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「絵本の店 omamori」と名付けた。

本当は、「きりんの夢」という店名にするつもりだった。

一番好きな詩に由来している。

カムチャツカの若者が きりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は 朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は 柱頭を染める朝陽にウィンクする

この地球では いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと 
そうしていわば交替で地球を守る

眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ

谷川俊太郎『朝のリレー』

「きりんの夢」はとても気に入っていた。響きも良いし、可愛さと媚びなさのバランスも適切に感じる。なによりキリンは好きな動物だ。検索すると同名のサービスが少しヒットしてしまうのだけれど、分野や地域が異なったので、本当に「きりんの夢」に決めようと思っていた。

けれども、最終的には「絵本の店 omamori」と名付けた。 

理由は、不安だったから、という、実はそれだけだ。
誰に、なんのために、どのような願いを込めて絵本屋を営むのかを、「きりんの夢」という店名では正しく伝えられる自信がなかった。

✴︎

店名は、わたしが店に贈る最初のギフトになる。
子どももペットもいないわたしは、なにかに名前を付ける行為が初めてだった。(ぬいぐるみへの名付けは別として。)

緊張した。誰に与えられたわけでもないプレッシャーがあった。
愛されて、愛することができるような、特別な名前をつけたかった。


「おまもり」という言葉が浮かんだとき、すでに76個の候補が挙がっていた。ちょうど77個目だった。浮かんだ瞬間から「いいな」と思えた。それからは、「おまもり」と声に出すたびに、確信に変わっていった。

店名を考えるときに何度も浮かべた問いは、「どんな気持ちで過ごしてほしいか?」だった。お店に入ってきた人が、どんな気持ちで過ごして、お店を出たあと、どんな気持ちになってほしいか?

そんなことを考えるとき、必ず辿り着くのは、「安心してほしい」という想いだと気づいた。ドキドキしたり、気を張ったり、恥ずかしさや申し訳なさを感じることも一切無いくらい、安心してほしい。

お店に入るとき「自分が入っても大丈夫かな?」と思わないでほしい。
子どもが騒いでしまったとき「早く出なきゃ」と思わないでほしい。
「自分の過ごし方は合っているのかな」と不安にならないでほしい。

それは想いというより、「どうか安心してくれますように」という祈りのような気持ちに近かった。そのためには、あったかくて、やさしくて、甘くて、やわらかい場所で、「大丈夫ですよ」ということを伝えたかった。

それは子どもだけでなく、むしろ大人に対して、そんな場所をつくりたかった。だからわたしの絵本屋は、大人が自分のために居られる場所にしたいと、ずっとずっと思っている。

そしてそんなお店で手渡す絵本が、必要とする誰かのそばで、疲れた朝や、さみしい夜に、寄り添うことができたら。

「おまもり」は、そんなわたしの願いに、しっくりきた。

【おまもり/御守り】
・小さくて、そばに置いておける
・毎日使うものではない
・必ずご利益があるわけではない
・でも、困ったときや、不安なときには、少しだけ心の拠り所になる

まさにお守りのような存在として、絵本屋や絵本が在ることができるとしたら。わたしがお店を開く確かな意味になってくれるにちがいなかった。

✴︎

「おまもり」と平仮名で表記すると、スピリチュアルな雰囲気が出過ぎてしまうことを懸念して、ローマ字にした。(ローマ字が読めない方がいるかもしれない、とギリギリまで悩んだが、うちのばあちゃんが読めたので良しとした。)
「amamori」と空目します、という声をいただいたことがあるので、最近はフォントに気をつけている。

「きりんの夢」を手放してから、後悔したことはない。

お店を始めてから、「どんなコンセプトのお店ですか?」とよく聞かれる。そのたびに「お守りのような……」と説明することができるのは、やっぱり楽だ。
また、新しい本を仕入れるとき、つい自分好みに選書してしまいそうになっても、「誰かのお守りになるような本だけを選ぶ」という初心を簡単に思い出すことができる。

そしてなにより、お客さまから「買った絵本がお守りになりました」と言っていただけることが多くて。そんなときは思わずこぶしを握ってしまうほど嬉しい気持ちになるので、自分の大事にしていることを理解していただきやすい店名にしてよかったと、心から思う。

「絵本の店 omamori」、いい名前です。
これからもっと、愛されて、愛することができるお店になりますように。


「きりんの夢」は、またいつか。また大切なものができたときのために、そっと仕舞っておくことにする。



ほかの76個の店名案を以下に載せます。
ただ、思考回路が丸わかり、へんてこなのも多くて、やや恥ずかしいので有料公開とします。もし気になる方がいればぜひ… …。


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