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20. 最後にして最初の人類

観終わって、これは映画じゃないな、と思いました。
画面には奇怪な建築が映し出され、内容は20億年未来の人類からのメッセージであり、音は二つの要素を繋ぎながらこちらの不安を煽ってくる。お互いに影響し合うところもあるけれど基本は独立している“映像と言葉と音楽の集合体”は「映画」という括りの中のものではないと思ったのです。
実際、パンフレットにはマルチメディア作品という書き方がされていました。オーケストラと共にライブパフォーマンスをする形での上映も行われたそうです。

そんな映像作品「最後にして最初の人類」の、基本情報をまず書いておきましょう。

監督は作曲家ヨハン・ヨハンソン。多くの映画などに楽曲を提供しており、この作品は自身で監督した最初の(そして最後の)長編映画です。(ヨハンソンは2018年に享年48歳で亡くなっています)

原作はオラフ・ステープルドンの同名小説。20億年の人類の歴史を辿った内容で、劇中では主に最後の2章から取った言葉を、20億年後滅亡に瀕している人類からのメッセージとして構成しています。

そして映像に映し出されるのは「スポメニック」。旧ユーゴスラヴィアの共産主義の政府が建てた、第二次世界大戦中占領されていた恐怖や戦後の解放の喜びを示す記念碑群です。
今や多くが廃墟となったこの建築物は、歴史的背景の説明は全くなしに、近未来的でこの世のものとも思われない形の印象だけが粒子の荒いモノクロ映像となって観客の眼前に迫ります。


浅学にして作曲家である監督も、原作の小説及び作者も知らなかったわたしですが、スポメニックのヴィジュアルに惹かれて観に行きました。
でもわたしが考えさせられたのは寧ろ言葉の内容の方でした。

20億年後の人類がわたしたちに訴えかける話は非常に現代的です。
遠い未来、地球環境の変化や人間の数多の愚行、そして太陽の活動の衰退により滅亡の危機にある人類の窮状を滔々と語ります。彼らは過去の人類であるわたしたちにコンタクトを取り、自らの過ちに気付くよう伝えようとするのです。
その言葉は直接的ではありませんが、あまりにも多くの問題に直面している現代社会に思いを馳せれば、誰しも危機感が胸に広がってくるでしょう。

ディストピア的未来を描くことで現実に目を向けさせる点はまさに王道SFと言える作品ですが、わたしはその根本の設定に違和感を覚えてしまったのでした。
未来人は、人間の一生なんて宇宙から見たらあっという間で、その宇宙も不滅ではない、と言いながら一縷の可能性を求め必死に人類という種を繋いでいこうとしています。
なぜそうまでして“人類”を残さなければならないのでしょうか。
しかも彼らは生き延びるために身体に様々な改造を施し(この辺りの描写は水樹和佳の「イティハーサ」を思い出させました。この漫画に出てくる半獣半人は高度な文明の末に生物兵器として生み出された者の末裔だったけれど)、非常に長寿でテレパシーも使える、もはや人間ではないような人たちです。

“自分”が生き残りたい、死にたくないというのは理解できますが、種としての存続なんて個人にとってはほとんど意味のない、漠然とした理念です。
学校で生物の目的は種を存続させることだという風に習った方も多いと思いますが、これは実は今では否定されている論理で、現代の進化学において一般的なのは「自然選択説」だそうです。つまり自然淘汰のことで、生物は種の保存を意識しているわけではなく、様々な要因によって、その環境に適した個体が生き残り子孫を残していくだけなのです。
(なぜ子孫を残すのかという問いは消えないわけですが、それに今答えを出すのは不可能でしょう。)
そう考えた時に、20億年後の人類が、果たして種の存続のために行動を起こすのか疑問です。
それよりは先を見通す力のない現代人への哀れみや、死ぬまでの自らの心の慰みに、コンタクトを取ろうとしたのだと思った方が、わたしにはしっくりきます。

ぐるぐると思考しながら言葉を聞いていると、音楽も映像もほとんど入ってこない時間もかなりあって、映像としての印象は薄いです。
でも壊れゆく未来世界のメッセージを聞く場所として、異様な建築群はぴたりとはまっているように見えます。未来人の祈りに廃墟が共鳴するような。


原作は日本語訳は入手が困難なようですが、同じ作者の「スターメイカー」という作品は文庫版が販売中のようです。
これには“ビッグバンの余波が鳴り渡る時空に生息する生物”が登場するそうで、この字面から受ける印象がとても美しいので読んでみたいと思っています。


最後に。
公式HPで音楽を少し試聴することができます。
映画の雰囲気の一端を感じられるのではないかと思うので、予告編を観た後に聴いてみていただければと思います。

ではまた。


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