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つむぎ

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詩人・佐藤咲生。
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2022年2月の記事一覧

詩「城」

限られた時間の中で
あなたと過ごすため
本当は限りのないものたちを
バインダーノートに綴じていく
カフェで
わたしの時間を世界の時間に換えて
いつ消えてもいい支度をする

名前がない、ということが
いちばん幸せな状態である気がします
ソーサ―に世界でいちばん重大な秘密が
隠されている気持ちでカップを浮かせる

あしたがない世界より
きのうがない世界にいけたらな
毎日死にたいなんて思わないのに

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詩「そこから」

朝の4時のラジオなんて
初めてきいた
ナビゲーターの丁寧でどこか親しい口調
わたしがわたしを掴む手を緩めると
もう一人のわたしがまるでオルゴールみたいに
ゆっくりと、その心のことばを紡いでゆく

静かな朝をさやさやと流れる喋りことばは
わたしのまわりを柔らかく漂ってほどける
ただの音として、ほどける来し方や哲学
わたしのことばも、いつかだれかのまわりで
ふわりとほどけて消えるだろうか

人生には、

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詩「egg」

ひとりきりで 生まれて来ました
わたしは誰にも
奪われなかった
わたしは
ひとりだね
だからここには何も無い気がするのだろうか
何があっても意味の無い
気がするのだろうか
でも 本当に?

眠る前に仰向けになって
お腹に両手を添えてみると
このなかで宇宙が
ひどい高温となって
わたしを滅ぼそうとしている
気がする

最後に残る金の卵
奪ってくれるのは誰だ

ずっと待ってる