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リーディング小説「お市さんforever」第八話 妻でも嫁でもなく、これが私の生きる道

妻でも嫁でもなく、これが私の生きる道

兄上との戦が始まった。浅井と織田の同盟が破綻しリセットした浅井は少しずつ追い詰められ、どんどん苦しい立場になっていった。頼みにしていた援軍もあまり来ない。戦が始まる前まで疎まれていた私に、周りから注がれる視線が微妙に変わってきたのに気づく。こっそり私に機嫌伺に来る者、私に「実は以前から、信長様にお仕えしたいと思っていました」なんて話をしにく者・・・・・・みな、どちらに味方した方が勝ち目があるのか頭の中でそろばんをはじいていた。

私はそうやってささやく者達に「あら、そう」とイエスともノーとも答えず、目を合わさずお茶を飲んだ。私がスルーしたから、今度は美味しいと評判のお茶をお菓子をどうやって調達したのかわからないけど、持ってきた。おかけで私のところにはいつも美味しいお茶とお菓子がふんだんにあり、茶々や侍女達を喜ばせた。人は誰にも自分がかわいい。誰だって負け戦に加担したくないものね、そう思いながら送られたかりんとうを口にくれた。香ばしいかりんとうが口の中で弾け、甘みが広がった。

「お市様、このかりんとうは美味しゅうございますね~」とさきが言い、最近城内で噂になっている舅の話をした。「この頃、久政様は夜も眠れないようで、フラフラ夢遊病のように城内を歩いているそうです。げっそりやつれ、着衣も乱れたそのご様子に城内では、ノイローゼではないか、と言われています。」「そうね、時々ここにも来るけど、何も言わず怯えたように私達を見て、すぐ出て行くものね」と私はまたかりんとうに手を伸ばしながら言った。さきは真剣な顔で「信長様に寝首をかかれる夢でも見たのではないでしょうか?」と言うから「あ~ら、男の更年期かもしれなくってよ」と私はけむに巻いた。

危ない、あぶない、誰がどこで話を聞いているかわからないもの。さきは無邪気だから悪意がないけど、悪意がない噂ほど広まっていくものよ。さきがいれてくれた温かいお茶を飲みながら、つくづく舅の見る目のなさにいら立った。ああ、舅が朝倉につかず織田と同盟を組んだままだったらよかったのに!!そう思ったら「まったく・・・・・・頭が痛くなっちゃう」と私は額に手を当て、うつむいた。すると茶々が心配そうに「母上様、どうしたの?」とのぞきこんできた。
茶々のつぶらな瞳で聞いてくる様子が愛くるしくて、私の顔は笑みが広がった。さすが、私の娘。可愛いったらありゃしないわ。私は茶々を膝に乗せて言った。

「大丈夫よ、茶々。
あのね、女は嫁いで夫の家に入っても、自分の生まれた家の方が大切なの」
「織田の伯父様?」
「そう、あなたはまだ会ったことないわよね?
私の兄上、あなたの伯父様は天下を取るすごい方なのよ。」

「お父様は?」
「お父様は、とてもやさしい方。
やさしいからこそ、天下を取るのは無理なの。
だから天下を取る兄上のサポートをしてほしかったんだけどね・・・」
そう言いながら、私はかつて仲の良かった夫と兄上の姿を思い出し、胸が締め付けられ、涙がこぼれそうになった。
この時すでに私は、浅井の行く末を予感していたに違いない。

血は強くいやらしい。
私は浅井に嫁ぎながら、自分の中に流れている織田の血を誇りに思い、より実家にひかれる。
女の本能として、より強い家の血を残そうとしているのかもしれない。
夫を愛しているが浅井家の妻で嫁である自分を、どこかで百パーセント認めたくない。
この戦乱の世で、弱いがやさしい夫を愛しすぎたのかもしれない。
いっそ、ただの政略結婚で愛などない方が楽だったのかもしれない。
でも、私はそんな生活は耐えられない・・・
だって、私よ。お市よ。私はただのお市という一人の女。
妻でも嫁でもなく、愛する人と共に生きることを選んだ一人の女。
世間にどう見られたって、何を思われたってかまわない。だって

「私は、わたしだもの・・・・・・」
そう小さくつぶやいた。
「わたしは、わたし??」
小さな茶々が、私の言葉を真似て言った。

「そうよ、茶々。
あなたがこの先、どんな家に嫁いでも、どんな人の子どもを産んでも、あなたはあなた。あなたは茶々、という一人の女。その事実は変わらない。
だから自分に自信を持って生きるのよ!」と膝に載せた娘のあたたかく小さな身体を抱き寄せた。

私は妻でも嫁でもない。ただ一人の女。そして私という女は、ただ愛する人のそばにいたいだけ。
彼との子どもを守りたいだけ。・・・だから、私は今よりもっと強くなる。

そう心に決めた私は、娘を抱く手に力を込めた。
今よりもっと強くなる決意は、浅井という家の妻であり嫁だった自分への決別。私は過去の自分に手を振った。サヨナラ、お市。
私はもっとしなやかに生きる。
妻でも嫁でもない、1人の女として生きていくの。

これが私の生きる道。


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