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つむぎ

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詩人・佐藤咲生。
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2022年1月の記事一覧

詩「神の子」

朝陽が嫌いな君のこと
頭の片隅に追いやるようだと
カーテンを開けながら少し思った
ならばいっそ
と思い立ち
窓も開けてやる
頬ではじかれる寒さが
網目の向こうの世界が
君につながっているのかは知らん
知らんけれど空は高くて
もしも君が死んでしまうなら
こんな日がいいと思う
変に湿った日じゃなくて
こんな日に
願うことすら思いつかないような空の向こうに

薄い雲がお絵描きみたいに浮かんでて
あれを描

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詩「さくらになる」

一日を終えた
背負うほど重いものなどなく
目の奥で過去を何度でも彩る
入浴剤を放り込んだあと
脱衣所で
服を一枚ずつ脱いでいくとき
季節だけは脱ぎ切れなくて
ふと虚しくなる
しゃがみ込めば腹部に当たる太腿が
ほんのりと冷たく気持ちいい

おのおのに、つつがなく
おのおのに、つつがなく
たまらなくなる
浴室は目も眩むような明るさだから
光のドアをくぐって

乳白色のお湯の
やわらかな香りのなか
さく

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詩「日の出」

夜が明けてゆくことに
朝と名付けたのはどうしてだろう
人は諦めることでしか
人を愛すことはできない
諦めたような瞳であたたかな息を溢し
あなたのいる場所が白く光っていくのを
静かに見ている

声も顔も名前も
光が当たるときすべて境界になる
あなたがいてくれてよかった
そう信じたときに
切り離す世界があるように
なにかを見るというのは
自分を失うことでもあった
わたしがわたしに出逢うことを
何度でも

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