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“ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観” 第12章

今日のおすすめは!
D・L・エヴェレット “ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観”
屋代通子訳


*本との出逢い
堀元見さんと水野太貴さんのYouTubeチャンネル”ゆる言語ラジオ”で話題となったこちらの1冊。



イビピーオってなんだろう、水野さんが語らなかった箇所について自ら読みたいという想いで手に取りました。
学びがあった記述やピダハンの情報などを、これから各章毎に分けて読書記録を残そうと思います。
ゆる言語ラジオリスナー(ゆるげんがー?用例?)に楽しんで頂けたらと思います。

前回第11章で単語を構成する音について読み解いてきました。
今回は音が集まってできる単語についてのお話です。

それでは第12章からどうぞ!



*ピダハン語の単語


文法を論じる上で、まず初めに扱う単語についてエヴェレットは論ずる。

  • ピダハン語の単語には単数複数の区別がない。

  • 不規則形もない。

  • 数の概念がない。

*ピダハン語の動詞

  • 単語は上記のように単純だが、動詞は複雑。(65536通り)

  • 接尾辞が最大16もとることがある。

  • 同時に使用不可な接頭辞もあるので、実際に使う動詞はそこまで多くはない。

  • 動詞の変化形は極めて多い。

  • 珍しい接頭辞は、「確認的接尾辞」。

確認的接尾辞とは
話し相手が自分の話している情報の精度をどのように見ているかを示す尺度。動詞につける接尾辞で区別しており、文の印象を決定付ける為、文の最後にくる。

例:「山田は買い物に行ったのかな?」
・伝聞 →行ったと聞いたよ。
・観察 →行くところを見たよ。
・推論 →財布がないから行ったと思うよ。



*チョムスキーの生成文法を否定

  • ピダハンの単語を調査していくうちに、ピダハン語にはピダハンの文化が関与しており、また、文の成り立ちは、単に動詞の意味を映し出しているに過ぎないと考えるようになり、チョムスキーの生成文法を否定。




*ソシュールの構造理論を支持するようになる

  • 動物の伝達よりも、人間が複雑な伝達方法を獲得できた理由
    ①洗練された認知能力
    ②言語の二重構造性

言語の二重構造性とは
人間の音声をパターン化し、そのパターンを語と文法パターンに当てはめるもの。

ピダハンにも音声のパターン化と文法のパターン化がある。



*音声のパターン化

例:pan

pとaとnが入るべき位置を「構造位置(スロット)」と呼び、
pとaとnの文字を「充足項(フィラー)」と呼ぶ。

構造位置は書き言葉同様、左から右に繋げていく。
充足項は単語の文字を変化させたり、単語に文字を追加すると別の意味に変化する。
例:pan→spin。pan→penなど。

ただし、どんな文字に変化させていいのではなく、音声を元にしたパターンに則って変化させている。
例:pan→ptnやpsnなどは成り立たない。

ジェスチャーやサインや手話も、組立の方法は同じ原理の為、「音声学」に含まれる。



*文法のパターン化

単語のみでは伝達が不十分なので文法を用いる。
例:目的語を動詞の前に置くなど(ピダハンの文法。大変珍しい文法例。)

また、文法は、意味によって構造を変化させる。
言語にとって決定的な要素は「意味」である。

*意味とは何か?

意味とは何かを思想家たちは何世紀にも渡って悩んでいる命題。
意味とはreference(指示的意味)とsence(意義)の2つの観点で論じられる。

reference(指示的意味)
話し手と聞き手が自分達の話題にしている特定の事柄について一致していくために使われる。

①実在するものを指し示すもの
例:山田さんなどの人物名、あなた、少年など。
②実在するものを指し示さないもの。
例:ユニコーンなどの空想上のもの、建てるなどの動詞、慣用句、黄色などの色(自分の考えている色と完全一致するとは限らない)。


sence(意義)
①物や行為、質など、発話の中で用いられる話し手の考え方。
例:大きい→大きな蝶、大きな損失など。

②単語同士の関係性とその使われかた。
言葉がどのような使われ方をするべきかを話し手と聞き手が共有している背景やその特定の言葉と使われるべき言葉を選ぶ事。
例:break→John break his arm(骨折した)、John break the sentence down for me(噛み砕いて説明してくれた)





*言語学の研究をするにあたって必要な4つの視点


話す際には何かの意味を伝えている。
その意味は、発話者の価値観や信念に厳しく制約されている。
そのため、ある言語を研究する際には個々の語彙を異なる視点を同時に持って理解しなければならない。
言語学者は3つの視点が必要である。

①その語彙の文化的な位置づけと用法の理解。
②その語彙の音声構造の理解。
③その語彙がある文脈や文章、物語でどのような使われ方をするのかの理解。

この3つの視点とあわせて、ピダハンはさらに別の視点も教えてくれた。

④個々の単語が文化によって規定されるばかりでなく、単語の音自体も文化によって規定されるという理解。

例:音程の変化(声調)で意味が変化する。
イ→敵
バギイ→友

ピダハン語以外にも様々な事例がふんだんに見られていたが、これまで言語学では殆ど論じられてこなかった。
ピダハンは言語学研究の将来にとって、新たな研究材料を提供することに繋がった。



*次回は文法に関する内容です♩
*それではまた次回お会いしましょう!

ちなみに

ゆる言語学ラジオで単語の凄さを解説して下さっているのでおすすめです!
ピダハンの中で、エヴェレットが触れているような単語の恣意性や、他の動物の伝達との違いなどを分かりやすく解説して下さっています。

ソシュールの指摘によると、単語を発明する事で、様々な概念を表し、直接体験していないことも表現できるようになったそうです。
ぜひラジオ感覚で見てみて下さい♩


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