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リーディング小説「生む女~茶々ってば~」最終話 後悔しないよう、生きて生きて生き抜いて

後悔しないよう、生きて生きて生き抜いて

私があなたに伝えたいのは、自分を赦す、ということ。

思いが、運命を引き寄せる。
宿命と運命はちがうことを、あなたは知っている?

宿命は、私が浅井家の長女として父上と母上の娘に生まれてきたこと。
女性であること。
戦国時代に生まれてきたこと。
日本に生まれたこと。
変えられないものが、宿命。

運命は、自分の命を運ぶ流れ。
自分が決めた選択により、命が流れていくこと。
これは「自分の思い」で決められる。

私はこの「自分の思い」に、ずいぶん長いこと蓋をした。
秀頼を誰よりも愛していることを早く自覚しておけば、もしかしたら秀頼を生かすことができたかもしれない。
自分の保身を図らなければ、豊臣はサイズダウンし生き延びられたかもしれない。

だけど、私はこうやって生きるしかなかった。
たくさんの血を流しながら、それでも一生懸命生きてきた。
豊臣の未来を模索した。
秀頼と生きようと思った。
大蔵卿局や治長も幸せにしたかった。
でも、できなかった。

できなかった自分
息子以外の男を愛せなかった自分
女として、母親として、天下人の後見人として、偏っていた自分

そんな自分を、私は赦す。
正当化するわけでもなく、ただ赦す。

人は完璧になどなれない。
偏っていたり、ゆがんだところがあるから、精いっぱい生きようとする。
それでいいのではないか。
自分を卑下しなくてもいい。

どんなに汚い自分でも受け入れることが、赦すこと。
だから、私は汚くてずるい自分を赦す。

私は自分の人生を後悔していない。
強か(したたか)に、この世を生き抜いた。

私は秀頼を抱きしめた。子供の頃のあの子を抱くように、大人になった彼を抱きしめて伝えた。

「もうよいのですよ、秀頼。
あなたは、よくやった。
豊臣をここまで続かせたのは、あなただからできたのです」

私は母親として、秀頼をほめた。
秀頼がずっと私に認めてほしかったことも知っていた。
わかっていたけど、言えなかった。
それを言葉に出すと、母親としてしか生きられなくなるから。
でも、もういい。
秀頼が欲しかった言葉を伝えよう。
それは、本当のことだから。

「母上・・・・・」

秀頼が泣きそうな声でつぶやいた。

「もう、よい。
もう、よいのです」
もう、よいと何度も繰り返し、言った。

それは、私が私自身に伝えた言葉だ。

もう、よい

息子を男として愛した自分も、赦す。
何もかも、自分を赦す。

生きて生きて、生き延びてきたのは、彼のため。
秀頼がいたから、この世界が輝いた。
秀頼がいたから、自分を偽って生きてこられた。

私は勇気を出し、最後だから言える言葉を口にした。

秀頼の頬を両手で挟み瞳を見つめ、万感の思いを込めて伝えた。

「愛している。
あなただけを・・・・・・」

ようやく、本当の気持ちを開けた。
長い間、閉じ込めていた思いを言葉にできた。
心のつかえが取れた。

もう何も思い残すことはない。
徳川がこの国を治めようと、どうしようと、すきにすればいい。
私達は先に逝く。

生涯、ただ一度だけ口に出した言葉
「愛している」

秀吉にも治長にも言えなかった言葉。
秀頼にしたら、母親として息子の自分を愛している、と受け取っただろう。
だけど、それでもいい。言葉に出せて本当に幸せだ。
あの世にいく寸前、喜びが頭の先からつま先まで、エクスタシーで満ち満ち溢れた。
私は自分で自分の言葉に酔っているのかもしれない、と目を閉じた。

その時、治長が私を現実に引き戻すように叫んだ。

「淀様!もうお時間がありません!!」

治長が死への背中を押す。私は目を開き、治長の方を向きうなずいた。

「わかった。もう、よいぞ」
治長がシュッと刀を抜いた。刀の刃に赤い炎がゆらめいた。
私は愛する秀頼の顔を、しっかり見つめた。
愛おしい面影を胸に刻み、静かに目をつむる。

ああ、ようやく自由になれる、そう思った時だった。

「母上、私も愛しています・・・」

秀頼の声が聞こえた。

ああ
ああ
なんという幸せ。

母として愛されていても、かまわない。
この言葉が聞けただけでも、本望だ。
ありがとう、秀頼・・・・・・

この世を去る段になって、生まれて初めて思った。
そして、その思いは言葉になって口からもれた。

「ああ・・・・・
生まれてきて・・・・・
よかった・・・・・・」

治長の刀が大きく振られた。
私の頬にあたたかい喜びの涙があふれた時、胸に治長の刃が突き刺さった。

私は身体から自由になって、飛び去った。

「茶々ってば、もう・・・・・・」
今終えた人生を振り返るように、つぶやいて笑った。私はいつの間にか、少女の茶々になっていた。そしてすぐ後にきた秀頼と手を取り合った。秀頼は少年の頃の秀頼だった。

私達は微笑み合って手をつなぎ、大空を目指した。

崩れて火に包まれる大阪城から抜け出し、天を目指し飛んでいく。私達の後を追うように、大蔵卿局や治長がついてきた。

どこまでも、飛んでいける。

私達は空にとけていった。


あなたも今いる場所で、どこまでも飛んでいける。
隠していた自分の本音、という翼を開き、自分を赦し、強かに生きていい。

あなたの人生は、あなただけのもの。
誰に何と言われようとも、そうなのだ。

後悔しないよう、生きて生きて生き抜いて。
生まれてきてよかった、と思えるように生き抜いて。

あなたは、愛されているから。

終わり

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したたかに生き愛を生むガイドブック

生まれてきてよかった、と思えますか?

生まれてきてよかった、と思えたこと・・・

どれくらい、ありましたか?


ない、と思った方は、気づいていないだけか、忘れているだけかもしれませんね。

きっと、これからたくさんありますよ。

そう思える時間を過ごしましょう。


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