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少ししか食べないから食事に誘って

「少ししか食べないから食事に誘って」という台詞を聞いた時、女の子からこんな風に誘われて断れる男は居るんだろうか?と思った。
友達以上、恋人未満の男女に、または友達になったばかりでこれから関係を深めたいと思っている男女に、とても有用にも思われた。
そして何よりこの台詞が気に入った。
直球ではなく分かりにくくもなく媚びることなく機知に富んだ言い回し。
まるで魔法だと思った。

若かった僕は早速実践してみた。
当時、会社の同じフロアに別会社の気になる女の子が居たんだ。
廊下ですれ違った時に挨拶をしたり、給湯室で軽い冗談を言ったりしてはいたけど、その先の進展も戦略すらも無かった。
機会は直ぐにやってきた。
近くのコンビニで一緒になったその帰り道
「たくさん食べていいから、食事に誘っていい?」
と言ってみた。
効果は抜群。にっこりと笑って
「そんなに食べないから行きましょう」
と言ってくれた。

冒頭の台詞はアメリカのドラマ「ゲームの達人」の中で主人公の男が、女から言われたものだ。
主人公トニーはアメリカの大富豪の一人息子で、後継ぎでありながら画才がありフランスに留学することがやっと許され、そこで出会った女から
「もう少しお互いの事をよく知りたいから食事でもしましょう」と言う意味あいで言われたのである。
その後二人は付き合い始めた。
そしてトニーは才能を開花しつつあった。
だけどその女、トニーの母親が息子を監視するために雇った女で、それが発覚し、悲しい結末を迎える。
そして僕は、同じフロアの女の子から
「やっぱり合コンにしましょう」と提案された。
冷静に考えたら僕と二人で行くより、多数で行く方が安全で選択肢も増えると判断したんだろう。
何ともドライで賢明な判断だ。
魔法はいつまでも続かない。

結局気の利いた台詞なんて、その場限りの一過性のもので、冷静に考えてみたら軽薄で薄っぺらで、ちょっと角度を変えてみたら他と何ら変わらない。
ただその場の雰囲気に一瞬マッチし効果を発揮する、ゲームのボーナスポイントみたいなものなのだ。

それでも、今でも、台詞は大事なものだと思っている。
使い古された言葉でもたとえ他の誰かが使った台詞だとしても、使うのは自分でその台詞を選びその瞬間に登場させるのは自分自身で目の前の相手の事を思いながら使うのだ。
そして何より物事を一歩前に進ませることが出来る。
スタートラインに立つことが出来るんだ。
何もしなかった自分にサヨナラをして。

言葉は魔法なのだから。


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