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深海のクラゲは太陽の夢を見た。

クラゲは太陽を見てみたかった。
一目、一目でいいから見ることができたら、きっと何にも変えられない幸せあるだろうなと思うほどであった。

ある深海魚はこう言った。
『太陽に焦がれるなどなんて愚かな!きっとお前はかの太陽の、熱で焦がれて死んでしまうぞ。』

ある甲殻類はこう言った。
『太陽を一目見たい?きっと目にした瞬間光で眼が焼け切れるだろうよ。』

ある海藻はこう言った。
『太陽はきっと、美しいだろうね。眩しくて暖かくて、きっと僕らにちっとも優しくない。』

クラゲは思った。太陽に優しくされたいから見たいわけじゃない。目が潰れても、その身が焦げても、太陽になんとも思われなくとも、ただ自分が、太陽を見てみたいんだ。と。

深い深い海の底、日の光なんてちっとも届かぬ暗闇の中、クラゲは目指した、水の上。
暑いと噂の太陽を、眩しいと噂の太陽を、その美しさを、その煌めきを、しかとこの目に焼き付けたいと。

変化していく水圧に抗い、上昇していく水温にも耐え、クラゲは上へ上へと目指して進んだ。
その道のりが険しかろうが、どんなに果てなく遠かろうが、その一心で上を目指した。

やがて薄明るく染まりゆく景色に、心をざわざわ踊らせながら。クラゲはぷかぷか上を目指した。



夏の太陽眩しく煌めく、波打ち際に半透明のクラゲが一つ。力尽きて打ち捨てられた。
灼熱の太陽その身に浴びて、光をキラキラ反射した。しかしクラゲは幸せだった。
きっと幸せだったと、そう思う。

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