプのタルトです。これだと一口でパクッといけるので、タルトを切り分ける必要もないし、生地をもう少し軽やかに仕上げることができます。これで一歩、「一体感を味わうタルト」に近づきました。でも、やはりサブレ生地の味わいは一歩出遅れます。なのでもう少し薄くしてタルトに仕立てたい、3mm厚にしてみよう、試作の前はそんな風に思っていました。
ドイツ菓子にヒントあり!
そんなタイミングに別件で「モーンクーヘン」というケーキを作ることになりました。日本ではあまり馴染みありませんが、ドイツなどのヨーロッパではお菓子を作るときの材料に「モーン」(けしの実)がメジャーなアイテムです。このけしの実をペースト状にして(これをモーンマッセといいます)お菓子やパンに練り込んだり、焼き込んだりします。これがすごく好きなんです。プチプチの食感に、独特のフレーバー。黒ゴマの洋風版?みたいなものを思い浮かべていただけれとわかりやすいのでは?と思います。このモーンを使ったお菓子って、日本ではなかなかお目にかかれず。なので自分で「モーンクーヘン」を作ろうと思ったのです。
レシピを日本語で調べ、英語で調べ、ドイツ語で調べました(DeepLさまありがとう)。調べているうちにドイツでは「モーンクーヘン」のタルト生地にはいわゆるフランス菓子の「パートシュクレ」ではなく「マイレンダータイク」と呼ばれているドイツ菓子特有の生地が使われていることが判明しました。(ドイツ語では「Mailanderliteig」と書きます。ドイツ語発音だとマイレンダリタイク。ミラノ風の生地という意味らしいです。ドイツとドイツ語に詳しい方に聞きました。元々の生地はスイスでクリスマスの時に焼かれていたものが元らしいです。S氏ありがとうございます。)
ちなみにドイツで「パートシュクレ」にあたるのが「ミュルベタイク」と呼ばれる生地です。配合は「パートシュクレ」よりもバターが多めで少しリッチ。そして「マイレンダータイク」はこの「ミュルベタイク」にベーキングパウダーとレモンの皮のすりおろしが入っています。生地は一般的に、バターが多くなるとホロホロ度が高くなります。ここにベーキングパウダーを加えるとさらにソフトさが加わります。
「これだ!!!!!!」と探していたピースがぴったりハマる音がしました。今回作ったタルト生地は、マイレンダータイクのレシピをベースにアーモンドパウダーを加えてよりリッチに。さらにスパイスを加えて奥行きをプラス。そしてごく薄く3mm厚に伸ばしてカリッと焼く。タルトにはラム酒をアクセントに加えたカスタードクリームをのせて、そこに丸々とした大粒の国産ブルーベリーをトッピング。ブルーベリーはいつでも手に入りますが、まさに今が旬。この時期には国産の大粒のものが出回っています。国産の方が実のプリプリさと味の輪郭がはっきりしているものが多い気がします。仕上げにレモンの皮のすりおろしと、ピスタチオの刻んだものをのせます。
いよいよ実食です。一口でぱくっといただきます。カスタードおいしい、ブルーベリーおいしい、サブレ生地おいしい。これならば間違いなく3者が同時に味わえます。そして、このマイレンダータイクをアレンジしたタルト生地がクッキーとしても、とても好み。アーモンドとスパイスとレモンが効いたリッチな生地なのですが、薄くすることでくどくなくて、このサクサクの食感がすごくいい。バターの香りも申し分ない。幾重にも重なる奥行き感が半端ない。でも主張はしすぎない。クリームのラム酒の風味と、春のブルーベリーのフレッシュ感と相まってここでしか味わえない、最高のタルトを構成しています。
国産ブルーベリーが入手できるのは今の時期だけ!おいしいブルーベリーを使って、ぜひこの美味なブルーベリータルトを作ってみてください。ちょっと手間はかかりますが、後悔はさせません。
ブルーベリーのちいさなタルト(レシピ)
下準備:バターを室温に戻す。◯をあわせてふるう。
作り方
〈カスタードを作る〉
*カスタードは、タルトの生地をねかせている間に作っても大丈夫です。
1.ボウルに卵黄とグラニュー糖を入れ、白っぽくなるまで泡立て器でよく混ぜる。バニラペーストまたはバニラオイルを加えて混ぜる。薄力粉を加えてなめらかになるまで混ぜる。
2.牛乳を小鍋で沸騰直前まで温め、ボウルに少しずつ加えて混ぜる。
3.鍋に戻し、弱火にかける。ゴムベラで底からかき混ぜながら、ゆるくとろみがつくまで加熱する。火を止め、バターを加えて混ぜ、バターが溶けたらラム酒を加えて混ぜる。
4.バットに入れ、ラップをぴったり貼り付ける。粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。
〈タルト生地を作る〉
5.ボウルにバターを入れ、なめらかになるまでゴムベラでよく混ぜる。レモンの皮のすりおろしと粉砂糖を加え、泡立て器で混ぜる、卵黄を加えてさらに混ぜる。
6.◯をふるい入れ、ゴムベラで切るように混ぜてひとまとめにする。半分に分けてラップに包み、冷蔵庫で3時間以上ねかせる。
〈タルト生地を焼く〉
7.オーブンを170度に予熱し、天板にオーブンペーパーを敷く。
8.のし台と生地に打ち粉(あれば強力粉)(分量外)をふり、麺棒で3mmの厚さに伸ばす。直径4.5cmの菊型で抜く。
*生地が柔らかいので、できるだけ手早く作業するのがコツです。
*菊型にも打ち粉をつけると作業がしやすいです。
9.間隔を空けて天板に生地を並べ、170度のオーブンで10〜15分焼く。焼き上がったらケーキクーラーの上で冷ます。
〈仕上げる〉
10 .星口金または丸口金をつけた絞り袋を用意する。カスタードをボウルに入れてなめらかになるまで木ベラで混ぜ、絞り袋に詰める。
11 .タルト生地の上にクリームを絞り、ブルーベリーをのせる。レモンの皮のすりおろしを散らし、好みでピスタチオを飾る。
小さなコツいろいろ
〈分量の目安〉
4.5cmの生地「約36個分」の「36個」見て「え?」と思った方にお伝えしたいです。これは「4.5cmの型で抜くと36個できるよ!」という意味であり、36個全部を必ずしもタルトにする必要はありません。私はいつも半分から1/3量くらいをタルトにして、残りはクッキーとして食べています。クッキーとしてもすごくおいしい。この薄さがクセになります。スパイス&レモンが入るとなんとなくウィーン風みたいな香りと味わいに。
半量の18個分タルトにして、クリームをたっぷりのせて、今回のレシピで作るカスタードクリームを全量消費をするくらいです。「クリームたっぷりにて、36個分をタルト作りたい」という方はクリームを1.5倍ないし2倍で作られるといいかもしれません。
〈ベーキングパウダーは必須〉
ベーキングパウダーは「一体感」のための大切な役割を担っているので必ず入れてください。入れ忘れにもご注意を。本当に少量なんですが入れる入れないで食感がぜんぜん違います。
〈アクセントは底上げのために大事〉
タルト生地に入れるレモンの皮やシナモン、トッピングのレモンの皮のすりおろし、クリームのラム酒は風味を増します。本当に微量なんですが味が一気に決まりますのでぜひ入れてください。
〈最大難関ポイントは「伸ばす」と「抜く」〉
とってもおいしい今回のタルト生地。難点があるとすれば、生地の扱いが難しいことです。具体的にいうと「生地を伸ばして、抜いて、天板にのせる工程」が普通のクッキー生地よりだいぶ難しい。理由は簡単でバターの配合が多いのでとにかくダレやすいのです。暑い時期はすぐに柔らかくなります。冷蔵庫から出したばかりの生地は比較的扱いやすいので、どれだけ手早くできるかが勝負です。以下、私が思うコツを羅列してみます。
・生地は半分に分けて3時間以上冷蔵庫でしっかり冷やす
・冷やす前に生地をあらかじめ薄くしておく(薄く伸ばす時間を短縮できる)
・片方を伸ばしている間は、残り半分は冷蔵庫で待機
・暑い時期は冷房をしっかりめにする
・ダレてきたら一旦冷蔵庫または冷凍庫に入れる
・大理石ののし台を使う
・ルーラーを使う(ルーラーは厚みを揃えるための道具)
お菓子作りの慣れもあると思います。でも行うときは「できるだけ手早く」を頭に入れて作業してみてください。
〈カスタードクリームは使う前によく混ぜる〉
カスタードクリームは使う前にボウルに入れて、木ベラでしっかり混ぜます。冷やしたクリームはかたくなりますが、木ベラでよく混ぜることで口当たりのいいクリームになりますよ。混ぜるというか練るでしょうか?腰を落としてしっかり混ぜてくださいね。撮影の時も「こんなに混ぜるんだ!」とよく言われます。けっこう力仕事です。「え?そんなに力仕事?」という方は「よく混ぜれていないか」「力持ち」のどちらかです。
〈飾りつけは自由演技で〉
今回はカスタードクリームを絞っていますが、スプーンやバターナイフでラフに塗ってもOKです。カスタードクリーム、ブルーベリーの量もお好みで。自分の好きなバランスをぜひみつけてください。今回はブルーベリーをのせましたが、多くのフルーツとの相性がいいです。好きなフルーツのせてみてくださいね。
〈食感変わります〉
クリームとフルーツのせたてはタルト生地がサクサクです。半日くらい経つと、ちょいしっとりします(でもサクサクはします)。ぜひいろいろ食べ比べてみてください。
最高とは
今回は長年の課題が解決されて、ものすごくスッキリしたレシピになりました。そして自分で作ったレシピながら、本当においしい。解決策はいつも往々にして思いがけないところからやってくる。こういうことって時々あるような気がします。
何か叶えたいことがあるとします。それに向かって努力をするんですが、実は答えの扉は思ってないところにあったりするんです。じゃあ努力は無駄なのか?と言えばそうでもなくて。その扉に気づくためには経験値みたいなものが必要で。今懸命に頑張っていることと、叶えたいことは直接繋がってない。でも目の前のことを頑張ることでしか自分を磨けない。少しづつ自分が変わると、今まで気づかなかった扉がパッと見えるようになる。まあ、運も必要だけど途方もない大きな運以外は結局は日々の積み重ねなんじゃないかと思うのです。
ブルーベリーのタルトのことばっかりを考えていても、今回の答えは見つからなかった。あの時ドイツ菓子を作ろうとした自分エライ!!いつか自分なりのモーンクーヘンレシピも考えたいです(そしてできたらレシピ公開したいです)。
「最高のブルーベリータルト」と言っても、「いやいや、◯◯のタルトの方が最高に決まっている」「私が作るタルトの方がおいしい」と思う方がいらっしゃると思います。そして「最高のブルーベリータルト」はそれぞれ違うと思うので、どれも正解だと思うのです。私は「私史上最高のブルーベリータルトができました」と自分で納得して言えることが嬉しいです。
仕事としてお菓子のレシピを作るようになってだいぶ長い時間が経ちました。「私のお菓子おいしいです!」と昔はなかなか言えなかった。でも今は「私は自分の作るお菓子が好きだし、おいしいと思う」と素直に思えることが成長だなあと思います。
【Photos : Sayaka Sawada】
*のついた写真のみ、私が撮ったものです。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?