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「ソウルメイト・ドラゴン~篤あっつつ~」第二十四話 自分から開くことで、人を開いていける

自分から開くことで、人を開いていける

 慶喜の逆襲を怖れていた西郷の前に現れたのは、勝海舟だった。勝は江戸城で大阪から逃げ帰った慶喜に呼ばれた。当初勝は、皆を置き去りにし自分だけ戦場から逃げ帰った慶喜に激怒していた。慶喜は勝に、お前しか頼れるものがいない、と頭を下げ、彼の怒りを治めた。その結果、二月に慶喜は勝にこの状況の取りまとめを頼み、自分は上野の寛永寺大慈院に引きこもり、謹慎して朝廷に従う意志を見せた。それを知った私達は大奥で「慶喜はまた逃げよるぞ」と冷ややかな目でこの状況を見ていた。ある意味、彼の行動は一貫している。あとは、頼むぞ、わしゃ知らん!と、火をつけるだけつけ、後の火の始末は人任せ。私はこれで慶喜の顔を見るのは最後にしたい、と勝手に自分で大奥を仕切る扉を開いた。これまで限られた者にしか開かれなかった扉に手をかけると、いとも簡単に開いた。これまでどれだけ女達がここに閉じ込められ、愛憎のるつぼにいたのだろう、と思うと切なくなり、そっと扉を閉じた。訪れる主を失った大奥に鍵など必要ない。私はその足で慶喜のいる寛永寺に行った。

寛永寺の静かな部屋の中で、彼と向き合って座った。
「慶喜様、あなたはすきなだけ寛永寺で、引きこもって下さい。が、徳川宗家の家督は、亀之助にお譲りください。とっとと、私と静寛院宮様が守ってきたこの徳川から出て行って下さい!徳川はあなたを、必要としておりませぬ! 」
長い間、ため込んできた怒りを吐き出した。慶喜は苦々しい顔をした。
「これでも、私は十五代将軍として徳川を守ってきました。その私に徳川を出て行けとは・・・・・・  あまりの言葉ではないですか? 」
「はっ! 徳川を守ってきた? 鹿も休みやすみ言ってちょうだい! あなたがやったことはすべて、最後まで責任を取らず、誰かに尻拭いをさせることでした。今は、勝にそれをやらせています。勝も大層、困っていることでしょう。ハッキリ言います。あなたは、国を守る将軍の器ではない。将軍の資格はありません。最後に一つぐらい、きっちり後始末をしてこの江戸城から出て行きなさい。この江戸城も徳川も、残された私達が守る。あなたの力なんぞ、借りません」
「後に残された女達だけで、一体どうやって守るというのです。あなたの故郷の薩摩の西郷が、江戸を壊滅させようとしているのに」
この時、私の中で最後まで抑えていた理性の糸がぶちん!と音を立てて切れた。
「西郷が倒したいのは、卑怯者のあなたよ!
 あなたさえ徳川から身を引けば、話が変わるわ!西郷は、私が話を通す。この城も、江戸の町も私が守ります! 」
そう言い放ち、慶喜の顔を見ずに立ち上がり背を向け、出て行った。徳川は彼を見限った。卑怯者の慶喜だったが、最後に一つだけ約束を守りその後、徳川宗家の家督を亀之助に譲った。
有終の美を飾り、彼は江戸城から退城していった。だがこれは内内でのことだった。徳川家存続は、まだ朝廷に認めてもらっていない。朝廷に正式に認めてもらうことで、初めて徳川宗家は継承される。しかし慶喜が去ったことで、徳川をわずらわすものは、いなくなった。私はこれからこれからどうやって西郷と話を通すか、腕組みをし考えた。幾島からの情報によると、新政府の中で徳川に厳しい処分を求める強硬派と、穏便にすませる意見が対立していることがわかった。その強硬派のトップが西郷だった。

 私は静寛院宮様と相談した。
「静寛院宮様、私は西郷に手紙を書こうと思います。嘘偽りのない私の正直な気持ちを、彼に伝えます。私が家定様に嫁ぐ際の花嫁道具一式を揃えてくれたのは、あの男です。それを西郷に返さねばなりません」
すると、静寛院宮様も凛と背筋を伸ばし。言った。
「私も朝廷に、徳川存続の願いを出します」
私達の思いは、また一つに結ばれた。目頭が熱くなり、涙でにじむ。私達は見つめ合い、手を握りしめた。どこの誰が、彼女が家茂様に嫁いできた時、こんな日がくることを想像しただろう。自らの意思ではなく、龍に運ばれ大奥に連れてこられた私達。んなに反目し合った私達は今、力を合わせ、この徳川を守るために着々と動き始めた。それは徳川を救うだけでなく、百万の民が暮らすこの江戸の町を守ることでもあった。

 人はいつからでも変われる。こうしたい、という未来のゴールがハッキリしていたら、自然とそこに向かうため、今何をしたらいいのか見える。女だからこそ、男には見えないものが見える。
男には開けないものが、開ける。私達が歴史を開く。それにはまず、自分から開くことだ。
自分を開かずには、人を開くことはできない。
自分から開くことで、人を開いていける。

私は勇気を出して、自分の中にある思いを、開いた。


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運命を開き、天命を叶えるガイドブック

あなたは誰かを変えようとしていませんか?

人は誰かによって変えられるのを、好みません。

誰かを変える前に、自分を変えること。

自分を開くことが大切です。

自分を開くのは、とても勇気がいります。

覚悟もいります。

だからこそ、変わります。

まず自分からです。



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