新潟大学の博士課程で日本酒を研究します
SAKEジャーナリストとして活動をしているわたくしですが、来年2023年4月より、新潟大学の博士前期課程にて日本酒の研究をおこなうことになりました。
9月に受験し、10月に合格。とはいえ社会人学生ということで、東京で仕事を続けながら、リモートを中心とした受講となるようです(まだ正式な手続きは踏んでいないので、たぶん、ですが)。醸造などの実習もあるようで、そのときは新潟に行かなければいけないんですが、それはそれで楽しみ。
これを伝えると、「これ以上、なにを勉強するの?」などとしばしば聞かれるので(確かに、日本の四年制大学を卒業したうえで、UCLAでジャーナリズムとか勉強してるし、まだ学校行くの? って感じはするのかもしれない)、ここでは、なぜ大学院に行くのか、なにを研究したいのか、などについて書いてみようと思います。
■なぜ、大学院へ進むのか
大学院へ進むことを決めたのは、①お酒のため②自分のための二つの理由があります。
①お酒のため(なにを研究したいのか)
近年、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置により、飲食店の営業範囲に制限が設けられた結果、アルコール業界は大きな打撃を受けました。
業界からは、「お酒は悪者じゃない」といった反論も聞こえましたが、このとき気になったのが、「社会にアルコールが必要な理由」をロジカルに示すことはできるのか? ということです。
この夏、話題になった国税庁のビジネスコンテスト「サケビバ!」についても書きましたが、ノンアルコール化する社会において、飲む者と飲まざる者の断絶はますます大きくなってきています。
飲む者は「こんなに素晴らしいものはない」と主張し、飲まざる者は「酒なんて悪だ」と主張し続ける。こんな平行線が続くようでは、ただ飲む者だけが減っていき、市場がノンアルコール社会に飲み込まれていくだけ、と思います。
飲みたい人が飲んで、飲みたくない人は飲まなければいいというのは確かなんですが(わたしの周囲にも飲まない友人はたくさんいるし、彼らに飲ませようとは思いません)、例えばスポーツって別に、プロのアスリート以外も楽しめるものですよね。たとえ下手くそでも、趣味として楽しんだり、プレイしなくても観戦したりできる。それが、社会的な豊かさにつながっている。
お酒は社会に役に立つのか? もしかしたら役に立たないのかもしれないんですけど、これをひも解くことが、今後のお酒の未来を考えることにつながるんじゃないかと思っています。
メディア活動を行ううえで、自分の弱みだと思っているのは、「定性的」な情報(人の声とか)に頼りすぎるところだと自覚しています。より客観的である「定量的」なデータや数値によって、お酒の社会における作用を可視化していきたいな、というのが、研究者としての目標です。
②自分のため
「Not for Saki, But for Sake=サキ(自分)のためではなく、サケのため」を人生のポリシーとしているわたくしですが、今回の進学は一応自分のキャリアを考えてのことでもあります。
こういう話って、言葉を慎重に選ばないといやらしく聞こえてしまいそうで、結果的に言わないことを選びがちなのですが、せっかくの機会なのでちょっと書いてみようかと思います。
わたしは熟成したお酒が好きです。若いときに味わいの粗かったお酒が、年数を重ねるほどに熟れて美しい香りになる。お酒に憧れを持つわたしの目標もまた、歳をとればとるほどよい熟成を重ねることです。
あと、あんまり言うことはないですが、わたしは女性です。日本において、20〜30代を中心とした女性が取るメジャーな選択肢は、結婚し、出産することだと思います。わたしは、子どもを産み、育てるということは、成熟した人間として価値の高い行為であり、社会に貢献するための最もストレートな方法だと思っています。
でも、わたしには結婚願望がありません。恋愛は好きなんですけど、結婚というものがなんか好きじゃない(ちなみにうちの両親はラブラブです)。とはいえ、別に「絶対結婚なんかしてやるもんか!」と考えているわけでもなく、優先順位として仕事などを上位に生きてきただけというか。結婚して出産しようと思うと、日本の多くの女性は「30代前半までに子どもを産むために、2X歳までに結婚して、そのために……」とか考えるわけですが、それをやらなかっただけです。
わたしはお母さんってマジでカッコいいものだと思っています。しかし、お母さんにならずに、どうやったらよい熟成を重ねることができるかな? と考えると、より多くの若い人たちにとって呼吸のしやすい未来をつくれる人間になるべきなんだろうなぁ、と。
そうすると、メディア活動をずっと続けていくのは少し違うのかな、と思っています。根本的にわたしは、メディアって、若い人たちの舞台だと思っているので。日本のメディアの未来をよくしていくために自分にできるのは、技術を継承していくことだと思い、お酒とメディアのオンラインサロンを始めたり、アシスタントさんを採用したりし始めました。
アカデミズムという分野によって、行政と産業に直接的に関わる。業界に巣食う問題を研究者という視点から分析し、実践的な解決策を提案するというのが、なんかおかしいのにずっと変化せず希望を持ちにくい社会を変えるために自分ができることなのかな、と思っています。
また、こうして女性がキャリアを重ねていくことが、後世の選択肢の増加につながっていくといいなぁ、とも、ほんのり願っています。日本酒業界って、変化してきているとはいえ、男性が多いですしね。
■なぜ、新潟大学なのか
ところで、なぜ進路として新潟大学を選んだのかというと、新潟大学は日本酒学コースを設けているからです。
新潟大学の日本酒学コースのよいところは3つあると思っています。
①産官学の連携によってできた学問である
日本酒業界を見たとき、産業(酒蔵)と行政(国、都道府県)の連携が同じ課題感を共有できてないなぁ……と悩まされることが多いのですが、新潟大学の日本酒学は、酒造組合(産)・新潟県(官)・新潟大学(学)が連携して築き上げられた学問です。ここでなにが学べるか、はもちろんですが、この3つが連携してひとつの問題に当たれる可能性があるというのは、とても大きなことであり、新潟から事例を作っていくことはできるんじゃないかと思っています。
②文理を横断した全10学部が絡んでいる
日本酒に関するこれまでの研究などを見ていると、理系が強いイメージがあるんですが、実際は文理を横断した学際的な観点からこそひも解ける問題が大いにあると思っています(お酒を飲むことによる「酔い」の作用とか、双方からアプローチしたらめっちゃおもしろそうじゃないですか!?)。
新潟大学は、欧米におけるワイン学をお手本に、醸造学や農学のみに縛られない「Sakeology(日本酒学)」を確立しようとしています。
③海外のワインに強い大学と協定を結んでいる
新潟大学は、日本酒学の設立に際し、フランス・ボルドー大学と同大学のブドウ・ワイン科学研究所(ISVV)、2020年にアメリカ・カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)と交流協定を結んでいます。日本酒が世界に通じるお酒となるためには、海外でワインが学問としてどのように体系化されてきたかを知るのがとても重要。この協定は、この学問が産官学で連携しているからこそ実現できたことだとも思え、大きな可能性を感じます。
この3つを見ているだけでも、なんかワクワクしますやん。
また、SAKETIMESで取材したときに、日本酒学の発起人である岸保行先生が「日本酒ってなぜかアツい人が多い。もしかしたらこのアツさの謎も学問からひも解けるのかもしれない(大意)」ということをおっしゃっていて、ここでなら自分の興味のあることを研究できるのかもしれないと思わされたのも大きいです。
+ + +
というわけで、以上がわたしが新潟大学の大学院に進学することを決めた理由です。入学は来年4月ですし、まだ始まってもいないのにあれこれ書くのもなぁと少し思ったんですが、始まったらバタバタしそうだし、書き留めておいたほうがいつでも初心に帰れるかな、と思い、まとめてみました。
仕事と学問の両立ということで、少しドキドキしますが、できることをなんでもやってみたいと思います。お仕事で関わらせていただいている方は、これからもお気兼ねなくお声がけください。ジャーナリストとしてだけではなく、研究者としても、お酒の未来に貢献できるよう、ますます研鑽してまいります!
お酒を愛する素敵な人々の支援に使えればと思います。もしよろしければ少しでもサポートいただけるとうれしいです。 ※お礼コメントとしてお酒豆知識が表示されます