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ハートにブラウンシュガー 8


 開幕のベルが鳴り響く。秋の新人ライヴツアー最終日のステージの幕が開いた。
 ブラウンシュガーの面々達、リーダーのクマこと茶倉満男ちゃくらみつお、ベースのサブこと佐藤三郎さとうさぶろう、ギターのレイこと真柴怜ましばれい、そして紅一点ヴォーカルの田中たなかティナの4人は客席の一番後方からオープニングを務める女性3人組のダンスユニット『ノア』のステージを鑑賞した。
「こうして客席から観るのは初めてだけど、やっぱりなかなかやるもんだな」サブは小声でクマにそう感想を伝えた。
「そうだな。ダンスもヴォーカルもきっちりレッスンで積み上げてるからな。ただの人気アイドルじゃない』
 クマは腕組みしながら、普段は聴かないテクノポップに耳を傾けた。
『ノア』はもともと『白い風船』という名でアコギによるフォーク調の曲を中心に、ライヴハウス等で活動していた。その当時はティナがヴォーカルをしていたのだが、全体的にあまりパッとせず、ティナは脱退しブラウンシュガーに移った。残りのメンバー、ミユとマユはマリンという見た目に華があるソロシンガーを加えて『ノア』を結成した。
『ノア』がいつ音楽プロデューサーのKに見出されて、今の様な形態、テクノサウンドのダンスユニットに転身したのか、その経緯は知らないが、瞬く間に人気はうなぎ上りで、その才能を開花させた。
「しかし、全く解らないものだな。あの子らがこんなに垢抜けて最前線に躍進するとは、思いもよらなかったよ」
「それを見出したKもすごいと思うよ」
 クマは関心している。サブは見惚れている。そんな態であったが、レイとティナはまた別の心境でステージを眺めていた。
 秋のライヴが終了した後に『ノア』は本格的にCDデビューするためのレコーディングに入ると話を聞かされたのだ。もちろん春のツアーにも引き続いて参加するらしいが、ブラウンシュガーの立場から見ると、先を越された感は否めない。
 サブからの情報によると、このAレコード主催の新人ライヴツアーは毎年行われていて、そこからデビューして活躍しているバンドやアーティストは一定数いるらしいが、新人ツアーからメジャーデビューに進めるのは5組中2組程度らしいというのである。
 そうなるとその1枠を『ノア』が先取したとなり、残り1枠を4組で争っているという事になる。人気の点から考えると『バーンズ』という男性4人組からなるヒップホップ系ユニットがかなり若い女性ファンを獲得しているので、ブラウンシュガーは現在3番手を争っている事になる。
 しかしな、とレイは思う。そもそも、自分達のようなロック系のバンドがアイドル並みに人気を獲得するのには、ある程度時間がかかる。ティナはともかく、残りの3人の見た目硬派な男達がステージに上がったところで、キャーキャーと騒がれる事は皆無だ。
 あくまで、曲の良し悪し、ノリやリズムを感じて貰い、盛り上がってくれたら、それによって演奏するこちら側のパフォーマンスも変わって来る。ライヴバンドは客の反応を敏感に感じ取りながら、その場にグルーブ(うねり)を生み出そうとしているのだ。レイはそんな客席と一体となって演奏する瞬間がたまらないと感じている。この新人ライヴツアーではかなりアウェイの状態なので、未だそんな瞬間を味わえていないが。
 今の時点で『ノア』や「バーンズ』とジャンルの違うユニットと競争しても、そもそも同じ土俵ではないので、比べようが無いと思う。

 しかし、そんな中で、良い方向に向かっていることもあった。
 それは例のブラウンシュガーがカバーする『Happy Xmas』の曲で、バックコーラスを『ノア』が担当することになった件である。
 最初の頃こそ、ティナはイップスかと思われるくらい、バックに立つ彼女達を意識して声が出ずにちゃんと歌えなかったのだが、Kの助言が効いたのか、翌週からはいつも通りの歌声を披露し、事なきを得たのだ。
 その後、実際にステージでも楽曲を披露し、それが割りと評判になった。『ノア』のファン達も客席でそれを楽しみにしてくれた。
 ティナの若干ハスキーで声量のある歌声は聴く者の心を捉え、ブラウンシュガーのバンドとしての演奏も厚みを増し、レイもクマもステージで演奏中にこれはいけるという手応えを掴んでは、何度か目で合図を送り合った。そこへ加わる『ノア』のバックコーラスがまた良かった。
 彼女達の歌声は透明感に溢れていて、ティナの歌声にもマッチしていた。キーボードで全体のアレンジを指揮しているKの手腕によるものだが、この2組による即席ユニットは評判を呼び、同時にブラウンシュガーにも追い風となった。
 そうなって来たからなのか、他の3組(バーンズ、 春風祐希はるかぜゆうき柳町亨やなぎまちとおる)達からも『Happy Xmas』のバックコーラスに加わりたいとの申し出があった。
 これにはプロデューサーの松尾も大いに乗り気で、秋のライヴ最終日の今夜のステージでは、ツアー参加アーティストが全員一同に会し、『Happy Xmas』を歌い演奏し、華々しくファイナルを飾ろうという企画になった。
 その話題はAレコード公式サイトでも事前に告知がなされ、こうして秋のライヴツアー最終日は満席ソールドアウト状態へと膨れ上がった。
 ツアー当初のガラガラだった客席を思い浮かべてみると、この満員の客席は『ノア』『バーンズ』を前面に押し出したAレコードの公式サイトやYouTubeへの動画配信、それぞれのグッズ販売などの宣伝活動が功を奏した結果だと思われる。
 クマはこの状況を見据え、ニンマリと微笑む松尾Pの顔を思い浮かべて、肩を竦めた。

 ブラウンシュガーの面々にとってはこのライヴツアーの終了後、直ぐにオリジナル曲のデモテープ作りをする予定になっている。
 松尾プロデューサーからの指令として秋のライヴツアー終了までにオリジナル10曲を作成する事を伝えられている。
 実際のライヴで既に演奏している『It's gonna be okay!』と『月の泪』は動画撮影されているので、それを除く残り8曲のデモテープを作成しなければならない。スタジオを借りれるのは3日間しかないので、かなり慌ただしい。しかも現在、完成している曲は、レイが4曲、クマが2曲、サブが1曲で、あと1曲足りない。レイにとってはどちらかと言えば、今夜のライヴよりもそちらの方が気掛かりだったのだ。
 そんなレイの焦る気持ちとは裏腹に他のメンバー達は呑気に構えている。サブは「9曲あれば、ほぼ10曲とみなしていいんじゃないか?」と適当な事をほざいているし、クマも「まあ出来た分だけでも聴いて貰えれば良いんじゃないか」と鷹揚に構えている。ティナは今夜のライヴに集中している様子なので、そっとしておいた。
 4人は『ノア』のステージの後、後学の為にと『バーンズ』のステージも見学してみた。客席の若い女性ファン達がキャーキャーと騒がしいので、ちゃんとした歌唱は聴き取り難い。もともと演奏はカラオケを流しているので、後はダンスと歌のパフォーマンスである。
「あのダンスはマネ出来ない」サブは愚痴る。
「そんな必要はないだろ」クマは応える。
「そもそも、歌も口パクしてるんじゃねえのか?」
「まさか、それは無いとは思うけどな……」
 いずれにしてもこの手のヒップホップに2人は興味が無かった。
 それはレイとティナも同じで、レイはどちらかというと声援を送る女性ファン達の方に興味があった。ティナは1曲目を聴くと興味が失せたみたいに「戻るわ」と一言伝えて、控室に戻って行った。

 楽屋に戻ったティナはステージを終えた『ノア』達と廊下ですれ違った。3人はほんのりと汗ばんで終えたばかりのステージパフォーマンスの余韻を楽しんでいる様に頬の色を上気させていた。
 マリンはティナに気付くと満面の笑みで、話し掛けて来た。
「ありがとう! ステージ見ててくれたのね」
「お疲れ、素敵だったよ」
 ティナも気軽に応えて、3人とハイタッチを交わした。ミユとマユも笑顔でティナと向き合った。
「ねえねえ、まだそちら出番まで時間あるでしょ。良かったら私達の控室でお茶でもしない?」
 マリンからそう声掛けられた。ティナは一瞬戸惑ったものの、この後、フィナーレで共演するにあたり、気不味くなるのもどうかと思い、「ああ、そうね」と返答した。
『ノア』の控室はブラウンシュガーのそれと広さはさほど変わらなかったが、部屋の空気というか香りは相当な開きがあった。
 とにかく、あちらこちらに置かれた花やファンからの差し入れのお菓子、手紙、ぬいぐるみ等が部屋を飾り、お花畑にいる様な芳しい香りに包まれた。
「すごい、人気なのね」ティナは部屋の様子を眺めて、そう呟いた。
「お陰様でね」マリンは素直に頷いた。ティナはマリンには好感を抱いていた。こんなに綺麗で愛らしくて、歌声も透き通っていて素敵なのに、いつも控えめな態度で、気取った様子や鼻にかけたところが少しも無い。これが計算ずくの上で演技しているのだったら、大したものだと思うが、そうでもないみたい。
 3人はそれぞれテーブルを囲み、ドリンクを手にお菓子を摘まむ。ティナはこの後のステージの事を考えて、ウーロン茶で喉を潤す程度に留めておいた。
「松尾さんから聞いたんだけど、CDデビューが決まったんだってね」
「そうね、ひとつ目標をクリアしたけど、まだまだこれからよね」
 ティナの複雑な心境を絡めた質問にも、3人はサラリと受け流して屈託のない笑顔で会話する。
「ブラウンシュガーの曲も良いと思うわ。『月の泪』て、すごく好きよ」
 ありがとう、マリンの言葉にティナは素直に頷く。
 『ノア』の3人はステージを終えた解放感からか、陽気に楽しく他愛のない会話で盛り上がっていたが、ティナはまだこれから自分達のステージがあるので、緊張感を緩める訳には行かなかった。
 そろそろお暇しなくてはとティナが腰を浮かしかけると、ミユが声のトーンを落ち着かせて、話し掛けた。
「ティナ、あなたに一言伝えておきたいと思ってた事があるのよ」
 その場に立ち上がったティナはそのまま動きを止めた。マリンやマユもお菓子を摘んでいた手を止めてミユを見る。
「あなたが『白い風船』をやめると言い出した時、私はその後の事がとても不安になって、あなたにかなりひどい事を言ってしまったわ」
 マユもその当時の事を思い出してしんみりと下を向く。
「マユと2人でやって行く自信なんて、まるきり無かったから、もうこれで音楽はやめてしまおうと本気で考えたりしたのよ。正直言うとその時のショックは今も消えていなくて、心の中でずっとあなたを恨んでた。だから、謝りはしないわ。あれがあの時の本当の私の気持ちだったから」
 ティナは黙ってミユを見ていた。
「でも、私たちにもその後、いい出会いがあって再スタートを切れる事が出来た。ほんとに世の中分からないものよね。こうやってまたそれぞれ、同じステージに立てる時が来たのだから。最近、ブラウンシュガーのステージで歌ってるあなたを見てると、やっぱり、ティナにはこちらの方が合ってたのかなって思ったりするのよ。結果オーライって訳じゃなくて、これが正しい選択だったのかも知れないね。ようやくそう思える様になって来たわ」
 ミユはそう言うと静かに立ち上がって、
「それを伝えたくて、だから今夜のステージ、頑張るから。ティナも頑張ってよ」とエールを送った。
 マリンがパチパチと小さな拍手をした。
「て、事はさぁ」とマユがいつもののほほんとした喋り方をする。
「私たちはぁ、風船から箱舟に乗り換えてぇ、ティナは白からブラウンに衣替えしたぁって事だね」
 マユのセリフにティナもミユも一瞬、きょとんとした。そう言えばこの子はいつも天然で、昔からこんな調子でメルヘンの世界を彷徨っている。全然、変わっていない。
 一拍置いてマリンが手を打ち鳴らして、
「あはは、マユたん、ウケる〜」と腹を抱えて笑い転げた。ティナもクスッとした。ミユは呆れた様に両手を広げた。
 みんなの顔に笑顔が戻った所で、ティナは3人とそれぞれに今度はグータッチをして、『ノア』の控室を後にした。

 傍から見れば、感動的な場面だったかも知れない。だけど、お互い仲間でもあり、同時に競争相手でもある。勿論、闘うべき相手はもっと他に沢山いる筈なのだが、それは他人かも知れないし自分自身なのかも知れない。
 今は若干『ノア』の方がリードしてるけれども、やはりティナは内心、負けたくないという気持ちがある。
 それでも、以前からあった何かしらのわだかまりが氷塊して行くのを感じて、気分は悪くなかった。
『ノア』は『ノア』で頑張ればいい。私は私でやりたい道を進む。人の評価ばかり気にしていてはつまらない。もっと音楽を、ステージを楽しみたい。
 そう思いながら自然と鼻歌を口ずさみながら、控室のドアを開いた。
 ドアを開けると、もうブラウンシュガーのメンバー達は戻っていて、それぞれ本番に備えてイメージトレーニングしている様子だった。
「お、来たか、どこに行ってたんだよ」
 レイがティナを見てホッとした様に声掛けた。
「うん、ちょっとね」
「何か、あったか?」
「いや、別に、大丈夫よ、至って気分は最高だから、心配しないで」
 ティナはそう笑って見せた。
「今、何か、歌ってたよな。入って来た時」
「え、あら、そう? 鼻歌よ」
「もう一回、聴かせてくれないか?」
「え? もう忘れちゃったわ」
「思い出したら、また頼むよ」
「オッケー」
 そんなやり取りがあり、時間が過ぎる。



 ブザーが鳴った。
 ステージ上でスタンバイするブラウンシュガーの4人、バックに控えめにKがキーボードを前にして、全体を眺めた。 
 秋のライヴツアー最後のステージの幕が上がる。
 クマのスティックがカウントを数える。
 レイのギターのサウンドが空間を切り裂く。
 スタンドマイクを手に取りティナにスポットライトが当たる。
 客席から悲鳴にも似た歓声が起こる。力の篭った拍手が会場に鳴り響く、それはやがてテンポの良い手拍子へと変化する。
 ティナのヴォーカルが会場いっぱいに響き渡る。
一曲目は、既におなじみにもなった『It's gonna be okay!』
 軽快なテンポ、早口言葉の様なリズムの良いティナの歌声が聴いてる者の心を躍らせて行く。
 客席では半数位の客が座席で立ち上がって手拍子しながらリズムに身を任せている。
 ライヴハウスだったら、もうこの辺で総立ちになってるだろう。
 クマのドラムが強烈なビートを叩き出し、サブのベースがズンズンと足元から響いて来る。

 It's gonna be okay!It's gonna be okay!
 きっと大丈夫 全然大丈夫
 It's gonna be okay!It's gonna be okay!
 I’ts all right   絶対大丈夫
 It's gonna be okay!

 そんなリフレインが続く。

 2曲目、3曲目とボブ・ディランのカバー曲が入る。『Like a Rolling Stone』『見張塔からずっと』
 Kのキーボードの音色が効果的に使われる。
 そして、4曲目、5曲目とスタンダードなロックンロール曲を披露した後、6曲目として唯一のバラード曲『月の泪』をしっとり聴かせる。


 月のなみだ

 ああ なんて素敵な夜だろう
 こんな広い世界に 
 今 君と二人だけ

  (中略)

 誰かが言ったね
 都会は砂漠だって
 一粒一粒の砂はいったい
 何で出来ているのだろう
 それは地球のかけらかな
 今こうして見上げてる
 小さな星の
 輝きだって
 ここに辿り着くまで
 長い道のり
 超えて来たんだ
 それはきっと
 この一瞬のためだよ

 ああ なんて素敵な夜だろう
 こんな広い世界に 
 今 君と二人だけ

 二人だけ
 二人だけ


 ティナの歌声に客席は酔いしれた。
 歌い終わると、津波の様な拍手が沸き起こる。
 ティナを中心にブラウンシュガーのメンバーは深々とお辞儀をする。


 さて、いよいよフィナーレの始まりである。
 拍手が一旦収まるのを待って、司会用のマイクを手にしてMCを担当したのは、サブであった。

「さあ、皆さん楽しんでいらっしゃいますか? 今宵はAレコード主催、秋のライヴツアーの最終日、いよいよフィナーレのお時間がやって参りました。ラストは出演者全員にて、ジョン・レノンの『Happy Xmas』を演奏したいと思います。コーラスに加わってくれるメンバーを改めてご紹介致しましょう。まずは『ノア』の3人! マリン! ミユ! マユ!」
 サブが手を上げて紹介するとステージ横からノアの3人が手を振りながら登場する。大勢のファンから声援が飛ぶ。
「続いて、『バーンズ』! カイト! タクミ! セイヤ! ユウセイ!」
 女の子達のキャーという悲鳴の様な黄色い声援が飛ぶ。サブは内心、チクショー、敵わないなぁとため息を吐く。
「そして、春風祐希!」
 普段は演歌歌手用の着物姿が多い彼女も今は淡いブルーのドレスに着替えている。髪の毛も下ろして緩やかにカールさせ、和かに手を振っての登場だ。
「さあ、最後はこの人、柳町亨!」
 柳町亨が爽やかな笑顔を浮かべて、いつものジャケット姿で小さく手を振りながら登場する。髪型もスッキリしていてとても爽やかなイメージだ。客席のどこからか「トオル!』と掛け声が跳ぶ。
 それぞれが所定の位置に立ち、スタンバイオーケーとなる。
「それでは、お聴きください。ジョン・レノンの『Happy Xmas』!」
 サブのMCは声の通りも良く、明るく歯切れが良い。これなら司会業としてタレントでもいけるんじゃないかと、クマはふと思う。
 曲の始まる寸前、少しの静寂がステージを包む。この曲はティナのヴォーカルから始まる。今ティナは少しのタメを作り、歌の世界に入ろうとしている。
 そして徐に、マイクを両手で掴み歌い始める。それに続いて演奏が始まった。


 So this is Xmas And what have you done?


 この時の演奏ほど、心を震わせるものはなかった。歌って行く内にみんなの心が一つになり、自然に目を見交わし、笑顔を浮かべた。
 これこそ音楽をやっていて、幸せを感じる瞬間だった。


 A very Merry Xmas  And a happy New Year
 Let's hope it's a good one Without any fear

 War is over! If you want it War is over! Now!

 【ハッピー・クリスマス(戦争は終わった) ジョン・レノン】より


 こうして秋の新人ライヴツアーは終わりを告げた。様々な想いや願いを秘めつつも時は過ぎて行く。出演者それぞれに別の未来がある。目指す世界も違っている。彼ら彼女達はライバルであることは違いないものの、同じステージを共にした戦友である。特に最後のフィナーレでは音楽という世界の中でひとつに結ばれていたと思う。
 年が明けてひと月程経てばまた春のライヴツアーが始まる。余韻に浸っている暇はない。
 ブラウンシュガー、特にレイにとってはオリジナル10曲のノルマを抱えている。秋のライヴツアーは一つの終わりではあるが、通過点、この先まだまだ越えなければならない闘いがある。しかし、その区切りで感じたもの、大好きな音楽を演奏出来る幸せ、歓びを各人それぞれ胸に秘めていたのであった。
 クマは会場を出るとひと息大きな深呼吸をすると満足そうに「なかなか良かったよ」と3人に声を掛けた。



続く

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