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ニュー・シネマ・パラダイス

映画の批評ではなく、ただただこの映画が好きだということを、思うままに書きたい。

この映画を見ていない方は、ネタバレが含まれることをご理解ください。


まず、イタリアが好き。イタリア人も、イタリア語も好き。英語で話すスマートな感じもかっこいいけれど、イタリア語のあのチャーミングな響きがこの映画を形づくっていると思う。(イタリアというより、ここではシチリアとしたほうがいいかもしれない。)

イタリア人は、みんな口と同じくらい顔や手を使って話す。トトとアルフレッドも顔や手でよく会話する。二人が交わすウィンクは、もう本当にキュート。幼いトトが話す、舌足らずなイタリア語も、ものすごくかわいい。

そして、アルフレッドに滲み出る、ジブリ感。ハイジのおじいさんとか、釜爺に似ている…わけじゃないのだけれど、なんというか無骨で温かくて、チャーミングなところが共通している。キャラクターとして、とても絵になる感じ。そして、言葉の一つ一つに思いやりがある。

奇を衒ったストーリーではなく、主人公の少年時代、青年時代を振り返るという、よくありそうなお話。でも、何度も観たくなる。そして、何度観てもいい映画だなと思う。

昨日、久しぶりにこの映画を観た。私は、とても温かい映画だと思っていたが、改めて見返すとそんなにやさしい話だけが展開されるわけではなかった。

トトがアルフレッドの自転車にうれしそうに乗せられている(映画のポスターにもなっている)印象的な場面の次に、トトの家が火事になる場面が続く。それは、トトが映画のフィルムを火鉢の近くに置いたせいだった。別の場面では、アルフレッドが映画を観れない人たちのために、即席野外映画館を作ってあげている最中に、映画館が火事になって、アルフレッドは失明してしまう。好きなものに夢中になることや、優しさがあだになってしまう。

トトの母は、愛する夫が戦場から帰ることを待ち望んでいたが、彼が帰ってくることはなかった。そして、トトは青年時代に、エレナと恋に落ちるが、その幸せは永く続かなかった。そして、トトはその後も愛する人に出会えずにいる。

アルフレッドは、少年トトを故郷から追い出す。おまえと話をするより、おまえの噂話を聞きたい、と言って。映画「グッド・ウィル・ハンティング」でも、兄貴分の友人が主人公の背中を押す場面があるが、私はこういう場面にとても弱いようだ。一緒にいたいけど、いたくない。アルフレッドは、トトと最期に会うことなく亡くなってしまう。

こんなに切ない場面が多いのに、この映画は切ない映画というよりも、温かい映画として記憶していた。

陳腐な言葉になってしまうが、それは本物の「愛」がたくさん描かれているからだと思う。

まずは、トトの母の愛。大人になったトトに、「いつも電話に出る女の人が違う。どの人も心からあなたを愛している声ではない」という。それは、夫を心から愛し続けたからこそ出る言葉だろう。そして、母からトトへの愛に満ちた言葉だ。トトが映画に夢中になることを、あれほど嫌がっていたのに、アルフレッドの死を知らせなければと、トトに電話したのも母だった。

トトとエレナの恋愛。儚く美しい二人の青年期の愛。その後、二人が結ばれることはなかったが、トトがその後も運命の相手に出会えていないのは、エレナのことを忘れられていないからだろう。結ばれなくとも、本物の愛もあるのだと思う。エレナと再会する完全版もあるそうだが、そちらは観ていない。

アルフレッドの愛。映写室に入るなと言っても、なんだかんだと理由をつけて映写室に居座るトト。そんなトトに振り回されながらも、トトをかわいがるアルフレッド。アルフレッドは、トトにだけでなく、映画にも、映画を観る者にもを愛を注ぐ。「映画でみんなが笑っていると、自分が笑わせたような気になる」と話すアルフレッドだから、映画のせいで失明しても映画館を離れなかった。失明した後も、トトのいる映写室に来たり、あらすじを語ってもらいながら映画を観ている。もう少し技術の進歩がはやければ、アルフレッドは失明せずに済んだかもしれない。けれど、アルフレッドは失明してから前よりも見えるようになったと話す。目には見えない大切なものをアルフレッドは見ていたのだろう。

そんなアルフレッドから、トトへ残された遺品は、検閲でカットされたキスシーンをつなぎ合わせたフィルムだった。このフィルムを観る大人になったサルバトーレ(=トト)と子どものトトの表情が、よく似ているのがとても素敵。それまでのどこか冷たいような澄ました顔のトトが、くしゃっと崩れて笑顔になる。あまり顔自体は似ていないのに、こんなにも子どものトトのように笑えるんだ、と見ていてキューンとしてしまう。そして、アルフレッドからの愛が大人になったトトにも届いていることを実感する。


この映画を昨日観ていたとき、彼氏は泣いていた。泣いてるんじゃないよ、感動してるのと言っていた。でも、ハッピーエンドじゃないよ、最期に会えなかったよとも言っていた。私は、アルフレッドの愛を感じられるハッピーエンドと思っていたけれど、たしかに私だったら死ぬ前にもう一度会いたいだろうな。アルフレッドは会わないことで、愛を貫いたのだろうけど。映画の感想は違ったけれど、好きな人と好きな映画を観る時間はとても幸せだ。


最後に、この映画の音楽について。この映画の曲を演奏したのがきっかけで、この映画のことを知った。物語の始まりの心浮き立つとき、登場人物たちの愛が深まるとき、この音楽は物語に寄り添うように流れる。この穏やかだけどメロディックな曲に魅せられて、この映画と出会えた。そして、この映画を好きになって、この曲もますます好きになった。