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102. タニス・リー「闇の城」 【小説】

ダーク・ファンタジーの女王と呼ばれたイギリスのファンタジー作家タニス・リー。
彼女の存在を知ったのは確か数年前。
実は母が若い頃好きな作家でもあったとその後知り、ずっと読みたいと思いつつ、意外と本が出回っていない&中古の文庫にしてはそこそこな値段がするので手に入れるまでに時間がかかり、さらに何冊か買ってから読むまでにも積ん読期間があり。ようやく先日読み終わったのでした。

わたしが読んだタニス・リー最初の小説は「闇の城」。
表紙が天野喜孝の装画で、ミュシャ風の女性が素敵です。
この頃の早川書房の文庫とかサンリオ文庫は良い装画の作品が多くてコレクション欲がうずきますね。

さて内容はと言うと、
怪しげな双子の老婆に世話をされ、一人不気味な城に住む少女リルーンと、
竪琴の名手で将来を嘱望されながらさすらいの旅に出た青年リアが主人公です。
リルーンは生まれながらに闇の力に取り憑かれており、床に引きずるほどの髪を持ち、陽の光を浴びると肌がただれる、一種異様な様態をしています。
一方のリアも竪琴の声を聞き、竪琴の選んだ歌を歌いその促す方向へ旅をする、特殊な能力の持ち主です。
二人は運命のように出会い、反発しながらも離れられず行動を共にするようになります。

まあ言ってしまえば、不憫な少女を青年が救うお話です。
無論間に幾つものエピソードが挟まりますが、エンタメ小説なのですいすい読めます。
訳がしっくりこない部分や誤植もいくつかありましたし、ストーリーが特別面白いということはないのですが、設定や描写がまさしく美しいダーク・ファンタジーの結晶と呼ぶべきもので、眼前に浮かぶ幻想的な情景に何度も感嘆のため息が漏れるほどでした。

その内の幾つかを以下に引用しておきます。
ぜひ美しい情景をお楽しみください。

 太陽は三十分も前に沈み、鐘楼の鉄の鐘もすでに鳴りやんでいた。今、黄昏にのみ目覚める少女が、城の大広間へと入っていく。
 ほっそりとしてはいるが、背は高いほうではない。漆黒の髪は、きわめて長く、すすけたマントのように、からだをすっぽりと覆っている。ついには床にまで達して、ふわりとひろがり、歩むにつれて床のほこりをはらっていく。顔の色はひどく青白かったが、瞳は深い緑色に輝いていた。
(冒頭部分)
ひもが一本切れた。赤いガラス玉の首飾りが、血のように流れ出した。
(52ページ)
 やがてリルーンは、滑らかな水の面がもはや激しい流れのために白く泡立っているのではなく、流れよる花びらによって白くなっているのに気がついた。花は水にぬれ、くずおれて、長持の行く手に広がっている。満ち潮がここまで運んできたのだろう。そして花はまたリルーンの長持とともに南へと帰っていく。
(中略)
 水の面に一ヤードあまりも円を描いて広がる黒髪に囲まれて、長持の上に少女がひとりすわっている。
(115〜116ページ)

別の作品を読むのも楽しみです。
ではまた。

ちなみにヘッダー画像はフランスのシャンボール城。

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