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メンヘラは突然に

早苗さんとは数年知人の距離だったが、徐々にAさんを介さずに連絡を取る機会もできて、徐々に友人関係に進展していった。

3年ほどかかった。

彼女曰く、とても人見知りらしい。
私も人見知りなので、苦労はしたものの、共通の友人がいる、同業者であること、関わる機会もあるので交流はした方がいいと私も勇気を出して彼女に一度SNS経由ではなしかけてみた。

初めて早苗さんに声をかける

色々な経緯があるのだが、私はある日、早苗さんとおしゃべりするために電話する事にした。

Aさんを経由せず、早苗さんに直接声をかけた初回。
顔を合わせる機会が多いのに、全然距離の縮まらない早苗さん。なんとなくきまずかった。
ちょっと勇気を出して相手の事を知って見よう、仲良くしてみようと思ったのだ。
電話で話す事数分。

早苗さんは急にフレンドリーになった。

こんなにおしゃべりなんだ!?と驚くぐらい良くしゃべる。話しかけてくれて嬉しいとおおはしゃぎ。
かわいらしい性格だった。
後日早苗さんと話したよと報告したAさんも、特に「自分を飛ばして自分の友達と話さないで!」というタイプではなかったようだ。
怒る様子なし。

飲み会や遊ぶ機会、彼女の仕事を手伝いに行ったり、このまま私はAさんと同様、早苗さんとも仲良くなっていくんだろうなとのんきに考えていた。
人懐こく人を笑わせるのが好きな早苗さん。
人見知りだというが内弁慶な性格ではあり、一度打ち解けると情に厚いタイプに見えた。
暗い性格も人見知りだからだったようで、直接話してみると同業者の友人も沢山いるように見えた。
情緒も安定しており、私はきれいさっぱり彼女のリストカット跡の事は忘れていた。

しかし、ある日、彼女が爆発したようにキレて事態は一変した。

メンヘラ、キレる

同業者の知子さん(仮名)という人がいる。
私は深い付き合いが苦手なタイプで、深い付き合いになれるほどの友人はとても少ない。
そのかわり、足を引っかける程度のコミュニティをいくつか持って、気まぐれに顔を出すような交流スタイルが好きだった。

知子さんは、Aさんのコミュニティとは違う所で知り合った人なのだが、その子の主催で同業者の旅行が計画されていた。
知子さんと私の間で話が持ち上がったので、知子さんの友人知人、私と知子さんの共通の友人Aさんがそのメンバーにあがっていた。

10数名の旅行である。
オフ会のようなのりで、初めましての人も参加する。
自己弁護のようだが、私はメンバー選びには関与していない。
あくまで主催は知子さん(仮)だった。

その旅行の前日。
早苗さんが幹事の別の遊びに誘われていた。Aさんも来ていた。

その場で私は明日用事があるから早く帰ると告げた。
何の用事か早苗さんに尋ねられた。
同業者の他のグループと旅行に行く、という話をした。つい、Aさんも一緒だと話した。途端にAさんの表情が青ざめた。
あれ?と思った瞬間。

突如、にこやかではしゃいでいた早苗さんがキレた。

「Aだけ誘ってぇ!!!!!!!!」

大きな声を出され、私はすくみ上った。
その集まりにきていた他の子達も驚いた様子だが、「自分も行きたい~」「誘って誘って!」と騒ぎだした。

そのコミュニティとは異なる所で行われる旅行である。
その子たちは旅行幹事の知子さんの知り合いではなく、知子さんの知り合いはAさんと私だけである。
しかし、私がよく幹事をやるタイプだったので、幹事だと勘違いされた様だった。

早苗さんは怒り出し、誰と行くんだ、誰が来るんだと問い詰められた。
私は怒気をはらんだ彼女のギラギラした目に怯え、他の人の所に逃げた。

別のコミュニティの集まりだから、また今度皆でやろうね!と告げた。
他の人はそれで納得したようだった。
だが、早苗さんは豹変したまま戻らなかった。

その日一日、私に対して辛辣な態度をとり続けた。

遊んでいる最中に、私が手に取ったものをバッと奪う。
「で!?」
「だからなに!?」

私が何を話しても、攻撃的な相槌を打って威嚇する。

目がギラギラして、にらみつけられると別人のような気迫があった。
メンヘラが開花した瞬間だった。

最初こそ、誘われなかった彼女が拗ねてしまったのは、私が無神経だったと委縮していたのだが、そもそも旅行の幹事は私ではない。
誤解された状態で攻撃されるのは正直苦痛で、その日一日、遊んでいても食事をしていても楽しめなかった。

早苗さんが絡んでくるからだ。

誤解を解こうにも、早苗さんは旅行に行きたかったとはいわない。
別の事で怒ってみせるのだ。

早苗さん「最近どんなゲームしてる?ソシャゲ」
私「あ、ソシャゲはしてないんだけど、据え置き機のゲームで……」
早苗さん「で!!?ソシャゲの話をしているのね!!!!」
私「すみません……」
早苗さん「だから何!?」
私「……」

お互いのコミュ障が爆発していた。
私の話題への返しも良くなかった。
だが、威圧的に怒鳴られて委縮して黙り込んでしまう。
その日一日、発言権を与えられなかった。

Aさんも、周囲のAさんの友人も、苦笑いをしていて誰も早苗さんを止めない。
旅行の話を漏らした私が悪い。
誰も早苗さんを咎めたり、私を助けてくれることはなかった。

泣きながら帰宅

「今日は先に帰るね……」
私は怯えて席を立った。
周りの人が何か言いたそうだったが、特に何か言ってくれる人はいなかった。

帰りの電車の中で私は一人泣いていた。
とにかく早苗さんがすごく怖かった。

豹変した。

後々判明するのだが、彼女は双極性障害、境界性パーソナリティー障害、薬物依存症、ADHD、メンタル疾患のデパートである。
安定した時期はそうでもないのだが、無神経な私が地雷を踏んだ瞬間にその悪い面が吹き上がった。

一日ネチネチやられて、本当に怖かった。
まだ浅い付き合いだし、もう関わりたくない。

私はその日のうちに早苗さんのTwitterをブロック&ブロック解除し、距離を置く事を遠回しに表現した。
彼女も気付いたら察するだろう。
とにかく怖かったのだ。

あと、知子さんの旅行に関しては、早苗さんは知人ではないので誘われていなくても当然なのだ。
私が幹事だと勘違いして一方的にキレる様子にも思い込みの激しさを感じて怖くなった。
その辺りの説明が不足していたのは確かだが、あそこまでキレられて次旅行に誘うね!次は一緒に行きたい!と思う人はいるのだろうか……とうんざりしていた。

それ以前に、別の件があった。
別の人が幹事で、Aさんを含めた複数名の旅行をしたことがあったのだ。
早苗さんはバンギャの遠征があるとかで来なかった。

実はそれもフラグだった。

旅先のAさんの様子が変だというフラグ

早苗さんが初キレをかました数か月前。

Aさんと私の友人Bさん、Aさんの友人Cさんと別の旅行をしている。

早苗さんは初期メンバーで参加予定だったのだが、全員の日程など都合をすり合わせる段階で、全員が旅行に行ける日程が、彼女のバンギャ活動のライブの日と重なっていたとかで、これなくなってしまったのだ。
そして、変わりにCさんが呼ばれる事となった。

その旅行先で不可解なことがあった。

旅行先でAさんがずっと沈んでいたのだ。

「早苗が、Aだけズルい、ズルいとずっと言うの。私も行きたかった、行きたかったって拗ねている」

明るいAさんが珍しく落ち込んでいた。
車の中でも宿でも、ずっと早苗さんの愚痴を話していた。

「早苗さんは自分の用事で来られなかったんでしょ?」
「早苗さんも誘ってたじゃん」
と、他のメンバーは冷静だった。
というか、AさんのSOSを軽く見ていた。
「早苗さんも行きたかったんだね」
「次は誘えるといいね」
予定が重なって旅行に来れなかった早苗さんに同情しつつも、Aさんの落ち込みよう、憔悴ぶりが気になった。

旅行先で、ずっと早苗さんの愚痴を言っているのだ。
全然旅行を楽しんでいない。

「早苗が怒るの。ずーっとズルいズルいって言うんだよ」とAさんはずっとぼやいて、旅行の間中かなりの時間を早苗さんに疲れたという話をしていた。

夜、宿でAさんは「早苗の為にもう一度旅行を計画してやって」と言い出した。
Aさんは優しい。
散々早苗さんに拗ねていじけられて、文句を言われて自分が旅行を楽しめていないのに、親友の為にそこまで言うのだ。

「旅行は日程もあるし……」
「お金もかかるしねえ」
話合ったが、即、次の旅行というのは難しかった。
「来年は誘ってあげよう」
そういう話で落ち着いた。

しかし、その旅行は実現しなかった。

幹事の車が四人乗り。次に早苗さんがくるということは、その旅行に来ているメンバーのうち誰かがこれなくなるのである。
幹事以外は免許なし。レンタカーも借りられない。

微妙な雰囲気だった。
結局、翌年誰もその話は持ち出さず、そのメンバーで旅行に行く機会は生じなかった。
私もご一緒した誰かが来れないとなると計画が面倒で、自分が今度はいけない立場になるかも……と思い、持ち出さなかった。

拗ねてキレる早苗さん

早苗さんがキレたのは、その旅行の数か月後だった。
また旅行に行けない!と仲間外れになったような気がしたのだろう。
だが、別のコミュニティの全く別の集まりである。
早苗さんは幹事と面識もない。
誘われるわけがないのだ。
どこまでその認識があったか不明だが、私からしてみたら理不尽なキレ方をされて早苗さんが怖くなってしまった。

SNSを切り、距離を置く決意をした。

Aさんの旅先での様子、キレ方、その辺りから、早苗さんのメンヘラの片鱗を感じつつあった。

軽々しく旅行に行くと話したのは無神経だった。
全面的に私が悪い。

だが、そこまで一日中根に持ってキレられるのはまた違う話で、私が早苗さんの八つ当たりに耐えるかどうかも別の話である。

メンバーを選んだのも私ではない。
私の性格では多分早苗さんに上手く気を遣えないし、そもそもコミュ障で無神経な私である。

まだ浅い付き合いのうちに距離を置いた方がいいと判断した。仕方ない、それでいいと思っていた。
誰とでも仲良くできるわけではないし、無神経な私、色んな人に幹事やるなら誘ってと頼まれても、行きたいと申告する人全員を集めたらキャパオーバーである。
個人個人、誘える時もあれば誘えない時もある。
それを理解せずキレる人とは無理に付き合わないでいいと思ったのだ。

失言には気を付けようと思いつつ、なかなか治せない。
自分のそういった特性も理解して、拗ねてキレた早苗さんとはさようならを選んだ。

だが、その後、早苗さんの様子が変化した。

急に私に媚びてくるようになったのである。

(続く)

サクラナミキレン

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