君の星、僕の星座 2
2.恩人
こちらを恐ろしい形相で睨む手負いの彼に、ノスリは恐る恐る声をかけるのでありました。
『あ、あのう』
『なんだ』
『そんな所で、血を流して、動けないでいるのは、タカさんですか?』
『なんの話だ』
『昔にぼくを、気にくわないとつっついた、嫌味で業突く張りで、酷く恐ろしいあのタカさんですか?』
『だからなんの話だと___イタタ、』
『ああ、大丈夫ですか?』
『間抜けな声でそう聞かれると、このまま気が抜けてしまそうだ。おい、おまえ。残念ながらおれはおまえを突いたタカではないぞ』
『なら良かった、あの、えっと……』
『よだかだ。夜の鷹と書いてよだか。タカとはいとこだが。おれもやつとは気が合わん。訳あって怪我をしているが、怪我の具合がどうにも良くない。どうにか助けてはくれまいか?』
『夜の鷹、よだか。……美しい名前ですね。よだかさん、いま、お水を持ってくるので、そこから動かないでくださいね!そこで待ってて!』
『動くも何も、動けないんだが』
初めて会った綺麗な名を持つ血だらけの鳥に、ノスリは興奮を隠しきれませんでした。
すぐさま水を汲みにいき、よだかに飲ませ、固まりかけた血と土でドロドロになった傷口を洗ってやりました。
そして、食事。ノスリが普段口にするのは、羽虫だとか、ミミズだとか、そういったもので、正直よだかの口には合いませんでしたが、それでも嬉しそうに捕まえた虫たちを並べるノスリの姿に、よだかは我慢して食べるのでした。
『なあ虫もいいが、たまにはねずみやスズメの味を見てみたいとは思わんか?ああ、あの血が滴る肉の喜ばしさといったら!』
『うえ、やだなあ、ねずみだなんていつも泥まみれドブまみれで臭いったらありゃしない。スズメはスズメで傲慢でピーチクパーチクうるさいのにそれに第一、ぼくには彼らを捕まえるなんて、できやしないですよ。』
『やってみたのか?』
『やらないですよう、だって僕、あんなの食べたらお腹壊しますし。多分。』
『もったいない、あんなに美味いのに。』
『やだなあ、あ、ねえねえ、ぼくのことは食べないでくださいよ?』
『誰がおまえなんぞ食うか』
『あのさ、よだかさん』
『なんだ』
『ぼくのことも名前で呼んでくださいよ』
『なんだよ今更、気持ちの悪いことを言うな』
『ひどいなあ!助けてあげたんだからそれくらいのことはいいじゃないですか』
『出会いが違えば、おまえはおれに食われていたかもしれないんだぞ?』
『さっきはぼくなんて食べないと言っていたじゃありませんか』
『それは、あれだ、恩人を食う訳にはいかんから』
『恩人!ぼく、あなたの恩人なんですか?』
『そうだ、恩人だ。不本意だがな』
『そうかー、ぼく、よだかさんの恩人なのかあ』
『おまえのおかげで助かった。改めて礼を言う、ノスリ』
『え、いまなんて?』
『忘れた』
『え~、もう一回言ってくださいよう!ね?ほら一回だけ!ノ、ス、リって!ね?』
『言わん!』
『ええ~~』
『しつこい!!!!』
星の海がよく見える、静かな夜の森に、ふたりの声はよく響き渡りました。
ノスリは、あっという間によだかのことなんて怖くなくなっていて、それどころか落ち着くような気持ちにすらなったのでした。
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