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【読書感想文10】過去の危機から克服法を学ぶための「危機と人類」

「危機と人類」は「銃・病原体・鉄」などの名著で知られるジャレド・ダイアモンド氏による最新作である。近代において危機に陥った国家が、どのように乗り越えたかを分析している。上下巻で読み応えがあるが、多くの学びがある名著である。まさに現在進行形で新型コロナで危機を迎えている我々が危機を克服するために何をすべきかを考えるヒントになる。

本書ではフィンランド、日本、チリ、インドネシア、ドイツ、オーストラリア、アメリカが事例として上がっているが、個人的に興味深かったフィンランド、ドイツ、日本、アメリカについて概略と感想を書く。

フィンランド

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フィンランドは今もっとも多くの国から学ぼうと思われている国かもしれない。国民の生産性が高く、快適な生活と仕事を送り、社会福祉制度が進んでいる。しかしフィンランドの20世紀は、ソ連という脅威と常に向き合い続ける過酷なものだった。

第二次世界大戦においてフィンランドはソ連から侵略を受け、いわゆる冬戦争と継続戦争が起こる。フィンランドは圧倒的な軍事力をもつソ連に抵抗し続け、莫大な被害を出しながら独立を勝ち取る。しかし継続戦争でドイツと組んだと見られて敗戦国と見做されてしまう。

戦後もフィンランドはソ連から多くの強硬な要求を受け続ける。フィンランドは独立を守り、共産化せずに国家としての地位を守るためにソ連の要求を引き受ける。結果東欧のような衛生国家とはならず、資本主義と民主主義の国家を守り通す。しかし他国はこの姿勢を属国化と批判した。

ソ連という脅威から独立し続けるためにフィンランドがとった現実的な対処は参考になる。フィンランドにとって守るべきは国民と領土と国家体制であった。そのために理不尽で屈辱的な要求にも妥協をした。それは完全な従属や口だけの徹底抗戦論よりもはるかに困難な道だっただろうと思う。

ドイツ

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ドイツは第一次、第二次世界大戦の両方で敗戦国となった唯一の国である。戦後も東西に分断され、冷戦の最前線の一つであった。20世紀で最も困難に直面した国かもしれない(もっとも第二次世界大戦は自業自得とも言えるが)。それだけ過酷な環境でありながら、現在ドイツはGDP世界4位、ヨーロッパ最大の工業国である。

戦後すぐのドイツはナチスを完全否定し、ナチスの一部の極悪な指導者によって戦争に巻き込まれたという姿勢をとった。しかし1960年ごろからナチスだけでなくドイツ全体がその罪を背負うという姿勢に変わっていった。1970年ごろから義務教育でナチスの残虐行為について学ぶようになった。

日本はドイツと同じ敗戦国であるから、どうしても比較されがちである。特に過去の罪への反省はドイツの方がはるかにしていると見做される。自国の歴史は裏表の両面について学ぶべきだとは私も思う(ただし過剰な反省はするべきではないとも思う)。

日本

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日本は幕末に黒船が来航したことで一気に革命を余儀なくされる。結果として明治維新に成功し、しかも内戦の被害規模は他国の革命に比べてはるかに小規模であった(もちろんゼロではないし、内戦がなかったわけではない)。明治政府は欧米の法制度や技術を参考にして近代化にも成功する。

幕末から明治、日露戦争の勝利に至る日本の成功要因は、自国と欧米列強との力の差を認めたこと、海外の制度や技術の良いところを見極めて採用したところ、このままでは清のように植民地化されるという猛烈な危機感を持っていたことなどがある。

日露戦争と太平洋戦争のときの日本の違いは、日本のトップが敵のことをほとんどを知らなかったことだという。幕末から日露戦争までは徹底的に敵のことを知り、自国と敵国の戦力差を分析していた。しかし太平洋戦争の時はトップですらアメリカについてほとんど知らなかったという。

アメリカ

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アメリカは20世紀から現在に至るまで事実上覇権国家として世界に君臨してきた。そのアメリカの最大の問題は政治的妥協がなくなり、二極化がすすんでいることだという。これは貧富の差だけでなく、あらゆる政治的問題に及んでいる。

確かに極論の権化のようなトランプ氏が大統領でいることが今のアメリカを象徴している。そういう意味でオバマ元大統領は中道派に見え、トランプ氏の対極にいる。今年の11月に大統領選挙が行われ、どちらが勝つかはわからないが、政治的妥協の欠如という問題は解決されないだろう。むしろ大統領選のためにヒートアップしている。もはや通常の方法では解決できない、根源的な問題な気がする。

まとめ

よくピンチはチャンスだという人がいる。だがこれは綺麗事だ。本当の危機の前では血を見ずして解決することはない。何かを捨てて大事なものを残し、自己変革をしなければ生き残れない。みんな仲良く平和に生きれるなら、それは危機ではない。

危機において何を守るべきかを選択しなければならない。もし選択できなければ全体が崩壊することがある。国民か領土か主権か経済か政治体制かアイデンティティーか他の何かを。




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