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天使の気まぐれで花が降る。

降った花はどこに消えるのだろう。

小さい時、それが不思議で不思議で仕方なかった。
だから花が降った後はいつも、窓にかじりついて庭を観察していた。
大抵、途中で耐え切れずに眠ってしまい、目が覚めた時にはもう花は無くなった後という事がほとんどだった。
それが悔しくてたまらなくて、泣きわめいていたのだけれど。

降った花が朽ちることなく塵になって消えると知ったのは、それから少し大きくなってからのことだった。

根を生やし咲く花々とそう違いないのに、空から落ちる花たちは枯れずにただ無くなって行くことは、更に不思議が深まる事実だった。

さて、放っておくと消えてしまうこの花たちは、もーっと不思議なことに容れ物に入れると形を変えて残るのだ。
例えば麻袋。
麻で作った小さな巾着に入れておくと、生花だった花びらは、コサージュの花びらに変わり、その麻袋はポプリになる。

ブリキの缶に入れておくと、花びらは溶けてなくなり、代わりになんとも鮮やかな色をしたペンキになる。

ガラス瓶に詰めておくと、花は石となり、それが更に崩れて砂になる。サラサラとしていて、キラキラと輝く美しい砂は、砂時計の砂となり、時を刻む。
他にも、木箱や、ダンボール、なんならペットボトルに入れたって、何かに変わる。

詰め込んで封をして放っておくだけで色々な物に変わるから、子どもたちはみんな花が降るととにかく集めて、家中色々な所を花だらけにするのだ。
かくいう自分もその一人だったのだけど。

ちなみに、ガラス瓶に詰めて、綺麗な川の水を入れると、花びらのまま時が止まるらしい。
管理が難しいそうでやったことは無いけれど、1度美術館で見た時は本当に綺麗だった。

透明の容れ物に入れておいても、必ず目を離した隙に変わっているので、きっと降った花がなくなる瞬間も変わる瞬間も、自分には見れないものだと思うようになった。

未だに、花が降る理由も、消える理由も、形が変わる理由も解明はされていない。
神の施しという人がほとんどだけど、ある友人の田舎では、天使の気まぐれで花が降る。と言われて居るらしい。

天使が詰んだ花を、気まぐれや、あるいは転んだ表紙にばらまいて、それがたまたまこちらの世界の上空から降ってきているのだ、と。

その話を聞いた時、心の底からそれであって欲しいと思った。
気まぐれに降っては気まぐれに変化する、花として留めておけない、特別な花。
いつか誰かが、このからくりを暴いてしまっても、自分だけはこの話を信じていたいと、そう思った。

花びらを容れ物たちに詰めながら、信じていようと、そう決めた。

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