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夜のカナリア

眠れませんから夜更かししましょう?

あたたかいミルクに落としたいのは胡桃兎の涙?それとも渇きの蝶の鱗粉?
どちらも香り高くて身体が温まりますもの、迷ってしまいますね。

ブルーダの歌姫のレコードをかけて、そっと身を寄せ踊りましょう。
手に手を取って、揺蕩うように。
気持ちのいい音楽と、夜の静寂の境目が、溶けてなくなるまで踊るのです。

あなたのくれた赤い花束、一本ずつ手折っていきます。
あさがくる、こない、くる?
このままずっと、夜が明けなければいいのに。

今があまりにも楽しいと、この瞬間に全てを終わりにしたくなるのです。
ああ、どうか神様。お願いですから今この瞬間に私のことを連れて行ってと。
私は取り残されるのは嫌ですから、あなたを一人残していきたいのです。
悲しまないで、あなたはきっとすぐに大丈夫。
私のことはさっさと忘れておしまいなさい。

つまらない話は、ええ、終わりにして、そうよ、今を楽しみましょう。
ふふ、さっき私が言った言葉ね。

ああ、あさが来てしまう。
あなたがここを出て行くのももうすぐなのね。

カナリアの羽を落としてから、籠の扉を開けるように、私の足を落としてから、あなたがこの部屋を出て行けばいいの。
そうすれば私はあなたを追いかけなくて済むから。
私は飛べないカナリアみたく、歌をうたって殊勝にあなたの帰りを待つわ。

何年だって待ち続けるわ。
だから、そう。帰ってきたら、また今みたいに夜更かししましょう?
誰もいないくらい静まり返った夜の帳に、私とあなたの詩を綴って。
金の糸で刺繍しましょう。
ひと針ひと針、丁寧に。
ふたりの思い出を縫い付けましょう。

あたたかいミルクのおかわりはいかが?
太陽が顔を出すまで、あともう少し。
その間だけは、私を見つめてくださいな。

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