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【名盤レビュー】inspire / La'Mule(1998)

inspire / La'Mule

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血糊と包帯というヴィジュアルがセンセーショナルであったLa'Muleの1stフルアルバム。

制作中にギタリストが脱退するアクシデントがあり、作曲や演奏を行っているメンバーと、アーティスト写真に掲載されているメンバーが異なるという、歪な状態でのリリースとなった本作。
ほんのちょっと悪い方向に歯車が動いていたら、これらの楽曲たちがお蔵入りしたまま世に放たれない未来もあったのかと思うと、背筋がゾッとする。
それほどに衝撃的で、20年超の時間が流れても色褪せないのが、この「inspire」というアルバムなのである。

La'Muleはその後にリリースしたミニアルバム「Curse」を先に聴いていて、お手本のようなダークバンドっぷりに心を惹かれていたのだが、どうも元から好きだったリスナー層からの評価が芳しくない。
これがLa'Muleファンにおける"貶し愛"の形なのか、それとも自分がズレているのか、と不思議に思ったりもしていたのだけれど、本作を聴いて納得。
ハードルが上がるに上がっていたのだ。
まして、コンポーザーが入れ替わったことでの音楽性の転換や、ブレイクを果たしたことによる路線変更など、従来からのファンにとっては不安要素が尽きない状況。
その心情は推して知るべし、である。

一方で、後追いする身としては、これ以上ないボーナスステージ。
メロディの良さが一番の特徴で、エッジの効いたサウンドと、疾走感のあるリズムが、それを補強。
仕切り直し的な位置づけの「Curse」に対して、まさに初期編成における集大成的な内容に仕上がっており、王道と邪道のバランスも絶妙に配分されていた。
粗削りな部分も多く、まだまだ未成熟な部分が残されているとはいえ、Vo.紺のか細い歌声は、カミソリのように鋭く痛みを表現。
もしかしたら、迷いや葛藤を抱えた中でのレコーディングになったことが、内向的な攻撃性を助長し、彼らの描く世界観を表現することにおいてはプラスに働いていたのかもしれないな。



1. MIRROR・MIRROR~鏡よ鏡 

ヌラヌラと揺らめく怪しいリフに、変則的なドラム。
語りやSEを効果的に用いたギミック重視のダークチューンで、淡々と、だけど中毒的に。
スタートに持ってくるには異質と言えるマニアックさを誇るが、それが本作のインパクトを生み出しているのも事実だろう。
歌詞はすべて鏡文字で表記。

2. inspire 

リードトラックとなるわけだが、良い意味で"アルバム曲"だと思うのだ。
確かにサビではじまる導入部分はキャッチーに映るものの、総合的には世界観を深堀するミディアムナンバー。
シャウトと台詞とメロディがカオティックに重なり合って、ドロドロとした様相を強めていく。
本質的になディープな楽曲だが、リードトラックに据えることで、一気に代表曲へと昇華。
La'Muleの新たなスタイルを見せつけて、リスナーを増やすきっかけにしたのは策士的だった。
歌メロに寄せた歌い尻でのシャウトは、なんだか妙に耳に残るのである。

3. Cry in past 

リリース当時は"裏"の代表曲。
人気投票で上位に食い込み、公認での定番曲にまで上り詰めた随一のキラーチューンと言えるだろう。
スタートダッシュの1、2曲目に邪道な楽曲を持ってきて、3曲目で爆発させるという構成は、セオリー的には珍しいと言え、助走が長かった分だけジャンプもでかい。
ほんのりと明るさが混じるからこそ、切なさが強調されたメロディアスナンバー。
ポップな歌メロとツタツタドラムのミスマッチが癖になるBメロから、高音に伸びていくサビへの流れが、特にたまらない。
ストレートに見えて、変則的なフレーズが多いのも彼ららしい。

4. モ・ノ・ク・ロ 

個の強い楽曲に挟まれた不運もあって、アクセント的な1曲になってしまった感もあるが、ワンフレーズを推すタイプの楽曲としては非常に凝っているのではないかと。
ダークさを纏って出陣し、ウネウネとマニアックに浮遊するBメロを経由して、急速に加速度を上げたと思いきやソリッドに切れ込む。
サビのインパクトに特化しているとも言え、案外、穴が見当たらないのが面白いなと。

5. Prism 

ヴォーカルも含めて全体的に淡々とした空気を持った楽曲だが、唯一、ギターだけがエモーショナルに鳴り響くのがポイントだろう。
本当の感情は、泣き続けるギターが代弁。
淡々と無表情気味のヴォーカルについては、表面上は平然を取り繕っているのを表現しているかのよう。
歌詞に描かれた物語についても、最後の一節で決壊する感情の機微が絶妙。
中盤のバラエティ性を支える、La'Mule史上屈指のバラードであった。

6. Mind Control 

一転して、ぐちゃぐちゃ、カオティックに攻めるハードチューン。
ハミング風のフレーズに発狂シャウト。
90年代コテコテ系バンドが切り開いてきた中毒性を高めるアプローチを巧みに操ると、人工物的なギラギラしたサウンドを演出に使い、オリジナルへと昇華している。
そろそろ欲しいと思っていたところで供給されるアングラ感。
次の曲へのタメとなっている側面もあり、構成力にはため息が出る。

7. 結び目 

イントロのリフだけで勝負あり。
このテンポ感、この旋律、このサウンド。
すべてにおいて"ヴィジュアル系"なのだ。
前のめりに走り続けるドラムや、少し一辺倒になりつつあるヴォーカルといった技術的に未熟な部分もひっくるめて、お手本的な1曲と受け入れざるをえまい。
作風としては捻くれている彼らだからこそ、正統派に向かったときの爆発力が大きいのだな、と。

8. eccentric Marxist 

ライブ映えする楽曲で、一度見たら忘れないフリもあり。
サビの華やかさだけで言えば、「結び目」を越えるのかもしれないインパクト。
ただし、この楽曲も序盤はウネウネしたサウンドでマニアックさを演出。
楽器隊とのコーラスワークも見られ、暴れ曲の要素を強く押し出している。

9. ウサギの罪 

アコースティック調で展開される、シリアスなバラード。
ギター1本と、紺の歌声のみという実にシンプルな編成で、4分強をしっとりと歌い上げると、迫力のあるバンドサウンドに変貌。
ここからは、ひたすらギターが泣き続けるインストナンバーと言えよう。
実に2分以上のアウトロが続くのだが、歌なしでも十分に聴き入ってしまう。
やや背伸びした感はあったのかもしれないものの、歌唱面でも演奏面でも、この楽曲を完成させたことで得たものは大きかったはずだ。

10. instead of tears 

「ウサギの罪」から更に続くように、涙腺を刺激するインストナンバーがラストを飾る。
アルバム1枚、すべてにおいてハズレなし。
その言葉には、当然この「instead of tears 」も含まれていて、歌入り曲と同等以上のパワーを持っていた。
確か「タイタニック」に影響を受けて制作された楽曲だったかな。


メロディアス=ストレートという図式を崩す、一筋縄ではいかない捻くれた楽曲構成を得意としていたのがよくわかる。
……なのだけれど、珠玉のメロディの印象が強すぎて、彼らの楽曲がどれほどまでに緻密に構築しているのかは、あまり意識することがなかったのでは。
視点を変えることで、また新たな発見ができる。
聴けば聴くほど味わいに深みが出る。
20年以上経ってなお、新たな一面を引き出し続けている1枚である。

#思い出の曲

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