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「ソウルメイト・ドラゴン~篤あっつつ~」第三話 運命は「もし・・・」を超えた積み重ね

運命は「もし・・・」を超えた積み重ね

「今の日本の状況がわかるか?
アメリカやイギリスなどの外国が目を光らせ、日本を狙っている。
が、我が国は徳川が外国との交易を一部だけ認め、鎖国を続けている。時代遅れのまま裸で、世界から取り残されている。そのことに気づいているものは少ない。
今、外国から攻めてこられたら日本は何の準備もなく、すぐに占拠されてしまうだろう。この国はどこかの属国に成り下がるだろう。
日本は変わらねばならぬ。
日本を変えるためには、トップに立つものの考え方を変えねばならぬ。
お前は十三代将軍家定様に嫁ぎ、次の十四代将軍を水戸藩の徳川慶喜様を押してほしい。
今、幕府内では我らのように徳川慶喜様を時期将軍に推す者たちと、大老井伊直弼の推す紀州藩主の徳川慶福様に意見が分かれている。
本来、島津家は外様であるから幕府に意見することは、はばかられる。
が今のままの幕府が治める日本では、ダメなのだ。
紀州の徳川慶福様を押しているのは、南紀派だ。
南紀派は、ほとんどが譜代大名。これまで幕府で権力を握っていた者たちだ。
対して水戸藩の徳川慶喜様を押している我らや、外様や将軍の親戚筋にあたる親藩は、これまで政治から遠ざけられていた。
我ら一橋派が推す水戸藩の徳川慶喜様が時期将軍になれば、我らの発言権も増す。
お前の役目は家定様に時期将軍を徳川慶喜様に名指ししてもらうのを最善の策、とアドバイスすることじゃ。
その為に我が島津家から聡明で度胸もあるお前を家定様に送り込む。
これが、わしの本当の狙いじゃ」

お義父上の目は野心できらり、と光っていた。私は話を聞きながら重責を負わされた背中がゾクッと震えたのを感じた。お義父上の養女になった裏側に何かある、とは思っていたが、国の命運を左右する使命が隠されていたとは思わなかった。
情けないが震える声で、尋ねた。

「して、お義父上。水戸藩の徳川慶喜様とは、いかなる人物でございましょうか?」

お義父上は腕を組んで、おもむろにうなづいた。

「うむ。もともと徳川慶喜様は、水戸藩の徳川斉昭殿の七男としてお生まれになった。
が幼少時から優秀だと評判だったので、斉昭殿はどこにも養子に出さず手元に置いて育てていた。
老中の安倍正弘殿から徳川御三家の一ツ橋家の跡取りにしたい、との声がかかり一ツ橋家を相続され、慶喜様と名乗ることになった。
そして天皇を敬い、この国を外国から守ろうという気構えと思いを持っておられる方じゃ。
だから慶喜様に時期将軍になってほしいのだ」

正直、お義父上の話だけで徳川慶喜様の人となりはわからない。
私は何でも自分の目で見て体験し、心で感じたい。
自分の心が感じた事だけが、本当のことだと信じている。
ならば徳川慶喜様にお会いし、本当にそのお人柄が時期将軍にふさわしい方かどうか、心で感じたい。
私の心がそうだ、と納得した時初めてお義父上の意見に賛同し、心から応援できるだろう。
その為にまず、私自身が今の将軍である家定様の妻になることなのだ。
頭の中で義父上に言われたことを整理し、私は頭を下げた。

「お義父上様、わかりました。篤は謹んで家定様と結婚し、そのお役目を果たしたいと存じます」

お義父上様はポン!と膝を叩いて叫んだ。

「よう言うた!お前のその決意を確認したかった。お前はこれから江戸に行くのじゃ。
江戸の屋敷で、将軍家に嫁ぐための教育を受けてもらう。
教育係に、幾島、というものを用意しておる。
幾島は我らのおば上で京都の近衛家に嫁いだ郁姫様付きの上臈として仕えていたものじゃ。
郁姫様亡き後は出家し、郁姫様の菩提を弔っておったが、こたびのことが決まり、名を幾島、と改め、お前の教育係になってもらった。
幾島に任せておけば安心じゃ。
しっかり将軍の御台所としての心構えや教養、行儀作法、大奥のことを学んでくるがいい」

私は心の中でひえ~~~、と叫び、飛び上がりそうになった。
乳母から解放されたと思ったら、今度は御台所様付きの教育係にしごかれる、と思うと目の前がくらくらした。
だけど確かに今のままの私では御台所にはなれない。
幾島という彼女からしっかり学び、家定様にふさわしいレディーにならなければ、未来は開かない。
レディーはレディーでも、ファーストレディーだと、このわたしが!
想定外の現実を目の当たりにすると、人は可笑しくなる。私も笑いそうになり、この展開を夢かと思い頬っぺたをつねってみた。
きっちり痛い。だからこれが現実だ。なんという現実だろう!
龍の背中に乗ったはいいけれど、揺さぶられ振り落とされないようにしがみついているのが、精いっぱいだ。

江戸に行く。
この薩摩を出て、江戸に行くんだ。
もし、家定様のお迎えになった御台所が、ご健在であれば・・・・・・
もし、家定様の側室にお子様が生まれていたら・・・・・・
もし、家定様の跡継ぎにすでに慶喜様が決まっていたら・・・・・・
私の出番は微塵もなかった。

運命は「もし・・・」を超えた積み重ねで、動いている。
それは少し前に決まった顔をしているが、本当はずっと昔、私が生まれた時から決められていた定めかもしれない。
人は定めから逃げることはできない。
なら立ち向かっていけばいい。
私はどんなに揺さぶられても、龍の背中にしっかりとしがみつき進んでいく。
「さぁ、一緒に江戸に行こう。家定様のとこに行こう」
目には見えない運命という名の龍に、声をかけた。

この時の私はまだ知らなかった。
江戸で待っている幾島が、最強で最凶の教育係だったとは・・・・・


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