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【ミステリーレビュー】水族館の殺人/青崎有吾(2013)

水族館の殺人/青崎有吾

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青崎有吾による"裏染天馬"シリーズ第二弾。

"館モノ"を皮肉ったタイトルはブラフではなく、その内容は正統派すぎるほど、正当派。
ラノベ風のキャラ設定や章のタイトルこそ、好き嫌いを選ぶのかもしれないが、高齢化が叫ばれて久しい本格ミステリー界、積極的にアップデートしていくことも読者層の拡大には必要なのだろう。
前作「体育館の殺人」は、密室から抜け出すという大きなトリックがメインテーマとなっていたのに対し、本作でのテーマはアリバイ崩しとロジックによる絞り込み。
11人の容疑者から、いかに真犯人を炙り出すかという、言ってしまえば極めて地味なテーマを、とことん突き詰めている印象だ。

取材として丸美水族館に訪れていた風ヶ丘高校新聞部。
取材の最中、血を流して水槽に落ちてきた飼育員が、そのままサメに喰われてしまうというショッキングな事件が発生した。
容疑者は11人に絞られるものの、全員に強固なアリバイが存在。
刑事の袴田は、妹の柚乃を通じて、「体育館の殺人」の謎を解き明かしたアニメオタクの高校生、裏染天馬に連絡を取ることに。
序盤は、アリバイ崩しがメインの題材となっているが、比較的序盤にトリックは裏染によって暴かれる。
いかにして誰が犯人かを特定する論理パズルこそ、本作の醍醐味となっていて、"読者への挑戦"にふさわしい内容になっていると言えよう。

テーマの地味さは、水族館を舞台に選んだスケールの大きさでカバー。
水族館の裏側に踏み込みながら、どうして犯行現場の状況が生まれたのかを推測していく工程は、知的好奇心をくすぐりながら高校生探偵の調査を追体験しているようで面白い。
ロジックをまくしたてる解決編には、なかなか理解が追い付かない部分もあったのだが、この緻密さがたまらない読者もきっと多いはずである。

なお、さらりと前作の黒幕のその後の立ち位置も書かれているので、ミステリーとしては単体でも楽しめるが、シリーズとして読破するつもりであれば、先に「体育館の殺人」を読んでおくことをお勧めする。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


部活の描写や因縁がありそうな登場人物は、結果的に物語に影響はなく、主要メンバーのキャラを立てるのみ。
既にキャラ立ちがしている第二弾としては、蛇足的な印象がないわけではないのだが、この後の展開の伏線にはなっているはずなので、続編に期待したいところだ。

動機については、前作同様、あえて深掘りしないスタンスなのだろうな。
性質上、動機から犯人に辿り着くことがないように配慮する必要もあったので、殺人の動機としては弱いものの、この辺だろうな、という感じ。
ただし、エピローグで、裏染によって更なる考察が語られるので、腑に落ちた感はある。
犯人当てにおいては、表向きの動機だけで十分、読者を納得させるための裏の動機も用意しておく、という二段構えは巧みであった。

スタイルは既に確立されており、安定感は十分。
動きを出したいところで、そろそろ、裏染のパーソナルに踏み込んでいきそうな気配が漂っているのも、続編を読みたい気持ちを加速させる。
続いて、"館モノ"第三弾の「図書館の殺人」を読んでみたいところだが、シリーズ的には、その前に短編集を読んでおいてほうがよいのだろうか。

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