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【現代詩】「output」#9

前回

思考だとか趣向だとかそんなものが私の中で一定であるはずがないそれは常に流れ続けていてほぼ一瞬も形をはっきりと現すことのない貴女の記憶貴女達の記憶ある朝に私はいつか大好きだった貴女を想い出し心臓がぎゅうと絞り上げられるような感覚をもったそう貴女が好きだったそう貴女が好きでおそらくそれまで出会った誰よりも私をときめかせ欲情を沸かせた貴女しかしついに私はこの腕に掻き抱くこと無くどこまでも果てしない喪失の淵に立ち尽くしながらとある裏切りの結果として去ることを選んだまたある夜には若くいや幼いとも言えるほどの幼稚な恋の対象となった貴女を想い白い壁明るすぎる陽の光褐色の肌褐色の額に汗を滲ませながら大きく笑った時代に戻っている私はあの空白の時代貴女の笑顔に触れるそのためだけに毎日を生き眠る必然を感じない情念の闇の大きな大きな波にのまれながら純潔の汗とともにあの褐色の額で輝いた漆黒の髪を瞼に浮かべそれが胸を覆って私を包む柔らかな感触に総毛立ちながらただただやはり大きく笑うその笑顔の寂しさにどこか哀しさにどこか惹かれてまた惹かれてあれほどの寂しさにあれほどの哀しさにいつでも打たれていただろうことを知れば知るほど更にまた貴女の寂しさ貴女の哀しさはあの大きな大きな笑顔の裏側にきっと黒く渦を巻いて金切り声を張り上げながら褐色の額を掻き毟り大きな瞳を閉じて掌で覆い殺した声の亡骸のような喉を裂き奥歯を砕くような聡明な脳天をカチ割るような雑音めいた啜り泣きをひた隠し見つめ合うとやがて口角が下がる褐色の額で汗に輝いていた黒髪の流れは肩に落ち頬の震え唇の震えを伴って微細に繊細に乱れて私の胸の皮膚を剥ぎ肉を破り骨格を撃ち抜いて直接心臓に絡むのだそれでいいそれでいいどうかどうか貴女の震えのその全てを私にどうか

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