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海の月

半分に欠けた月が、綿毛の隙間からこちらをそっと覗いてくる。
柔らかく広がるオレンジの光が、どうにも眩しくって僕は、そっと目を逸らした。

音が聞こえない世界にいるような、透明の泥の中を進んでいるような感じ。
掴みどころのない明日は、ひどく遠くに見えて、肩を後ろから叩いてくる。

目覚まし時計のセットをやめた。遮光カーテンを隙間なく閉じて、布団の中に潜り込む。

溶けてしまえ、溶けてしまえ。死んでしまったクラゲみたいに。
跡形もなく、水のように、泡みたいに、何もなくなれ。

口の中で小さくつぶやいた呪文は、虫歯になって残っていった。
じくじく痛む右のほっぺで目が覚める。

ああ、今日もまた、溶けきれなかった。

海に映る月の影が眩しくて、目を細めた。
泡になったクラゲが、空から手を振ってきた。
僕は、僕は。

一歩、前に足を進めた。

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