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「ソウルメイト・ドラゴン~篤あっつつ~」第十七話 小我を手放した時、大我はその姿を現す

小我を手放した時、大我はその姿を現す


和宮様は、御所風のやり方を大奥で通せるように私をコントロールしようとし、私はこれまでの大奥でのしきたりややり方を通せるよう和宮をコントロールしたかった。私達はお互いをコントロールしようとしていた。
何年も後に
「あの時は私達、火花バチバチですごかったわよね~!」
と笑い合っていたけど、当時はそんな余裕なんてなかった。

どちらも自分がマウントを取りたかった。
当時私は和宮様のことをこう言っていた。
「山より高い、和宮様のプライド」
それに対して、彼女は
「誇りをたたく、薩摩の姑」
私達の対立は、大奥を巻き込みどんどん広がっていった。

「天璋院へ」と呼び捨てで書かれた彼女からの私への贈り物の宛名。
それを受け取った私の侍女たちは
「お義母様である天璋院様を呼び捨てにするなど、なんということでしょう!」
と怒りでブルブルと震えた。
が、幾島がため息をついて言った。
「そうですね。一般的な嫁姑の関係からすると、失礼なことです。
けれど和宮様にしたらそれが違和感なく当たり前のことかと存じます。
大変失礼なことを申し上げますが、位で言いますと皇族である和宮様の方が上なのです。
ですから和宮様は意地悪や邪なお気持ちで、このようなことをしたのではありません。
和宮様の中で、これは当然のことなのでございます」

私は幾島の答えに、大きくうなずいた。

「なるほど・・・誰もが自分の考えややり方は正しい、と思っている。
私もそうであった。つまり、自分の常識は人の非常識、ということだな」

ぱん!と滝山は膝を打った。

「さすが、天璋院様!まさにその通りでございます。
ましてや和宮様はこれまで皇宮でお住まいになられ、世間一般の暮らしとはかけ離れた生活をしておられました。
そこでのしきたりややり方が、和宮様の常識でございます。
長く慣れしんだそれらは、徳川に嫁いだとは言えすぐに変わるものではないでしょう。
甘いかもしれませんが、もう少し長い目で見て差し上げたらいかがでしょうか?」

「そうだなぁ」

幾島の言葉は和宮様に対し、とげとげしい気持ちを持っていた私の心を平らかに包んだ。
そうだ、彼女も嫌々ながらも龍の背に乗ってここに運ばれてきた。
幼い頃から「この人」と決められた愛するフィアンセとのご縁を断ち切られ、死にたいほどの思いで、徳川に嫁いできたのだ。
私のように、誰も愛する人がいなかった身の上とはちがうのだ。

私は改めて和宮様を、これまでとちがう眼差しでみるよう努力した。

そんな中、少しずつ和宮様と家茂様は愛を育んでいった。
私はそれが、何よりうれしかった。
二人が並んで言葉を交わす姿は、一対のひな人形のようだった。
少女のように恥ずかしそうに頬を赤くし、家茂様と話しをする和宮様。
そんな和宮様をあたたかく愛を込めて見守る家茂様。
この光景は、どこかで見たことがある、と思った時、懐かしい思いが胸に流れ込んだ。
ああ、そうだ。
それは私を見つめていた家定様と同じまなざしだった。
大奥を敵に廻し、一橋慶喜様を跡継ぎにするために嫁いできた私を知りながらすべて受け入れ、大切な秘密を話してくれたあの家定様の大きな大きな愛。
その時、家定様の声が聞こえた。

「御台、何をしょうもないことで意地を張っている?
大切なのはそこではないだろう?
この国の平和ぞ。未来ぞ。
そのために、私もそなたも龍に運ばれてきたのだろう?」

私はハッ、と夢から醒めたように背筋を伸ばした。

どうしてこれまで、大切なことを忘れていたのだろう。
目先の些細なことしか見ず、どこを見ていたのだろう。

自分を叱咤した。
ようやく気づいた。私のお役目と、和宮様のお役目は同じだ。
どちらもやり方は違えど、この国のより良き未来のためだ。
それなのに小我に気を取られ、大我を見過ごしていた。
大切なのは、私のプライドやしきたり、やりかたなどではない。
もっと大きな大我。
この国の未来だ。

それを思い出した私の胸は震え、涙が込み上げた。
「お義母様、いかがされましたか?」
家茂様が、不安そうなお顔で私を見ていた。
そばにいる和宮様も、私の様子に驚き言葉を失っている。

「いえ、お二人の仲が良いのを見て、うれしいのです。
私と家定様のバトンをあなた達が受け取ってくれて、心から感謝しています。
お二人の婚姻はいろんな思惑によって成されたものですが、その先にはこの国の未来があります。
お二人が、この国の平和な未来の礎になると思うと胸がいっぱいになりました。
和宮様、本当にありがとうございます」

私は和宮様に頭を下げた。
これまで対立していた姑の私が頭を下げたことに、ビックリしながらも彼女もおずおずと頭を下げた。
この日を境に私達は、少しずつ心を通わせていった。
それからしばらくし、幾島が宿下がりを申し出た。
幾島は病にかかっていた。
私は幾島の申し出を承諾し、幾島は徳川を去って行った。
去っていく幾島の背中を見ながら、私は一つの時代が終わっていくのを感じた。

何もかも変わっていく。
移り変わっていく。
小我を手放した時、大我はその姿を現す。
成すべきことが見えてくる。

幾島の退出は二百五十年以上続いたこの国の歴史が、新しいページを繰って大きく変わるプロローグだった。


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