レタスかもしれないおじさん 【小説】

こんにちは。
年末に予定が詰まりすぎていて全然更新できていませんが、年内にもう何本か投稿できたらなと思っています。
この間電車で前にいた人が「来週の今日って来年らしい」と言っていました。ひえっ。
あれからさらに数日、もはや大晦日まであと３日。

とりあえず、今日から配布予定の個人フリーペーパーに掲載している作品を載せておきます。無事年を越してからでもゆるりと読んでくださいませ。


　この人、さっきサラダ食べてた。レストランで隣の席だったからあたし知ってる。テラス席で、ちょうどテーブルの上が陽だまりになってて気持ちいいところ。おひさまのプールに浸かって、あたしはママとおばちゃまと一緒に、マカロニサラダ食べてオニオンスープ飲んでプレーンオムレツとステーキ食べてソースをパンで拭ってオレンジジュース飲んだ。

　でもこの人ったらサラダばっかり。勢いよく食べるから、パリパリむしゃむしゃ音が聞こえた。マカロニのじゃなくて生野菜の、ゆで卵くらいは載ってたかな。ボウルに山盛り、その上からフレンチドレッシングをひと回し。レタスにフォークを突き刺すと、シャキって鳴って水が跳ねた。まっぷたつの赤いミニトマトに、薄切りの玉ねぎ、あれ辛いからあたしは嫌い。

　三回もおかわりするのをあたし見てた。メインはなんにも頼まないでサラダだけ食べてたおじさん。

　それで今度はあたしの行きつけの公園でうたた寝してる。二人掛けのベンチ、やっぱり陽だまりの、膝に広げた新聞がずり落ちそう。

　この丸まった背中に、さっきのサラダが詰まってる。あんなに沢山バリバリ食べて、体の中にはサラダしか入ってないんじゃないかな。もしかして人間の部分よりサラダの部分の方が多いかもしれない。それってもうこの人は人じゃなくてサラダってことかな。それともサラダの中でもレタスが一番多かったから、レタス？
　あたしはママに買ってもらったアイスを舐めながら、横目でレタスかもしれないおじさんを見てる。起きて顔を上げたら分かる。レタスだったら緑色のはずだもん。もしレタスだったら、ママは驚いて悲鳴を上げるね。そしたらあたしはママをなだめて、この人がレタスになった理由を教えてあげるの。ママは納得して、よく分かったねって撫でてくれるね。