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玩具 【短編小説】

お久しぶりのちゃんとした投稿になってしまいました。
早く京都のまとめとか漫画のまとめとか書き終わりたいなあとは思っている……。

こちらいつもの如く、個人で出しているフリーペーパー「さいきん」に掲載した作品です。最近のわたしの世界観。


 箱の中に、あらかじめ決められた数の微細な玉が詰まっています。玉数を決めたのは箱の外にいるひとです。ひとと言ってはみましたが、眼孔に嵌まっているのは鳩の眼、左右十二本の手指の関節は外側に向かって折れ、背には象の羽がふさふさと、にんげんのなりをしているわけではありません。ともかくそのひとは、箱の外側に立ち、或いは寝て、玉の動く様子を見つめています。揺すって動かすことはしません。玉が勝手に、ゆくべきところへゆくのです。いき続けるのです。そのひとは、初めに玉が箱へ入れられた際の角度や速度がその後の行動を決定づけているのだと推察しています。あちこちで玉同士がぶつかって、融合して、離散して、連鎖反応、連鎖反応。動きに法則なんてないように見えて、その実どう動いていくかはそれぞれの反応の集積でしかない。鳩の眼で眺めながら、そのように考えています。

 箱の中の玉は増えることも減ることもありません。一定の数を保ち、壊れることもなく、くっついては形を変えていくだけ。一個の玉である時は同質の物体でしかないものが、融合すると全く別の、未知のものになることが何とはなしに面白く、そのひとは箱から目を離せずにいます。知らない形、見たことのない動き、同じものは二度と生まれない神秘……そのひとは常に箱の見える位置にいて、もうずっと長いこと観察しています。飽きたら捨てることも、蓋を開けて新しい要素を足すこともできるのですが、まだその兆しはないようです。

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