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映画【ランブルフィッシュ】

トム・ウェイツが脇役で渋く出演

 トム・ウェイツという歌手/俳優が大好きで記事を連載している私。
 今回は彼も脇役で出演している映画【ランブルフィッシュ】について書いてみようと思う。

不良が溜まる店のオーナーであるベニー役のトム・ウェイツ

 トム・ウェイツ扮するベニーは、全体に不穏な空気に包まれているこの映画の中での息抜きになるような存在になっている。
 リズミカルでラップするような彼の口調とダミ声、いつもクチャクチャとガムを噛みながら不良少年たちを見守る彼の軽快でコミカルなキャラクターがとてもいいアクセントになっている。

【ランブルフィッシュ】という映画

概要

 この映画は、【ゴッドファーザー】や【地獄の黙示録】等で有名な巨匠フランシス・フォード・コッポラが監督した作品で日本では1984年に公開されている。
 この前年に日本公開された【アウトサイダー】翌年に公開された【コットン・クラブ】と並んでコッポラの青春三部作(日本ではヤングアダルト三部作と言われていたと記憶)となっている。
 ただ、この3作品を並べた中でも【ランブルフィッシュ】は明らかに異質。テーマや時代背景は【アウトサイダー】と被る不良少年たちの青春と葛藤と悲劇を描いているのだけど、内容がいわば【アウトサイダー】のダークサイドを更に突き詰めて、精神論にまで達するような、青春映画としては難解な部類の作品と言えるのではないかと思う。
 【アウトサイダー】に登場する少年たちよりやや上の年代の話で、思春期特有の不安定な状況を更に深く掘り下げて描いている。
 【アウトサイダー】も【ランブルフィッシュ】も、この当時アメリカの教科書にも掲載されていたスーザン・E・ヒントンの小説が原作になっている。私は2作とも読んだが原作の【ランブルフィッシュ】に登場するモーターサイクルボーイは映画版よりもやんちゃな印象だったと記憶している。
 ちなみに、ヒントンさんはこの映画にちょこっと出演もしている(笑)

音楽

 この映画の音楽を担当しているのはポリスのドラマーだったスチュアート・コープランド。
 ドラマーの彼らしく、タイプライターや車のクラクションの音などが、パーカッシブな使われ方で音楽として表現されている。
 また、エンドロールで流れる”Don't box me in”はスタン・リッジウウェイをフィーチャーしている。サウンドはやはりポリス的で途中からレゲエのリズムが入ってきたりもする面白い曲で、歌詞は明らかに映画の内容を追う書下ろし作品になっている。

キャスト

 この映画のキャストを今見るとあまりにも豪華に思えるが、当時有名だったのはマット・ディロン、ダイアン・レイン、デニス・ホッパーくらいだったのではないだろうか。
 メインキャストのほとんどがその後、何らかの形で成功を収めている。

マット・ディロン(ラスティ・ジェームス)
ミッキー・ローク(モーターサイクルボーイ)
ダイアン・レイン(パティ)
ニコラス・ケイジ(スモーキー)
ヴィンセント・スパーノ(スティーヴ)
クリス・ペン(BJ)
デニス・ホッパー(ラスティとモーターサイクルボーイの父親)
トム・ウェイツ(ベニー)
ソフィア・コッポラ(パティの妹)

あらすじ

 アメリカのとある田舎街。
 複数の不良少年グループの間で多発していた抗争を圧倒的な強さとカリスマ性で治め、グループ同士では争わないという協定を結んだ後、突然いなくなった男モーターサイクルボーイを兄に持つラスティは、兄の不在を埋めるかのようにケンカに明け暮れていた。
 ラスティを目の敵にするBJとのケンカの最中、いなくなった時と同様にモーターサイクルボーイが帰還する。
 負傷したラスティを連れて家に帰ったモーターサイクルボーイは、弁護士崩れで酒浸りの父とラスティとの3人で元の暮らしに戻るかに見えた。

ラスティ、モーターサイクルボーイと彼らの父親

 また兄と仲間とでグループを作って暴れたいと思う血気盛んなラスティは、旅から帰って人が変わった様に静かになった兄にイラつきながらも、そんな兄を心配している。モーターサイクルボーイがグループのリーダーだった頃から付け狙っている警官が、彼を捕えようと周りをうろつき始めていたからだ。

警官とモーターサイクルボーイ

 ある日、モーターサイクルボーイがペットショップで魚を見ていた。タイ産のランブルフィッシュだった。好戦的で鏡に映る自らの姿にも攻撃をしかける魚を見て「きっと広い川に戻せば戦わなくなる」と言う兄が正気を失ったのではないかとラスティは訝しむ。
 そして、モーターサイクルボーイはペットショップを襲撃。檻の中の動物を次々に開放し、「俺のバイクで海へ行け」とラスティに言い残してランブルフィッシュを川に放そうとする。

モーターサイクルボーイとラスティ

 だが、彼は川に行く途中で彼を狙っていた警官に射殺されてしまう。
 死んだ兄の傍で跳ねる魚を川に放ったラスティは、バイクで海に向かって走り去って行く。

【ランブルフィッシュ】のみどころ

モーターサイクルボーイの圧倒的な存在感

 私はこの映画を観て、とにかくミッキー・ロークの演じるモーターサイクルボーイに惹きつけられた。憧れと言ってもいい。
 登場から最期まで全ての動き、全ての言葉に魅力がある。
 何を言われても決して激昂することなく、常に静かに囁くような口調で話し、ゆったりと動き、それでいてピリピリと張りつめた狂気が全身から溢れ出している。
 特に、最初の登場シーンの衝撃的なかっこよさは一生忘れないと思う。
弟に優しく語り掛ける微笑。一転して弟を切りつけた相手を見据え冷静に一撃で仕留める時の、静かな怒りの表情。
 この後、ミッキー・ロークの作品も多く観てきたが、私的に彼の最高の演技がここにあると思っている。

斬新な撮影・編集

 【ランブルフィッシュ】は基本的にモノクロなのだが、この当時は珍しいパートカラーになっていて、鮮やかなランブルフィッシュ(ベタ)やパトカーのライトだけがカラーで表現される。


 色覚異常のあるモーターサイクルボーイ的な視点でモノクロになっているのだと思うが、これがパトライトや魚の色を更に鮮やかにそして危険に見せる効果を生んでいる。巨匠コッポラの想像力の深さが顕れている。

繊細でメッセージ性の高い名言だらけの脚本

【ベニー】
時ってのは
おかしなもんさ
若い時には あり余ってるのは 時間だけ
だから2年や3年 のらくらしても
どうってことない
平気

だが年をとると
”残りは?”
”夏にしてあと35回”
すぐだ
35回の夏なんて

【モーターサイクルボーイとラスティの会話】
Boy「笛吹き男にはなりたくないんだ。近所の変わり者ぐらいの方が気楽さ」
Rusty「笛吹き男の事なら知ってる。皆がついてくんだろ?もう一度やったら?おもしろいぜ」
Boy「じゃ訊くが”笛吹き男”って何だ?」
Rusty「笛を持ってて 皆があとをついていく」
Boy「笛の音でな。笛を吹くと川までついてって飛び込むんだ」
Rusty「知らないけど・・・兄貴がやればそうなる」
Boy「だが人について来させるには 行く先がないと…」


【モーターサイクルボーイとラスティの会話】
Boy「(ギャング同士の争いは)くだらなかった」
Rusty「何かあったはずだ。だからリーダーに・・・」
Boy「最初は面白かったさ だがすぐ退屈になった。皆は俺がケンカを終わらせたと思っているが、本当は違う。皆も嫌気がさしてたんだ」
(最初だけでも面白いはずがない、と主張するスティーブに対して)
Boy「これは個人的な話だ。ほとんどの者は楽しむ余裕がなかった。青くなってたよ・・・恐怖を勇気と錯覚して」

【ラスティとモーターサイクルボーイの父親】
「人は時に世間の常識とは別の考え方をするが、だからと言って正気じゃないとは限らない」
「つまり知覚がいくら鋭敏でも、異常だとは断定できんのだ」
「だがその知覚が人をおかしくする事もある」
「おまえのお母さんはおかしくなんかない。兄さんにも同じことが言える」
「ミス・キャストなんだ。彼は間違った時代に生まれた。川の反対岸で」
「その気になればどんなことでもできるのに・・・したい事がないのだ、何ひとつな」

まとめと個人的な感想

 青春映画という体裁ではあるが、実際は大人に向けた強烈なメッセージが込められた作品だと言える。
 あまりにも陰鬱で、人によっては理屈っぽいと感じるかもしれないが、映像・音楽・脚本のすべてにコッポラの熱量を感じる。
 私はこの映画を日本公開当時に劇場で観ているが、その後も名画座系で再映される情報を見つけては観に行き、数年の間に10回以上は鑑賞していると思う。
 今観直しても、ミッキー・ロークの演じるモーターサイクルボーイは色気があってかっこいい。彼はこの後【ナインハーフ】というエロティック・サスペンスで大ブレイクしたが、私は全く良いと思えなかった。実際彼もあまり乗り気ではなかったようでその後のインタビューで悪態をついているのを読んだことがある。
 面白いのは、後年になってミッキー・ロークとマット・ディロンはチャールズ・ブコウスキー原作の自伝的小説の映画化で主演をしている。演じているのはどちらもブコウスキーがモデルのでっぷりとして女にだらしない汚い身なりの売れない詩人の男で、このハンサム俳優たちが真逆のキャラクターを見事に演じていて、素晴らしかった。
 ダイアン・レインも最高に美しいし、ニコラス・ケイジはふさふさで、デニス・ホッパーはいつも通りの怪演全開である。
 興行的に成功ではなかったかもしれないが、私的にコッポラ映画で一番好きな作品となった。

最期に

コッポラ監督はこの映画を兄に捧げている。


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