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贋作 『大神家の一族』 作 木黄溝正史 (ききみぞせいし)


注 この作品はある有名な小説と酷似していますが、全くの別物です。


信州の財閥、大神家の当主、大神佐文次(おおかみさもんじ)が大往生の末、その天寿を全うした。
それに伴い、遺言状が大神家にて公開される事になって、関係者一同が大広間に顔を揃えた。
広間には佐文次の娘、松代、竹代、梅代という3人の娘(結構おばさん)が並んだ。
この3人の娘(結構おばさん)にはそれぞれ跡取りの息子が存在し、それぞれ、佐巨(すけきょ)、佐助(すけすけ)、佐平(すけべい)という名の青年達であった。
しかし、長女松代の息子佐巨は仮面を被っていて誰とも判別が付かなかった。

それはともかく、遺言状が読まれた。
それによると、玉代という若き美貌の娘と結婚する事を条件に大神家の財産全額を相続させるという事であった。
「えー!」
「そんな!」
「なんですと!」
松代達3人の娘(結構おばさん)達は一様に驚きの声を上げた。
「なんでこの女にそんな相続権を与えられるんですか?」
松代は怒りに震える声でそう怒鳴った。
古畑弁護士は、遺言状を手に持ち説明を始めた。
「えー、なんでも、松代奥様を始め、竹代奥様、梅代奥様の御三方は正式な夫人の子ではないという事で、玉代さんだけが正式な佐文次翁の血筋にあたる孫娘だという事らしいです」
この言葉に3人の娘(結構おばさん)達は言葉を失くして唖然としてしまった。

「玉代さん、どうか、うちの佐巨と結婚してください」と突然松代は言い放った。
「いえ、うちの佐助と」
「いいえ、うちの佐平と」
と、残りの娘(結構おばさん)も負けずに言い放った。
当の玉代はまだ訳が分からず、キョトンとしている。

ここで、古畑弁護士が部屋の隅でその様子を伺っていた人物を紹介する。
「みなさんにご紹介致します。こちらは探偵の万画一道寸(まんがいちどうすん)先生であります。さあさ、万画一先生こちらへ」
万画一探偵はくしゃくしゃの髪の毛を掻きむしりながらオカマ帽を手に持ちセルの着物と袴姿で、へこへこと低姿勢で皆の前に姿を現した。
「あ、み、みなさん、は、はじめまして、ぼ、ぼく、万画一です。よ、よろしくお願い致します」
とかなりギクシャクした挨拶をした。

「古畑さん、何故、探偵さんをお呼びしたのですか?」
竹代が訊いた。
「は、何しろ意地汚い奥様方の事ですから、遺言状を発表したら、必ず殺人事件が起こるから、探偵を呼んでおけ、との故人のご指示でございまして」
「ふざけないでよ、誰が意地汚いのよ!」
梅代は息巻いた。
「あなた方お3人の事でございます」
「3人て誰よ!」竹と梅が叫ぶ。
「……人!!」松代も叫ぶ。
古畑弁護士はその後3人の娘(結構おばさん)にぼごぼこにされるのであった。

こうして大神家を舞台に世にも恐ろしい血生臭い大事件が勃発したのである。
ああ、怖ろしい、怖ろしい。

それはともかく、
「先ず、手始めに……」
事態が少し落ち着いた頃、万画一探偵は切り出した。
「佐巨さんですか? あなたが本物の佐巨さんである事を証明して頂きたいのですが」
そう言うと、
「何よ、この子がニセモノだとでも言うの?」
と松代奥様は怒りを露わに言い返す。
「その可能性もあるという事です」
「この無礼な!この子はこの家の新しい当主になる佐巨です。この私が言うのですから間違い有りません」
「いえ、その私の言う事がいかにも嘘臭いものですから」
「何ですと!失礼な」
すると万画一探偵は懐から一枚の紙を取り出し、みんなの前に広げた。
「ここに本物の佐巨くんの手形があります」
みんなの目がそれに釘付けになった。
「これで照合してみれば、その方が本物の佐巨くんかどうか判明致します。さあ、佐巨くん、こちらの別の紙にあなたの手形を押してみてください」
「ふざけるんじゃありません。失礼極まりない!そんな!要求に応える義務は有りません。行きましょ、佐巨」
と言って松代と仮面の佐巨は部屋を出て行った。
「やれやれ」
万画一はこの先が思いやられるなあと頭を掻いた。
その日はそれで終わった。

事件は次の日の朝に発見された。
この家の作男として雇われている寅三が「大変だー」との声を発して屋敷中を駆け回った。
大神家に代々伝わる家宝として、「翼・錬・能」というのがある。読み方は「よく・ねる・のう」である。
その内のひとつ能の舞台の上で、佐平が殺されていたのである。
それも生首がひとつ舞台の上に転がっている状態だった。
それを見た途端、万画一探偵は頭の上の雀の巣をガリガリガリと掻きむしって辺り一面をフケだらけにした。
直ちに警察が急行し、小泥木(こどろき)警部が捜査の担当を受け持った。
小泥木警部と万画一探偵は旧知の仲であったらしく、2人で捜査の陣頭指揮を取る事になった。

早速関係者一堂が大広間に集められ、昨夜から今朝にかけてのアリバイ調査が行われた。
それによると、全員が部屋にいて外には出ていない。昨夜は早くに寝て、今朝早く寅三に起こされたと、皆が一様にそう言うのである。
これは何も作者が面倒なので、そういう事にした訳ではない。断じてそれはない。
それはともかく、
この時になって佐巨が手形を押しても良いと言って来たのである。
「何でまた今日になったらそう言う?」
と誰かが訊くと、
「こんな事件があったんだしー、押しといた方がいいでしょー」
と言うのだ。
そうか、そうかとばかりに古畑弁護士も駆けつけ、佐巨は手形を押して、本人確認が厳密に行われた。
その結果、
佐巨は本人に間違いないとの回答を得たのである。
その結果を聞き、松代と佐巨は大喜びし、竹代、梅代、佐助はガッカリしたものである。

それはともかく、
佐平の頭部以外はどこに行ったのか?
小泥木警部は弁護士から周辺の地図を貰い、佐平の首下部分を探すため、周到に計画を練った。
それを元にして、やがて、警察応援部隊が駆けつけ山狩りが始まった。大神家の前に広がるS湖にも何艘かのボートが出されて水中散策が始まった。
捜査本部では、捜査会議が行われ、
小泥木警部が推理を披露した。
「この事件は遺産相続争いによるものに違いない。犯人は松代か竹代、もしくは佐巨と佐助も怪しい。
まさか、梅代が自分の息子を手にかけるとは思えんから除外しよう。どうかね万画一さん」
「そうです。そうです。その線です。それでぼくは、大神家の系図を当たってみたいのですが」
「何だって系図なんか調べるんだね」
「あの玉代さんて方の出自について調べる必要があるとぼくは思うんです」
「なるほど、そうか、分かった!それで行こう」
という訳で、それぞれが捜査に別れた。
万画一探偵は役場に出向き大神家の戸籍謄本を閲覧して、大神家の系図を図に書き出した。
それによると、佐文次は妻を正式に迎える前に女中に産ませた、母親の違う3人の娘、松代、竹代、梅代、を養子として籍に入れている。
しかし、その後、晩年に入れ上げた村の娘、佳代を正式に妻として入籍している。その娘が玉代なのであった。
あれ、竹代さんと梅代さんの御亭主はもうお亡くなりになってるけど……、松代さんの元の御亭主は、あれ、この人か……
「ややこしいな」と万画一探偵はまた頭をポリポリ掻いた。

それはともかく、寅三に話を訊くと、最近怪しい人物が屋敷の周りを徘徊していたと言うのであった。
「ほう、それはどんな風体のものだね?」
小泥木警部が訊く。
「へい、それが、大きなマフラーで顔を隠しておるもんだから、どんな奴だかは分からねえ」
「そうかそいつは一体何をしていたんだ?」
「庭から屋敷の中を覗き込んでいたもんだから、ワシは一喝してやったよ」
「そうか、で、そいつはどちらに逃げて行った?」
「へぇ、山の奥の方でさ」
「そうか、分かった!犯人はその男だ。山を探せ!」
小泥木警部は捜査隊員達をけしかけた。

それはともかく、万画一探偵はこしらえた系図を持って各方面に聞き込みに出た。
それをここに細かく書くのは控えよう。
作者が面倒臭がってる訳ではない。
断じてそれはない。
その聞き込みによると次の事が分かった。
佐文次が子を宿した3人の女中を正妻に迎えなかったその理由についてだが、当時佐文次には恋人がいたという。だが、その恋人は外国籍であったため、封建的だった大神家ではその結婚は許されなかったという。
しかし、その女の名前と、大神家を追い出されてからひっそりと出産した子供の名前を万画一は密かに手に入れた。

それから寅三の素性については古畑弁護士に問い合わせる事にした。万画一が古畑人三郎弁護士事務所に立ち寄ると丁度テレビで野球中継をやっていた。古畑はG党であるという。アンチGの万画一には、ちょっと面白くなかったが、気を取り直して話を進める事にした。
それによると寅三はもとは東京の下町葛飾柴又の出であるらしい。団子屋の跡取り息子らしいが頭の悪さと放浪癖でこの地にやって来て、玉代を気に入り、何かと世話をしているらしいが、玉代にはその気は全くないらしく、作男として働かせているとの事。そして特に大神家と縁がある訳ではない事が確認された。

大神家でその夜、捜査会議が行われた。
「では、万画一さん、調査された事をご報告ください」小泥木は促した。
「はい、佐文次の当時いた外国人の恋人、名前は面倒なので省きます。その息子の名前を言いましょう。シズマー・アオヌーマと言います」
「何? シズマー?」
「そうです。そうです。そのシズマーがおそらくその怪しい人物なのでしょう」
それを聞いた小泥木警部は、
「よし、分かった! 犯人はシズマーだ。明日その男を見つけ出して逮捕してやる」と息巻いた。

ところが翌朝、またも世間を震撼させる世にも怖ろしい事件が発覚されるのであった。
ああ、怖ろしい、怖ろしい。
発見したのはまたも寅三である。
今度は物置小屋にある祭りに使われる山車、その山車の上で綱で縛られ殺害されている佐助が発見されたのである。
しかも、頭に祭りで使われる花笠を被り、手には槍を持ち、それを自分の首に突き刺している。
それを見た刹那、小泥木警部は目の玉をひん剥き、脳天から真っ赤に焼けた鉄串をぶち込まれたような大きなショックを感じた。
万画一道寸はバリバリバリとまた頭の上の雀の巣を掻きむしり、フケをそこら中に飛ばしまくった。
「こ、こ、これは、ど、どういう意味ですか?」
するとそれを見た松代が、
「あの綱は祭りの時にみんなで練り上げる物です。
大神家に伝わる『よくねるのう』の錬るにあたる部分です」と淡々と説明した。
それを聞いていた竹代と梅代は気が狂った様に暴れ出して、
「そんな冷静に説明して、あんたがやったのね」
「誰か、この女を早く逮捕してちょーだい」
と、大騒ぎした。

それはともかく、
「シズマーは見つかったのかね?」
という小泥木警部の質問に部下達は、
「それが……」
と、煮え切らない返事。
そこへ、寅三が走り込んで来て、
「大変だ。玉代お嬢様の姿が見えないだ」
と怒鳴り込んで来た。
「え? 何だと!」
小泥木警部一同は皆その段になって驚いた。
隅で座っていたと思われていた玉代がいつのまにか居なくなっていたのだ。その事に誰も気が付かないとは、不覚も不覚。
それはともかく
「探せ!」小泥木は青筋立てて叫ぶ。
「あ、あの、それと、こんなものが……」
と寅三は何やら手紙を取り出す。
「何だ? どこに有った?」
「へい、玉代お嬢様の部屋に置いてありました」
「読んでみろ」
と部下に手渡す。

「玉代は預かった。返して欲しければ、大神家の秘宝『よくねるのう』のレプリカをS湖北小屋へ佐巨が一人で持って来ること。それが条件だ。警察関係者は小屋の半径5キロ以内に近付くな。シズマー・アオヌーマ」

それを聞くと小泥木警部は真っ赤な顔で怒りを爆発させ、
「やっぱりシズマーの仕業か! 半径5キロと言ったらこの家にも居られんじゃないか!」
とぶち切れた。
「そ、それよりも松代さん、そんなレプリカがこの家にあるんですか?」万画一が松代に尋ねる。
「有りますよ」
松代は澄まして答えた。
「み、見せて貰えませんか?」
「ええ、よござんすよ」
と、一同は奥の間に入って行った。
「これでございます」
松代が皆に見せたのは、
黄金で出来たような飾り物で、そこには能楽の舞台の上に翼の生えた山車が乗っているという、良いのか悪いのかよく分からないデザインの模型だった。
「シズマーの奴、なんでこんなものを」
「松代さん、これは高価なものなんですか?」
「いいえ、価値的には大した事は有りません。ただこの大神家を表すシンボルみたいなものですから、当家にとっては大切なものです」
「それをシズマーが欲しがっているのか」
小泥木警部は一人頭を捻って考えた。そして、ハッと何かを思い付くと、
「よし、分かった!」
と手をポンと叩いた。
「警部さん、何か閃きましたか?」
万画一が問うと、
「これを佐巨くんに持って行って貰おう」と言った。
いや、それは分かってるんだが……。

それはともかく、
S湖の北小屋では、
目隠しをして椅子に縛りつけられている玉代がいた。
「安心しろ。お前には何もしないから。もうすぐ佐巨が来て、例のものを受け取ったら解放してやる」
「こんなことして、逃げられると思う?」
「ふっ、人殺しよりはマシだろう」
「あなたが犯人ではないのね」
「ああ、俺は大神家に復讐するためにちょいと騒がしてやってるだけさ」
「何のために?」
「何の?」
「お前は良いよ。佐文次の正式な血筋を引いた孫として遺産も受け継ぐんだからな。だが、この俺はどうだ。母親は佐文次を愛し、この俺を身籠ったことも告げずに屋敷を追い出されたんだ。だから、せめてあの一家が大切にしてるシンボルを奪ってやるのさ。それが俺の目的だ」
「そんな事して何になるの? あれが欲しけりゃ、こんな事しなくても、やるわよ」
「うっせー、うっせー、うっせーわ!」
シズマーはただ、むりやり奪い取りたいだけなのだ。
「でも、あなた、佐平さんと佐助さんを殺した犯人を知っているのね」
「ああ、影から見てたからな佐巨と一緒に」
「え、佐巨さんもそこにいたの?」
「知らないのか? 初めに仮面を被って佐巨を名乗り出たのは俺だったのさ。手形を押さなきゃならなくなって入れ替わったんだけどな」
「ちょっと、本家のネタバレやめてよ」
「あ、スマンスマン、今のは無しで」
と、そんな話をしていると、
トントンと小屋の戸を叩く音が聞こえた。
シズマーは足音を立てずにドアの内側に忍び寄り、
「山」と言う。
「え?そんな合言葉決めてた?」と相手が応える。
「よし、入れ」
ドアを開ける。
佐巨が立っていた。手には『よくねるのう』のレプリカを持っている。
「よし、車に積み込め」
佐巨はシズマーの車にそれを積み込む。
「よし、後は任せた。玉代は小屋にいる」
シズマーは車を走らせ山道に消えて行った。

「玉代さん、大丈夫ですか?」
「あ、佐巨さん。私、怖かった」
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとう」
2人は手と手を取り合い、見つめ合った。

そうして、玉代は無事に屋敷に戻ったのだが、小泥木警部は怒りに狂っていた。
あんなに小屋の周りを警官達で張り込んでいたにも関わらず、シズマーを捕まえられなかったのだ。
最初に預かった地図が不完全で、テキトーだったからだ。
「まさか、もう一本道があるとは思いもしませんでした」
部下の報告に小泥木警部は顔を真っ赤にして怒鳴った。「ばかもーん」

そして、この物語の最大の山場である世間を震撼させた最後の大事件が翌日の朝、勃発される事になった。
ああ、怖ろしい、怖ろしい。
それを発見したのもやはり寅三であった。
「大変だー、大変だー」の声とともに全員がかっと目を見開いた。
「どうしたー?」
「あ、警部さん、み、湖に……」
「何だぁ?」
寅三の指差す方へ関係者一同が一斉に走り込んで行った。
そこでみんなが見たものとは、
ああ、形容するのも忌まわしい。
こんな奇怪な殺人現場を小泥木警部も万画一道寸も初めて見る世にもおどろおどろしい殺戮の世界であった。
ああ、怖ろしい、怖ろしい。

それはともかく……、
いや、今、それはともかくじゃないだろう。
こんだけ煽っといて、早くそれを言えよ!
はい、はい、では、
な、なんと、そこには、
湖から2本の足が天を向きにゅっと飛び出て、
その2本の間に、頭が柘榴の様に割られた人間の生首がぷかぷか浮いているのである。
「あ、あれは、誰だ?」
「も、もしかして、あ、あれはシズマーじゃありませんか、警部さん」
「おお、そうじゃ、犯人と思われとるシズマーが誰かに殺されて、あんな無惨な姿に」
この恐ろしい光景に松代は気を失い、竹代も梅代も半分気が狂ってしまったかの様に笑い出した。
その後、警察の手によって現場を充分に調査した上で死体の片付けが終わったのはもうその日の午後の事である。

一同は大神家の広間に集まっていた。
万画一探偵から事件の顛末についての報告が為されるという事であった。
集まったのは、大神家の生き残り、松代、竹代、梅代の3人の娘(結構おばさん)達と佐巨、そして、玉代、寅三。
万画一探偵の横には古畑弁護士と渋面の小泥木警部がでんと腰を据えている。
「さて、皆さん、お集まりの様ですので、今回の大神家殺人事件の概要、そして犯人をご報告させて頂きます」
「何ですと? 万画一さん、あんた犯人が誰か分かったのかね?」
「そうです。そうです。やっと事件の本質に辿り着きました」
万画一探偵はオカマ帽を両手でクチャクチャと捻り回しながら何度も頷いた。

「この事件の犯人は……」
次の言葉を待って、そこにいた全員が息を飲んで探偵、万画一道寸を見詰める。

これがテレビ番組であったなら、ここで一旦CM行きまーす。となる所だったが、ま、仕方ないので、次に進めましょう。

CM明け、万画一の顔のアップ。
そして特定の人物を指差し、
「古畑弁護士、犯人はあなたですね」
と言った。
一瞬、皆は呆気に取られた顔をする。
「な、何を言い出すんですか?」
「そ、それは本当ですか? 万画一先生!」
小泥木警部は脳天から鉄串をぶち込まれたような衝撃を感じて、今にも目玉が飛び出しそうである。
万画一探偵は目をしょぼしょぽさせ、話を続けた。
「はい、ぼくは今度の事件の捜査のために戸籍謄本を隅から隅まで調べ尽くしました。古畑弁護士、いえ、古畑人三郎さん、あなたは実は松代さんの最初の御亭主、そして佐巨くんの父親ですね」
「う、う……」
その事実を誰も知らないでいた。
驚愕の声が挙がり、場は騒がしくなる。
万画一はそれを制して話を続ける。
「そしてあなたは佐巨くんに遺産相続させるために、佐助くん、佐平くんを呼び出し、殺害した」
「あうっ!」
竹代も梅代もびっくりだ。
松代は平然とキセルを吸っている。
「でも驚かれたでしょうね、単に絞殺しただけの死体が、それぞれあんな風に首を斬られたりして、大神家の家宝である『よくねるのう』に準えて発見された時は」
「あぁ、それ」小泥木警部が声を上げる。
「あれは何の意味があったんですか? それにやったのが古畑弁護士じゃないとしたら、誰なんです」
「あれは、シズマーの仕業ですよ。大神家に復讐を企んでいたようですね。その標的があのレプリカだった」
「松代さん、あなたは最初から全てご存知だったんですね。シズマーが仮面を被って佐巨くんに成りすました時から」
と言うと、キセルを吸っていた松代が急に咳き込んで倒れ込んだ。
「あー、しまった!」
万画一が慌てて松代の側へ駆け寄る。
松代の身に何かあったのかとみんな慌てた。
「いえ、ちょっとむせただけです」
松代は何でもない顔で起き上がる。
万画一は万が一に備えて、松代の側に座り直した。
「万画一さん、そうすると佐助と佐平は古畑さんが殺した、と、では最後のシズマー殺しは?」
「あれも、古畑さんですね」
突然、古畑弁護士は絶叫した。
「わしは脅されていたんだ。あいつに。だけど、無事に逃してくれたら水に流すと言われて、警察へは偽物の地図を渡して奴を逃してやったんじゃ」
「それなのに何故、彼までも殺した?」
警部の質問に古畑は急に態度を変えた。
「ふふふ、罪を擦りつけるためよ」
「おい、こいつを逮捕しろ」
小泥木警部の命令で警察官達が一斉に古畑を取り囲み身柄を拘束した。

騒動が収まった後、松代は万画一に尋ねた。
「いつから古畑に目をつけていらっしゃったのですか?」
「はあ、最初に名刺を頂いてお名前が人三郎(ひとさぶろう)さんだと分かり、謄本を見て奥様の最初の夫のお名前が同じだという事に気が付きました。奥様は一度古畑さんに向かって「人!!」と昔の呼び名で呼ばれましたね。それとG党つまり巨人ファンだと言う事で、佐巨くんの巨とご自身の人という文字で巨人となりますので、何か繋がりがあるなと……、それに警察にデタラメな地図を配布していた事、などですね」
「さすが、名探偵様ですね。お見事でした」
「まあねぇ」
万画一探偵はもじゃもじゃ頭を掻いた。


「万画一先生、今回はお世話になりました」
小泥木警部も笑みをたたえて探偵の労をねぎらった。
「後は佐巨くんと玉代さんが上手くまとまってくれれば全て丸く収まりますね」
「それは間違いないでしょう」
「あの寅三はまた失恋してしまいましたね」
「はあ、もうすでにどこかへ消えてしまった様です」
「消えたと言えば、佐助くんの首下死体は見つかりましたか?」
「おう、忘れておった。あっはっは」
「笑い事じゃ無いでしょう。あっはっは」
「まあ、その内どこかから出て来るでしょう。あっはっは」
そう言って、万画一道寸はまた別の殺人現場である奴馬鹿村へ向かって行ったのであった。


終わり

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