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82. 邂逅する写真たち モンゴルの100年前と今 【展覧会】

先日、国立民族学博物館でこの展示を観てきました。
元々ちょっと気になっていた展示ではあったのですが、ちょうど無料で参加できるセミナー、みんぱくウィークエンド・サロン研究者と話そう「モンゴルの“民族衣装”の100年前と今」が開催されるとのことで、それに合わせて行ってきました。

万博記念公園への訪問自体、二度目。
前回は大阪日本民芸館の展示を観に行ったので、民族学博物館の方は初めてです。
本当はEXPO’ 70パビリオンも見たかったのに、時間切れ……今度こそ行けるかしら!? という期待を胸に。
開園の9時半から博物館閉館の17時までまるっと園内にいたので、特別展以外の様子も含めてさらっとお話しします。

朝6時過ぎに梅田に着いたわたくし、モーニングを食べて、することもないのですぐ万博記念公園へ向かいます。当然早く着きすぎ、その辺りを一時間くらい散歩して(桜が綺麗な公園があったり川があったりして楽しかったです)、開園5分前に戻ってくるとなんと長蛇の列ができている……。

え、そんなみんな開園と同時に入るものなの? と思ったら、太陽の塔の裏でフリーマーケットがあるとのこと。
ゲートが開くと同時にダッシュしていく人々。
そこまでの情熱はなかったので普通の速度で歩きながら、でもせっかくなのでフリマの入場券を買って会場へ寄ってみました。(博物館の開館は十時でしたし)

オールジャンルというか、服から雑貨からアニメグッズから雑多に並んでいる。どころか未使用の洗剤とかマスクとか売ってて面白かったです。
全店見て回って、面白い形のブラウスが400円と安かったのでそれだけ買いました。らくだと牛の金色のブローチも買うか迷ったけど、ブローチほとんど使わないしな……ということで見送り。
この日はすごく暑くて夏日で、青空のもとうろうろするのは楽しいけど大変でした。
さっき走っていった人が汗だくで、大きなカゴに戦利品を満載にして転がしているのを見掛けたりもしました。

ゆっくり一周したので、見終わったのは11時くらい。
ようやくお目当の民族学博物館の特別展示会場へ。
今回の展示はタイトル通り、100年前に欧米の探検家たちが撮ったモンゴルの様子と、現代のモンゴルのドキュメンタリー写真を対比させる企画です。

2階建の丸い会場が特徴的で、円形を上手く使った展示になっていました。
入って左手に、100年前のウランバートル(首都)の様子や皇帝の服などが展示されているゾーン。そこから壁沿いに進んでいくと現代のウランバートルのスナップ写真や都市開発についての展示。
階段を上がると100年前の探検や遊牧民たちの様子の紹介があり、それから現代モンゴルで都市の周縁に密集する半定住の遊牧民の「ゲル地区」の展示へと移ります。
最後に都市とゲル地区の格差問題などを訴え、モンゴルの若者たちに人気があるというヒップホップのMVコーナーがあって終わりです。

あまりモンゴルについての知識のないままに見始めたので、モンゴルという国がどういう歴史を歩んできたのか理解するまでに手間取りました。とりあえずこの直近100年では、清朝から独立→ソ連からの圧力で社会主義路線へ→民主化運動が起き民主主義国家へ、というのが大まかな流れのよう。

100年前の写真も現代の写真も、人々の姿がありのままに記録されているように見えます。でも実際は、100年前の写真には欧米の探検家たちの見方が反映されていて、“エキゾチックさ”が強調されているかもしれないし、もちろん現代の写真にも作家の目線が介在し、メッセージ生も込められているかもしれない。
そういう、どこまでが本当の真実なのか分からないような独特な浮遊感の中で鑑賞しました。

そんな中、展覧会で強く打ち出されていたのはモンゴルに対する「素朴な遊牧民」という漠然としたイメージって正しいの? という問いかけでした。それはあくまで社会主義時代に形作られたイメージであって、本来はもっと装飾的でパワフルだったのでは? と。
セミナーもその流れでの話だったので、それについてはセミナーの話のところでしようと思います。

特別展については、その他の気になった点などをいくつか挙げておきます。

・100年前のモンゴルについて
都市ウランバートル(当時、欧米人にはウルガと呼ばれた)は、幾つかの立派なお寺の周りにゲル(遊牧で使うテント)を並べて作られた、流動的な街だったそう。定期的に住居の移動があったそうで、街なのに街じゃない感じが面白いなと思いました。
それから、当時の写真やレプリカの民族衣装を見ると、女性がウルトラの母みたいな頭飾りをしています。てっきりハレの日用なのかと思いきや、ヤギ乳絞るときも着けていたりする。重そうだし邪魔だろうなあと思うのですが、当時はこれは普通のおしゃれだったみたい。帽子も変わった形のものが多い。
あと、1930年代の写真で人身売買の様子を写したものがあったのですが、なんとらくだに幾つかぶら下げた籠の中に女の子たちが入っていました。まるきりもの扱いで、この先彼女たちがどういう一生を送ったんだろうと思うとゾッとしました。果たして彼女たちは人間的なものを求められたんだろうか。

・現代のモンゴルについて
一見すると、高層ビルが立ち並び、人々は皆洋装で街を闊歩し、デジタル機器を使いこなす日本とも大差ないような生活が繰り広げられているように思われます。大型ショッピングモールや大型市場(蛇足:ゲルも市場で買えるらしい)、ファストフードのチェーンがあり、キャッシュレスも進んでいるようです。暗い面で言えば公害問題があり貧富の差が激しい点なんかも、他の国々も直面している問題です。
そんな中でモンゴル特有だと感じたのは、シャーマンの存在。
モンゴルでは広く仏教が信仰されていて、普段困ったことがあるとお寺に行ってラマ(師)にお経を読んでもらうそうです。

困りごとがないときはほとんどお寺に行かないらしい。
寺院内には厄除け読経の料金表が掲示され、ATMまであるとか。

それでも解決しないと、今度はシャーマニズムに頼る。
“王侯貴族や伝説上の英雄といったルーツ霊が自分を守ってくれる”として、シャーマンになる人が一時期急増。今は宗教の多様化で少し落ち着いてきているようですが、奇天烈な格好をしたシャーマンがそこら中にうろちょろしていたらけっこう怖そうです。
このシャーマン、かつては動物崇拝だったようなのですが、今は祖霊信仰というか人間への信奉が基礎にあるようです。現代の主要な宗教はどれも人間が主体になっている気がして、昔は多分どの地域でもアニミズム的感覚が根底にあったはずなのに、随分と驕り高ぶったものだなあとか思います。宗教学はまだ勉強できていないので適当なことは言えませんが。

あ、あと、10年前くらいのウランバートルで“有人公衆電話”なるものが仕事として成り立っていたことにも驚きました。


さて、セミナーが始まるまで常設展を。
これが圧倒的なボリュームで、後で聞いた話によるとここは何日も通わないととても見切れないことで有名らしい。ルーヴル美術館みたいな。暮れに関西に長く行く予定なので、その時に通いつめようかな。
ざっとしか観られなかったけれど、目に留まったものは解説も読みつつ進んでいくと、セミナーのチケット配布のアナウンスが。急いで向かうとすでに行列ができている……。定員42名、こんなに人気だとはつゆ知らず、ちょっと呑気すぎたなと思いましたが、ぎりぎりセーフでチケット確保。

セミナーが始まるまでの30分で何かお腹に入れておこうと、一旦博物館を出ます。
レストランとかカフェは混んでいるしそんな時間はない。屋台の揚げ物は暑いし食べる気にならない。
ということで手にしたのは自販機のアイス。セブンティーンアイス、初めて食べました。チョコミント味。存在は知りながら、わざわざ自販機でアイスを買おうという気にならなかったので、これまでスルーしてきたのでした。
何気にチョコミントアイスも初めてか2回目くらいだったのでは……?(チョコミントという味自体は好き)
暑い中で食べる甘いアイスは美味しくて感動しました。

セミナー室に戻り、准教授だという方の講演を待ちます。
大人数が教室に集まってスライドを見るなんて、大学以来でした。
コロナ対策で、長机1個に対して聴衆は1人。各テーブルにアクリル板が設置されていて、スライドが見辛かったです。(あと、教授が話し始める時に大体“ちなみに”と言うのがけっこう気になりました(笑))

セミナーの内容は、冒頭で言った通り民族衣装に焦点を当てたお話。
この100年間の民族衣装を見ていくことで、モンゴルに対しての質素で素朴なイメージを覆そう、という趣旨でした。

つまり、元々は華やかな色柄で装飾品も多かったモンゴルの民族衣装が、社会主義時代に無地で簡素なものに変えられたので、それを見た他国の人々が勝手に“モンゴルの素朴な遊牧民”イメージを持った、ということらしい。そうしてまだ社会主義の名残で、シンプルなデールが着られているのだとか。
まあ確かに民族衣装って大体どこの国も、派手な刺繍があったり装飾過多だったりけっこうゴージャスなので、モンゴルも例に漏れずそうだったのだろうなあと。

皇帝の服のところでは、中国から独立したことをアピールするために中国皇帝と同じ龍柄の服を着た、という話を聞いて、この前読んだ中国における龍の図像についての本を思い出しました。

それから、従来のデールは採寸なしの手縫いのものだったのが、近年ハレの日に着られるデールは採寸ありの体にぴったり沿う形になっているとのことでした。そうすると家では作れないので、プロの仕事になる。伝統的なものをアレンジしたデザインが出てくる。日本の大学の卒業式の振袖みたいなことが、モンゴルでも起こっているみたいです。

いやはや、あっという間の一時間でした。自分の興味のある話だと時間がびゅんびゅん過ぎますね。
その後は常設展に戻り、一時間半館内をうろうろしました。やっぱり全然時間足りなかったけど。
EXPO’ 70パビリオンもまた辿り着けなかった……。


今回の大阪行きは、行きたかった場所を幾つか回れたり、新しく素敵なお店を発見できたり、馴染みのお店でも楽しい時間を過ごせてよかったです。何よりどこも夜までやっているのがありがたい。

お近くの方はもちろん、遠方の方にも、大充実の国立民族学博物館おすすめです。ではまた。

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