うつ病になったら痩せるって聞いたんですけど。

うつ病と言えば代表的な症状に「食欲の低下」が挙げられる。
気分が下がり、食欲が湧かなくなり、食べる量が減り、体重が減る。
そう言う代表的な症状が挙げられるが、私には適用されなかった。

いや、正確に言えば適用はされた。
気分が下がり、食欲が湧かなくなり、食べる量が減り、までは適用された。
一時期本当に「私小食なんですぅｷｬﾋﾟｯ」みたいな量の一人前すら食べきれないレベルまで行って、これはヤバイとマジで自覚をした。
病院に行かねばならないと決意した瞬間だった。
だが体重が減るまではいかなかった。
おかしいだろ、減れよ。
デブでうつ病って洒落にならないだろ、減れよ。

しかしこれにも理由がちゃんとある。
実は私には元々、ヤケ食いの癖があった。
ストレスが溜まると(溜まっていると自覚はしていない)、とにかく何でもいいから食べたくてたまらなくなる。
食べている瞬間、恐らくアドレナリンがドバドバ出ているんだろうと思うくらい止まらない。
味なんてどうでもいい、とにかく食べられれば何でもよかった。
そのヤケ食いサインが仕事を休職する前から出ていたが、気付かなかった。
「正月休みに食っちゃ寝してたからその名残かな」程度にしか思っていなかった。
今思い返せば食べる量は確実に増えていたのに、やっぱり渦中にいると気付けないものである。

そして病院に通い始めて、まずは自分がうつ状態であると診断されてからは逆にヤケ食いをするようになった。
これは私が本気で自殺をしようと考えていたせいもある。
「どうせ死ぬから何も考えなくていいや」と思っていた部分は多々ある。
だが先程も言ったが、食べたくてたまらなくなるのだ。
ストレスを感じてそれを食べる事で発散すると頭が「食べればいい」と覚えて、ストレスを感じるとまた食べたくなっての繰り返し。
スーパーやドラッグストアでヤケ食い用のカップ麺や米をたくさん買った期間もあった。
金がないので一番安いカップ麺を買う。
安くて量があれば尚良し、ごつ盛りにはお世話になりました。
そんな日々だ、当然ヤケ酒もする。
氷結の500ml缶をたくさん空けると気分がよくなるのだ。
「完全にアル中だなあ」と思いながらも止められなかった。
このレベルまで来るともうブレーキが壊れている、自力では止められない。
余程の事がない限り。

そしてついにその「余程の事」が来た。
カップ麵や米やパンやら、とにかく目に付く今すぐ食べられるものを全部食べて酒もたくさん飲んで、あとはいつも通り自室でぼーっとして酒と薬の間隔を空ける為の時間を稼ぐだけ。
だけだったが、その日は強烈な吐き気が襲ってきた。
今までも吐き気はあったが、まあ堪えられる程度だった。
でもこの日は堪え切れず、ヤバイと思って一階のトイレに駆け込もうとしたものの全く間に合わず、自室のフローリングに吐いた。
飲み過ぎて気持ち悪い時も吐けばすっきりするように、この吐いた瞬間すっと頭が冷静になって、その吐き出したものを見た。
つい先程食べたカップ麵がそのままな上にピザトーストの赤い色と臭い。
「何をしているんだろう」と冷静になった、正気に戻った、後悔をした。
食べ物を無駄にしていると感じてようやく、馬鹿みたいなヤケ食いにブレーキをかけられるようになった。

正直なところ今でもヤケ食い癖は治ってはいない。
イーッ！となれば食べたくなるし、時には食べる。
体重は減らないしデブなままだしもちろん後悔もする。
ただ、量は一時期に比べれば十分に減ったので、時にはヤケ食いをする自分も無理矢理肯定する事にした。
「食べたかったんだよね、しょうがないね」
そう思うだけで次のブレーキにはなる。