思春期の水曜日 其一五

 進路希望になんと書いていいか、僕には全く見当がつかない。学力も平均、対人関係も苦手、打ち込める趣味や、他者に抜きん出た特技等々も持ち合わせていない。
 しばしば「スクールカースト」なる単語を耳にする。しかし僕は、カーストの中にさえいない。いてもいなくても、他者に何の影響も与えない幽霊の如き存在だ。外へも内にも、何もないのと同じである。
 学級委員の噂話も、僕に話しかける人はいない。僕から話しかける相手もいない。なんて、空虚なんだろう。
 一番後ろの席のため、教師の目もおざなりにしか届かないのが、せめてもの救いだった。僕は目立たぬよう、波風立てぬよう、細心の注意で学校に在籍しているのだから。級友の目に加えて教師の目まで気にする必要に迫られたら、それこそ発狂ものの地獄と化す。
 学級委員二人の色恋では女子の方ばかりが話題になるが、それは事の本質を見誤っている。日課の夜のジョギングをしている際、暗がりの公園で武道の鍛錬に励む、男子学級委員を見た事があった。その折には、存在感を消しているはずの僕に気づき、話しかけてきた。
「おいおい、そう怖がる必要ないだろ?クラスメイトに会ったら挨拶くらいするさ」
 学級委員は僕の名を覚えていたばかりか、話しかける事までしてくれた。只者ではない。
 さて、つまらない教師の話をBGMに、僕は『死に至る病』の続きを読み始めた。

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