見出し画像

アーサー、口うるさいクマのぬいぐるみ

『全員に好かれようだなんてどだい無理な話だろうに、どうしてそんなに嫌われるのが怖いのさ。』

アーサーは私にそう言った。
アーサーというのは、異国の友でもなく、金髪碧眼の王子でもなく、私がまだブサイクでつるっぱげな赤ん坊の頃から一緒にいるクマのぬいぐるみのことだ。

アーサーは口うるさい。すごくうるさい。
私の思春期のちっぽけな悩みなんて全部正論でぶっ飛ばしてくる。優しさなんてかけらもなくて憎たらしい。
アーサーは性格が悪い。
つぶらな瞳にまあるいシルエット、そのテディベア様々な可愛らしい風貌が霞むほどに性格が悪い。
だから、今もこうして悩んで、落ち込んでべそかいてる親友に平気でそんなことが言えるのだ。

『全員に好かれるために無理して笑ってる自分のこと嫌いになってちゃ意味ないだろ。そんなに全員に好かれたいなら、自分が好きな自分はマストだろ。』

クマのくせして痛いとこ突いてくる。
口うるさいクマのぬいぐるみ、きつく抱きしめて口を封じる。
あんた、私の親友じゃないの?
そういって頬を膨らませると、ふんと鼻で笑って腕の隙間から抜け出してくる。

『親友だからだろ。』

後ろ姿しか見えないクマの背中は、なんなかちょっぴり可愛く見えた。

アーサーは口うるさいクマのぬいぐるみ。
可愛い顔して性格はとびきり悪い。
だけどいつまでも、私の一番の親友である。

この記事が参加している募集

スキしてみて

いつも応援ありがとうございます! 頂いたお代は、公演のための制作費や、活動費、そして私が生きていくための生活費となります!! ぜひ、サポートよろしくお願い致します!