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【ミステリーレビュー】○○○○○○○○殺人事件/早坂吝(2014)

○○○○○○○○殺人事件/早坂吝

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早坂吝のデビュー作となる、第50回メフィスト賞受賞作品。

あらすじ


アウトドアが趣味の公務員、沖健太郎が視点人物。
沖は、フリーライターの成瀬が開設したブログをきっかけに交流を深めた仲間たちと、毎年、黒沼が所有する小笠原諸島の孤島にてオフ会を開催していた。
ところが、メンバーのうち、ふたりが失踪。
唯一の交通手段であるクルーザーがなくなっており、彼らは孤島に閉じ込められる。
孤島を舞台にしたクローズドサークルの中で、今度は殺人事件が発生して......



概要/感想(ネタバレなし)


2014年に刊行され、2017年に文庫化。
文庫版では、大幅に加筆されているが、それでも300頁強と、だいぶコンパクトに読むことができるだろう。

あらすじを読めば、いかにもベタ。
怪我の跡を隠すために仮面を被っている人物や、針と糸を使う古典的な密室が登場することについては、ベタを通り越してもはやメタである。
もっとも、「○○○○○○○○殺人事件」というタイトルの時点で、メタ・ミステリーが前提となっているのは間違いない。
"読者への挑戦状"からスタートする構成にしても、幕間で"ミステリー読みならこういうことを考えるでしょ"という内容を先回りしてネタバレしていくスタンスにしても、ミステリーを読み慣れている読者を対象に書いている印象。
そもそも、フーダニットでもハウダニットでもなく、"タイトル当て"であると言い切ってしまっているところから、普通ではない。
そういう意味で、大いにふざけている作品なので、ミステリー初心者ではなく、重厚な作品を読み疲れたミステリー読みにこそ読まれるべき作風と言えるのかもしれない。

さて、やたら自信満々な"読者への挑戦状"。
どうにも、"読者への挑戦状"にて自信満々に断言されるほどの難易度の高さには見えないものの、なるほど、最後の最後でひっくり返される。
いや、よくよく考えるとひっくり返されてはいないのだが、それでも呆気にとられることは請け合い。
この"タイトル当て"は、確かに難易度MAXであった。
好き嫌いははっきり分かれそうだけれども、土俵に乗せた時点で、著者の勝ちであろう。



総評(ネタバレ注意)


"援交探偵 上木らいち"シリーズの1作目。
彼女が探偵役だとわかるのは、物語の終盤に差し掛かろうとするタイミングなので、あえてこちら側に記載。

トリックについては基本中の基本、ベタ中のベタ。
幕間で自らツッコミを入れるほどである。
要するに、本作の肝はそこではなく、大ネタに持っていくために張り巡らされている伏線にすぎなかった。
やはり、本作において驚かされるのは、殺人トリックではなく、タイトルに直結する大ネタと言えるだろう。
もっとも、この大ネタが、色々な意味で衝撃的。
演出過剰に見えたとある場面は、"南国モード"になった沖の二重人格感の演出かと思いきや、ちゃんと必要な行動だったのか、と案外腑に落ちる部分もあるので悔しいのだが。

これもある種のバカミスだろうか。
前代未聞すぎて、映像化は100%不可能である。
倫理観がおかしい上木であるが、この事件に巻き込まれ、解決に導くべき探偵像としては、彼女以外に考えられないと言えるのかな。
面白かった、がっかりした、の評価が真っ二つになりそうな本作。
これでデビューを狙うという胆力も含めて、飛び道具的には、なかなか興味深い1冊である。

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